殺人鬼『R』
赤目
プロローグ
「よし!これで全員揃ったな!じゃあ入るか。」
「あれ?
俺たちは舞台が成功したと言うことで少しお高めの居酒屋に打ち上げに来ていた。まだ完全には落ち切っていない太陽の最先端が地平線から顔を出している。
「いらっしゃいませー、何人様で、?」
「8人で予約していた、武田です。」
「ではお席ご案内しますね。」
店員の響くような声が油臭い店内に轟く。煙たい空気が、開けたドアから俺たちを縫って、出て行く。
店員に案内されるまま俺たち7人は団体組のための大広間に向かう。そしていつも通りの並び順で薄いクッションに重い腰を下ろす。
俺の隣には
因みにこの打ち上げを持ち出したのも、この店を予約したのもこの『武田 一角』である。
そして俺の対面に座っているのがこの舞台サークルの監督である新玉さん。大学四年生だが一年留年してまでサークルをまとめてくれている心服に価する人だ。将来の夢は舞台監督でその夢を必死に追いかけている。
「新玉さんは生ビールでいいですか?」
「よろしく。」
「他は、、、飛騨先輩と、
俺はほぼ対角線上でちょこんと座りながらメニューを眺めている桂に聞く。桂は少しびっくっとした後「あぁ、うん。ありがとう。」と肯定した。
それでも演劇では驚くほど人が変わる役者体質で、役が憑依したかのようにハキハキと喋り、その役を演じる。
「先輩はお酒飲まないんですか?」
「俺はまだ成人してないからなー。」
「そうなんすか?!」
「俺はあと三ヶ月後に飲めるようになるな。」
「じゃあ誕生日パーティーしましょうか!」
一角は瞳に、居酒屋の明かりを映しながら俺の誕生日パーティーの提案をしてきた。一角は何かとパーティーや会を開きたがる。まぁたまには息抜きにもなり、良いのだが。
「じゃあ注文しちゃいますねー。」
「おねがーい」
「おー、、やってるねー。」
「あーっ、太陽!やっと来たー」
「主役は遅れてやってくるっていうだろ」
飛騨先輩はそう言いながら俺の3つ隣、白銀さんの左の席に座る。『
「では、全員揃ったということで!改めて!カンパーイ!!」
「「カンパーイ!!」」
かちゃんっ!とグラスとグラスがぶつかり合う音が席中に鳴り響く。みんな笑顔だ。飛騨先輩を除いて。
飛騨先輩は舞台にならないと表情がほとんど変わらない。それでも頭に残るような重低音の声は大学内でも人気が高く、ファンクラブがあるほどだ。
そしてその一輪の花を手にしたのは
「唐揚げとポテトフライでございます。」
「ありがとうございます。」
無愛想だが礼儀正しい飛騨先輩は店員どころか年下の人にも敬語を使ったりする。特に女性には「超」が付くほど優しく、その紳士ぶりに惹かれる女性は多い。
同い年の『
「
今回の主役と言っても良い、『
「うん。俺は良いかな。あんまりお腹減ってないんだよね。」
「食べれば良いのに。ここの唐揚げ美味しいんだよ。」
「そっか、じゃあ一つ貰おうかな。」
「はいっ、どうぞっ!」
それと同時に俺の皿に唐揚げを放り込む。「香織の箸で掴んだ唐揚げ」という事実を気にしていないと言えば嘘になる。
香織は俺や桂と同学年の2年生で先ほども言ったようにこの打ち上げの主役でもある。いつもは白銀さんがヒロインを務めているのだが、今回は新玉さんが香織がヒロインの物語の題材を用意して成功を収めた。
容姿端麗で勉強もそれなりにできる。一角のように四文字熟語で表すなら、「才色兼備」と言ったところだろうか。この大学でもカリスマ的存在だ。
俺はそんなことを頭の中で考えては忘れ、考えては忘れ、を繰り返し、唐揚げを眺めていた。
「ちょっとー、良い感じじゃないっすか。」
一角が横から俺の左腹をつついてくる。
「何がだよ。」
「いやいや、香織先輩といい感じってことっすよ。」
俺は驚いて左斜めに座る香織を見る。聞かれていては俺の心臓が持たない。嫌な予感は外れ、香織は残りの唐揚げを頬張ることに必死で俺たちの話は聞いていなかったらしい。
このサークルは、誰が誰と何の話をしているかなんて基本興味を持たない。ということもあり、俺は一角との話を続けることにした。
「あのな、俺は別に香織に気があるってわけじゃないぞ。」
「確かにそんな感じしますね。先輩にはちょっと高嶺の花っす。」
「おい、」
俺は苦笑しながら一角のほっぺたを軽くつねる。
「これは失礼」
一角も二割ぐらいの反省と残りの八割のお遊び感覚で謝罪する。
「一角、お前なぁ、
前から俺を褒める言葉が聞こえてきた。顔を正面に向けるとそれは新玉さんだった。そりゃさっきから席を変わっていないので当たり前なのだが。
「そうなんですか?飛騨先輩の次に無愛想だと思ってました。」
「なんでそこで俺に飛び火くるんだよ!」
一角の言葉に間も開けずに飛びついた飛騨さん。その場の全員がどっと笑いに包まれる。
これも青春の1ページになるんだろうと俺は俯瞰的にもそう思っていた。そして、そんな俺たちは知る由もなかった。
この後、壮絶な物語が幕を上げることを。
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