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「ごーごーゴースト、みんな待ってる♪
ごーごーゴースト、俺嫌われてる♪
ごーごーごーごごー、仕事やめたい♪ 歌手になりたい♪」
ブォンと唸るエンジン音をBGMに、操縦桿をマイクに見立てて歌っていた。歌詞は即興、テンポも気まま。メロディも気分次第。
一仕事終えたこともあって躁鬱が激しい。しかもこれで終わりではなく、この積み荷を約束の場所まで運ばなければならない。
「お宝は発見できたか、葬儀屋」
暗黒物質宙域を抜けると、ぶしつけな音声通信が入った。この宙域を警備している宇宙国家の巡洋艦だ。相変わらず高圧的で嫌味なやつらだ。
「えぇ、御覧のとおり」
歌を遮られたので口調が尖る。
操舵室のモニターから、船の全体像と外周を確認する。宙域に入る前と異なるのは、上部の甲板にとりつけた船の残骸。それも半分しかなく、外装のあちこちに大きな亀裂や穴が開き、黒ずんでいる。切れ目から中の物が出てこないよう、無数のデブリに粘着性のゴムをつけて壁にしていた。
「流石だな。また中身のない棺が売れるじゃないか」
コルトは胸中で嘆息した後、船の速度を上げる。
「まさか、買うのを決めるのはクライアントです。俺には関係ない」
ただでさえ、悲惨な死体を見ているのに、葬儀に関わるなど死んでもごめんだ。
先刻、コルトが目にした『お宝』は凄惨極まるものだ。
船内は爆発したのだろう――壁や床の破片が人体を貫き、手足や胴体は千切れていた。顔の半分はなくなり、目玉が飛びでて脳がむき出しになっている。腹部からは腸がこぼれており、切断前のソーセージのように長く伸びていた。
死体が凍っていることを頭で理解していても、宇宙服越しで死臭を感じた。あの刺激臭が脳に刻まれて離れない。
「死体売りは高くて羨ましいね。こっちは安月給で散々だ」
「交換してもいいですよ? 仮眠してると誰かが耳元で囁いてきますが」
「冗談だろ。
嘲るように告げた後、一方的に切られた。
やれやれ、相変わらず冴えない中傷。こんなガキ相手にマウントとったって面白くないでしょうに。
「だはああああ」
おもわず大きな嘆息が漏らした。
宇宙士官学校を辞めて社会にでたものの、大人たちの悪意に精神がすり減っている。
「面倒くさい面倒くさい面倒くさい」
壊れた蓄音機のように何度もつぶやくが、心情はさして変わらない。
嫌になって椅子を倒すと、配線が伸びる天井をじっと見つめた。
正直、仕事を継ぐ理由を見出せない。
マクスタント家は、宇宙開拓時代から続く遺体専門の運び屋だ。開拓時代はコロニーの建造や未開地の探索など、宇宙での事故が無数にあった。毎秒が死と隣合わせのミッションで、コロニーの建造者も宇宙船のクルーも、死んだ人間を相手にする余裕はなかった。そこで彼らの代わりに死者を拾ったのが、マクスタント家の祖先だった。
宇宙技術が未発展な時代は、彼らの仕事は重宝され、みな感謝していた。
だが時代が移り、コロニーなど安定して建築が進められ、宇宙開拓の目途がたつと仕事は次第に減った。生者が増え死者が減っていくと、マクスタント家は死を呼ぶ風と忌み嫌われ、祖先は行き場をなくした。働きの場は未開拓とされる高濃度の暗黒物質宙域に限られ、そこでも死体漁りと揶揄される始末。
伝統を守るため、長男が家業を継ぐ――幼い頃から理解のあったコルトだが、継ぐのはずっと先だと思っていた。父が存命のときは士官学校を卒業した後、パイロットになって未開拓の惑星に入ろうとおもっていた。
ため息をついた後、身体を起こして宇宙空間を見つめた。
「なんでーありのまま生きられないんだー♪」
「私はー蟻ぃー、働き蟻ぃー足がもげても、働くんだぁー」
躁鬱が高まって歌い始めた。観衆がいなさすぎて泣きたくなる。
「自由がほしい……」
パタリとやめて瞼を閉じた。
宇宙国家が誕生し、世界は一〇〇光年まで活動範囲を広げた。だが、自分は家のしきたりに縛られている。宇宙には無限の可能性があるはずじゃないのか。
――父さん、なんでいなくなったんだよ。
遺言に書かれた自分の名。
三〇〇年より続くマクスタント家の生業を、自分の都合だけで途絶えることはできない。
(俺が辞めたら、弟が代わりにやらされるんだろうな……)
考えたくなかった。弟は生真面目で共感性が強すぎる。人の死や、他人の理不尽な仕打ちにすぐにつぶれるだろう。なにより運転がへたくそだ。絶対にパイロット向きじゃない。
「歯を食いしばって堪えるしかないのかな」
どこかへ消えた親を思いながら、疲れてそのまま眠った。
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