3

 道中は、事象の地平面に入ったときより順調だった。

 警戒していた隕石群や姿が見えない巨大な物質もない。幽霊船に合わせて進むだけ。

 項垂れていたミィミィは、アイスを食べたあとすぐに寝息をたてた。歯磨きするよう注意したけど、それどころじゃないのだろう。

 コルトは居住スペースからもってきた木製チェアに腰かけ、安堵の息を漏らす。船内に響いてくるパレードの演奏が心を穏やかにした。

 おもわず歌いたくなったけど、視界の端のミィミィが気になって止めた。

 せめて音楽に合わせた歌詞でも考えるか。

 小型デバイスを出して、メモ用のアプリを開く。


『幽霊と一緒に進むぜ 危険な海へ』


 センスのなさにすぐさま消した。

 自分の才能がないのか。ブラックパレード特有の、幽霊の感性なのか。

 ――こうして幽霊ゴーストのそばにいると、マクスタント家の教えが正しかったことがわかる。

 ブラックホールに立ち入るべきではなかったのだ。

 後悔が押し寄せて、濡れた瞳を腕でぬぐう。


 そのとき、奏でられていた音楽が、次第に小さくなっているのに気づく。

 モニターを動かすと、幽体の奥にオレンジの光の壁がそびえていた。一瞬慌てるコルトだが、精霊流しはその光の中へ次々と入っていく。

「なんだあれ……」

 何度も非常識な体験をしてきたはずなのに、また理性が常識の外に追いやられた。

 ミィミィは目が覚めたのか、帽子をかけなおしてモニターを見た。


「わーーーーー」

 変な声をあげていた。

「コルト、どうする? 逃げる?」

「無理だ。流されるしかない」

「人間って無力だね……」

 同感。

 胸中で呟きながらモニターを拡大する。オレンジ色の光は銀色の粒子が細かに動き、光同士が接触すると同時に輝いている。

「なんだとおもう?」

 問われたミィミィは腕を組んで唸った。

「うーん……天国?」

「ありえるかも」

 それが本当なら、自分たちの運命もこれまでだ。

「このまま死ぬのかなぁ、ボク。コルトみたいに遺書を残しておけばよかった」

「いまから書いたら? 遠い未来、誰かが読んでくれるかもしれない」

「縁起悪いからいいよ。どうせつまんないことを書くだけだし」

「そうかもな」

 命乞いするか駄々をこねるか、引き返せなんて無茶なアドバイスがせいぜいだ。

「神様に祈るしかないかぁ」

「リリ人も信仰心があるの?」

「リリ星は惑星に住む神々に感謝してその恩恵をもらって生きているんだよ」

「じゃあブラックホールにはどんな神がいるんだ」

「……死神かな」

「いい得て妙だ」

 演奏の音が次第に小さくなっていき、モニターがオレンジの光に包まれる。

 リバーシスが装甲が光とともに溶け、光に触れた皮膚から粒子となっていった。

 もう何度目の転移だろうか……。

 疑問を抱く前に意識が途絶えた。

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