四 偽りの村 四

 にもかかわらず、何故か彼女を保護し損なっていると自分で自分を批判したくなってきた。


「まだちゃんとは説明してなかったな」


 とりあえず当たり障りのない要領で自分の非を認め、岩瀬はかいつまんで成り行きを伝えた。


「そうか。記念撮影を……」


 薄山は、腕組みして深く考え込んだ。


「お前もきたら良かったじゃないか」

「足が治ってない」

「すまん、そうだったな」


 再び沈黙が流れた。


「道具というか、廃材はまあこの家でも隣でも適当に調達するとして……ケガが治ってないなら医薬品でも残ってるといいな」


 不器用ながら、岩瀬としてはなんとか薄山に配慮したつもりだった。


「ちょっと歩けば診療所があるよ。もちろん、完全に潰れてる。はっきりいってどの薬品もとっくに期限切れだろうし」

「そ、そうだよな」

「むしろ、車輪つきのベッドとかシーツとか湿地を渡るのに必要な品を補充するなら役にたつかもしれない」

「じゃあ早速……」

「俺も天邪鬼に会ったんだ」


 いきなり相手を仰天させるのが薄山の会話術なのだろうか。


「ええっ!?」

「包丁を持っていて、斬りつけられたよ。ただ、追いつこうと思えば追いつけたのにわざと足を緩めていたな」

「なんだそりゃ」


 ただでさえ掴みどころがないのに、なにがしたいのかさっぱり理解できない。


「苦し紛れにこの家に逃げ込んだら、どこかに消えた。やろうと思えば押し入ることもできたのにな」

「訳がわからん。ドアを閉めたのか?」

「いや、壊れていて動かない」


 薄山は、ちらっと開いたままの勝手口を見た。ちょうつがいが錆びるか何かすれば、開け閉めできはしないだろう。


「ここまで待ってこないのは、つまりこないということだろう。油断はできないし、路上にでたらどうなるかわからない」


 薄山の推察は、頼もしくもあり不安でもあった。いつまでもここで籠城するわけにはいかない。


「いっそ二人がかりで天邪鬼と対決するか?」


 岩瀬としては、まんざら捨てたものでもない意見のつもりだった。


「俺かお前が捕まりでもしたら最悪だよ」


 薄山の回答は正確にして無慈悲だった。


「この家にだってナイフかなにかくらいあってもいいのにな」


 愚痴めかして岩瀬はつぶやいた。


「俺もそう思って探したけど、なかったよ。それより、明日まで寝ないか? 交代で見張りをして」


 暗いままでは何をするにも不便で仕方ないのは岩瀬にも異論ない。


「そりゃあ名案だけどさ、寝る場所あるのか?」


 岩瀬からすれば、泥だのカビだのにまみれた寝床はできれば遠慮したい。


「二階に行けばちょっとはましな布団があるよ。一応、虫干ししといた」


 すなわち、薄山は日をまたぐ前提で行動した話になる。

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