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マウのいる国家は、およそ一〇〇パーセクほどの宇宙を統治していた。
かつては宇宙海賊や惑星間などで対立があったものの、いまは音沙汰がない。
それどころではなくなったという。
マウのいた宇宙軍は、謎の宇宙船団によって襲撃を受けた。当初は交信を試みたものの返事はなく、圧倒的な数の暴力で、軍は瞬く間に壊滅した。
この謎の船団に恐怖した宇宙軍は、軍備を強化し反撃。そして、捉えた敵の戦闘兵器を調べて驚愕する。兵器の中に生命は存在せず、すべて同一のAIより指示が送られていた。
宇宙軍はそのAIをユアンと命名。以後、ユアンとの戦争を激化させていく。
ユアンは分隊で行動していた。各部隊の中心には、「
宇宙軍は一度だけそれに成功し、エネルギー体は爆発。核が管理する兵器群は沈黙する結果に至った。
以後、宇宙軍とユアンは終わりなき争いを繰り広げている。
「私の軍も前線で戦っていた。だが、仲間の艦隊は次々と撃破され、私たちは後退した。ユアンの猛攻はすさまじく包囲されるのも時間の問題だった。
逃げきれそうになかった私たちは、ユアンのある性質に賭けた。
宇宙を跋扈する彼らだが、ブラックホールには入ろうとしない。私たちがブラックホールへ逃げれば彼らは追ってこないのではないか。一か八かそれに賭けたのです」
何度も相槌を打ち、想像を膨らませるコルト。
「マウさんが俺たちに攻撃をしたのは、追手だと思ったからですか」
「そのとおり。ユアンのコアは青白く光っている。あなたたちの船もそのように見えてしまった。精神がおかしくなっていたが、理由にならないな……」
首を垂れる彼に、コルトはゆっくり首を振った。
「だけど、それほどまで激しい戦闘なら、俺たちの宙域からでも発見できそうだけど。マウさんの統治国家はM87のどの方位にあったんです?」
「M87とは?」
戸惑うマウに、コルトは腕を組んだ。まさかこの名称だけ翻訳できないのか。
「俺たちが飲み込まれているブラックホールです。直径は一三万光年ですが、けっこう離れています?」
「オトメザギンガダン……」
ルナがぽつりと漏らした。
「いや、私が入ったブラックホールは、銀河の中心にあるものではない。巨大恒星くらいだよ。もしかしたらM87は観測範囲かもしれないが、私たちの銀河とは異なるな」
コルトは朦朧とした。
何が起きているのか理解できなかった。
広すぎる宇宙ゆえに、M87を中心に自分たちの国家の反対側に、マウやルナの惑星人がいるとおもっていた。だが実際は、どうだ。ブラックホールは次元を通じて別の銀河と繋がっているのか。
では、事象の地平面に入ったこの場所は一体なんだというのか。
「ちょっと待て! ルナ、お前のいた船はスパゲティ化したよな。あの船もM87じゃない、別のブラックホールから来たんじゃないのか」
ルナはそっぽ向いてセンサーの蓋を上げ下げする。
「メモリエラー。コタエルコトガデキマセン」
「おい!」
コルトは屈んで捕まえようとしたが、マウが腕を伸ばして制した。
「落ち着きたまえ。国家間とはナイーブなものだ。そのロボットの情報で我々が彼らの宇宙を侵略する可能性も限らない。真偽はともかく知らないほうがいいこともある」
「すみません……」
諭されてようやく冷静になる。生き残るため情報がほしかった分、頭に血が上っていた。だが、AIといえど別世界から来たものだ。いうなれば協力者にすぎない。
「こちらこそ出すぎた真似をして申し訳ない。お詫びといってはなんだが、協力させてくれないか。私一人では生き延びれそうにない」
「むしろ感謝します。協力者は一人でもほしいです」
「考エルコトハミナ同ジデスネ……」
ルナがコルトの足元でいうと、ミィミィがボディを軽く蹴った。
「ウゥ、痛イデス……横暴デス……」
「仕方ないじゃん。あんたが一番考えることわかんないもん」
ミィミィがいうと、ルナはピロピロ音をたてて抗議した。
「私ガ一番正直者デス!」
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