婚約破棄されまくる苦労令嬢は、ある日本当の恋を知りました

八重

第1話 また婚約破棄された

「フルーラ、君と婚約破棄したい」

「どこか私に至らない点などございましたでしょうか?」

「いや、何もない」

「──? では、なぜ」

「強いて言うなら面白みがない」



 そんな風に言われた私は脳内で浮かんだ言葉を7分後に自分の執事に愚痴るが、ひとまずその場では目の前にいる婚約者様に笑顔で「かしこまりました」とおしとやかに伝える。 

 すまない、と口にすると、あとで父上を通して手紙や婚約破棄に関する書類を送るからと一方的に去られた。

 後でわかったことだが、婚約者様……あ、婚約者様だった方はあるご令嬢に入れ込み浮気をしておりました。

 そんなことはつゆ知らずに私は婚約破棄現場である自分の家の庭から自室へ戻ると、先述した脳内の言葉を私専属執事のシリウスに伝える。


「なんなの、あんの唐変木っ!!! 私を振るなんてしかも婚約破棄なんて信じらんない!!」


 私の投げ捨てたコートを拾い上げて埃を払うと、彼はそっとしなやかな手付きで自らの腕にかけて持つ。

 黒髪のサラサラとした髪を輝かせて、彼は私を宥めるように言う。


「まあ、お嬢様。男は星の数ほどおりますから、次はお嬢様を大事に思ってくださる方が見つかりますよ」

「それ2年前にも聞いた。そのとき強気な性格が理由で振られた私にあなた言ったわよね?! 『お嬢様、次はおしとやかにされてはいかがですか?』って。その結果がこれよっ! どう責任取ってくれんのよ!!!」


 私は長く色素が薄めの金髪(癖でウエーブしてる)を振り乱しながら抗議するも、彼は素知らぬ顔で笑顔を見せる。


「お嬢様、執事の私には出来かねることでございます。また旦那様が素敵な方を見つけてくださいますよ」

「もうだからその答え聞き飽きたっ! お父様が見つけてくる男性ひとはろくな人がいないわ」


 呆れたようなため息が斜め後ろから聞こえてくるが、私は完全に無視してベッドへ寝ころびに向かう。

 そんな私に、ドレスがしわになりますよといつものように小言を言ってくるシリウスだが、これまた意に介さずに目をつぶる。


 こんな私を嫁にもらってくれる人など現れるのだろうかと少し落ち込みながら、私は目を閉じた──

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