フェンリルの子供たち
志村麦穂
怪獣に関する資料 グレイプニル機関内部文書①
『怪獣の出現と組織の沿革(草稿)』 筆記者 階堂玲央奈
この世界に“怪獣”と呼ばれる巨大な生命体が現れたのは、2090年以降のこと。
はじめて確認された個体は、突如として旧東京の街区、新宿に影を落とした。ひとつ全長20フィートにも及ぶフットスタンプは道路を陥没させ、振動がビルの窓ガラスを地上に降らせた。しかし、当時の記録にも、人々の記憶にも、怪獣そのものの姿を見たものはいない。後にメディアにて“オーメン”と呼ばれることになる怪獣の予兆現象は、各地で頻発していくことになる。
オーメンはフットスタンプ、陰影投射、幻聴咆哮に代表され、発現当初は設備の老朽化や気象現象としての説明がなされることになった。大掛かりな悪戯や陰謀論を唱える向きも一般に広く信じられ、オカルトブームを巻き起こすに至った。グレイプニル機関は、早い段階から怪獣現出論があったことを利用して、人々の間に噂話としてオーメンの真実を浸透させていった。
世間一般に、オーメンが怪獣現象の先触れだと認識されたのは、2099年12月31日0時24分からのわずか90秒間、肉体の顕現を伴って出現した最初の怪獣“プロトセリオン”以降のことである。プロトセリオンの現出は十秒にも満たないものであったが、現出中心地からの半径3kmの広範囲に及ぶ破壊をもたらした。彼の巨大怪獣はそれ以降の怪獣と比較しても類をみない巨大さで、視認されたのは空から降ってきた巨柱のような脚部のみであった。
予兆現象を調査するために組織された科学調査チーム怪獣対策室――Anti-Monster Organization(通称AMO)と、怪獣現象の原因を生み出していた宇宙物理研究所――Astrophysics Laboratory(ASLA)が統合され設立されたのが、“グレイプニル機関”である。
当初、AMOとASLAは怪獣現象の解明という点では一致していたが、排除と利用という目的の相違で対立していた。怪獣災害が甚大な被害を及ぼすようになり――あるいは、怪獣現象の最終到達地点が解明されたことにより――両組織の目的が重なりあった。
グレイプニル機関の最終目標は、怪獣の殲滅である。
この解釈には一切の誤解なく、また寸分の余地もないことを、明記しておく。
怪獣は滅ぼすべき対象であり、人類の敵である。
※怪獣現象の名称に関する追記
組織統合前、AMOとASLAの怪獣現象に関する名称は、個別に異なるものが用いられていた。統合に際して、利便性の高い名称を両者からそれぞれに採用したため、各自の由来が混在した状況となっている。
原則としてAMOは怪獣現象を北欧神話におけるラグナロクになぞらえ、ASLAはヨハネの黙示録からインスピレーションを得ている。
(筆者の記憶では、AMO出身の職員間では予兆現象のことを“フィンブルの冬”と呼んでいた。単に“冬来る”とも。こちらは有名なドラマから借用されたものと思われる。)
<余白に走り書きされたメモ>
・組織、怪獣に関する簡易年表
2082 ASLA設立
2085 ASLA、
2090 怪獣による予兆現象の確認(旧東京 新宿)
2091 素子感応症(過敏症) 国内症例1号
2092 国内症例007号、鞍馬祥子発症
ASLAによる感応開発実験の開始(祥子8歳)
2092 AMO設立
2094 鞍馬祥子、オリジン開発実験の凍結
2099 世界初の怪獣顕現確認“プロトセリオン”の顕現 十五年前・祥子15歳)
2100 ナンバーズ計画の始動(祥子妊娠・出産)
2105 第一次怪獣侵攻
2105 グレイプニル機関創設
2107 第二怪獣侵攻 初の
2110 対怪獣部隊グレイプニルの実践投入
2111 対怪獣防衛都市の建設完了
2114 第三次怪獣侵攻
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