第34話
2人が去り、リリアーヌと二人きりになった。
「危ない所でした。」
リリアーヌが言う。
「お嬢様にとっても、ダリアが側仕えではやりにくいでしょう?」
「そうかしら?」
「ダリアは典型的な貴族の側仕えです。」
「典型的?」
「従っているようにみえて、方向性の下道を整える。そういう側仕えです。」
「ふむふむ。」
「お嬢様相手でしたら、お菓子や料理をちらつかせ、簡単に方向性を指針出来るかと。」
私が簡単な女って言いたいのか?えっ?
「お嬢様は私の事を舐めておられるし、私の方が、我が儘出来ていいとお思いでしょう?」
「・・・。」
な、舐めてはいない。すこ~しだけ、チョロいとは思ってる。
「今後は私もより厳しく、お仕えさせていただこうかと。」
「リリアーヌは、もっと優しくした方がいいと思うわ。」
「お嬢様の為ですので。」
ぬぬぬ・・・。
翌日。
私は考えた。
だって、リリアーヌがアップデートして、厳しくなったら、たまったもんじゃない。
何とかならないか・・・。
何一つ思い浮かばなかった。
午前の授業を終え。
って、授業多くね?あれ?
と、とにかく頭を捻りながら、エヴァーノの所へ向かう事にした。
幸い、今日は一人。
ああ、気が楽だ~。
が、一歩、館を踏み出せば。
黒く大きな獣が凸って来る。
言わずもがなクロヒメだ。
ウザいくらい顔を私の頬になすり付けてくる。
乗る?乗る?
乗らねえよっ!
仕方なしに、頬撫でた。
そのまま、私とクロヒメは、エヴァーノの所へ向かった。
エヴァーノの所へ行くと、ネットの上に薄く切られたフルーツが大量に干してあった。
クロヒメが、それらをジーっと見つめ。
食べれるの?食べていいの?
と首を傾げている。
「駄目よ、クロヒメ。エヴァーノに怒られるわよ。」
「クロヒメ、こっちにおいで。」
エヴァーノに呼ばれ、喜び勇んで駆けていくクロヒメ。
うむ、完全に餌付けされてるね。
私はエヴァーノと二人、使用人の屋敷内にあるエヴァーノの部屋へと入った。
クロヒメはエヴァーノにフルーツを貰い、満足した後は、その辺りでのんびりとしている。
「エヴァーノはフレーバーでも作ってるの?」
「ああ、そうだよ。フルーツが有り余ってるからねえ。」
そう言って、エヴァーノはフレーバー入りの紅茶をいれてくれた。
「お、美味しい・・・。」
今まで飲んできた、どの紅茶よりも美味しかった。
フルーツの香りとフルーツの酸味、フルーツの甘味が紅茶とマッチして、至高の香りと味を紡ぎだしていた。
まさに紅茶の宝石箱や~・・・。
うん、それはおいておこう。
「これ紅茶もエヴァーノがブレンドしたの?」
「ああ、フレーバーと調和させるのに苦労したけどね。」
「自分で、いれたいのだけど、フレーバーと茶葉を貰っていい?」
「ああ、構わないよ。」
「これだったら、鉄仮面三姉妹も驚きそう。」
「おやおや、悪巧みだね。しかし、あの三人にお嬢さんが紅茶を淹れるのかい?」
「そうなのよ。」
私は、三人が私の部屋で休憩を取っている事を告げた。
「まったく、何をやっているんだか・・・。エルミナまで、お嬢さんの部屋に?」
私はコクリと頷いた。
「はあ、しょうがないねえ。茶葉とフレーバーを用意しておくから3人を驚かせてやりな。」
そう言って、エヴァーノはニコリと笑った。
夕方になり、いつもの様に3人が私の部屋に揃う。
ふっ、驚きなさいっ!
私を含め4人で、ティータイム。
「「「・・・。」」」
3人、絶句。
言葉も出ないようだ。
ふふふ、勝ったな!
「・・・、お嬢様、このフレーバーはエヴァーノですか?」
ダリアが聞いてきた。
「ええ、大量に作ってたから、お茶会でも使えるんじゃない?」
「そうですか。」
「ブレンドも絶妙ですね・・・。」
エルミナが言った。
「お一人でエヴァーノの所へ?」
一人だけ感想じゃなかった・・・。
「一人ではないわ。」
うん、一人ではない。クロヒメが居たし。
「クロヒメ以外に誰が?」
「・・・。」
こ、これがアップグレードしたリリアーヌかっ!
「敷地内をお一人で散策するくらいで、目くじらを立てるのですか?」
ダリアが言ってくれた。
「別に目くじらを立てている訳ではありません。」
そう言って、ぷいっと横を向くリリアーヌ。
「せっかく、お嬢様が淹れてくれたのです。言い争いはせずに堪能してはどうかしら?」
エルミナの言葉に二人は無言でうなずき、休憩時間のティータイムは終了した。
翌日、午前の授業が終わり・・・。
っておい、絶対おかしい。
予定が入ってない日が無い。
「ねえリリアーヌ、予定が詰め込みすぎじゃない?」
「王宮に行く日と、レントン商会へ行く日が組み込まれましたから、仕方がないのでは?」
「むっ・・・。それなら剣の授業を無くせば?」
「王宮騎士団と揉めた手前、今更、不可能でしょう。」
「くっ・・・。」
「乗馬の時間を無くせばクロヒメが暴れかねませんし。」
リリアーヌの言うとおりだ。
「王宮に行く日か、レントン商会へ行く日を調整するしかありませんが・・・。」
ぐぬぬ・・・。
諦めよう。
昼食も終わり、今日はお母様もダリアも居ない為、自室で、ボーっとしてた。
昼寝でもしようかなあ、何て考えてるとノックの音が。
ベットメイキングか、掃除かな?
私の部屋には側仕えも使用人も勝手に入る。
もちろん彼女たちの仕事なのだから、仕方がない。
2人の使用人の若い女性が入室してきた。
いつも、掃除や、側仕えの補助をしてくれている女性たちだ。
年齢は、まだ十代だと思われる。
「あ、あのう・・・。」
一人が私に声を掛けてきた。
あまり、話しかけられることはないのだが。
「何かしら?」
「わ、私達、休憩中なんですが・・・。」
「(。´・ω・)ん?」
休憩中に何だろう?
「お、お嬢様が淹れたフレーバーティーが飲みたいなあと・・・。」
誰だ、使用人にまで自慢した奴は・・・。
「あなた達っ!何を考えているのですかっ!」
リリアーヌが叱った。
いや、あんた。よく叱れたな?
えっ?
私が不審の顔で、リリアーヌを見上げると。
「な、何か?」
「別に・・・、いいわ2人とも、そっちに座って頂戴。」
「「あ、ありがとうございます。」」
「お嬢様っ!」
「じゃあ今後は、私が紅茶を淹れるのは全面的に辞めればいいのね?」
「それでは、お嬢様の特訓になりませんよ。」
「特訓が必要なのかしら?」
「・・・。」
昨日の出来で、何か文句があれば言ってもらおうかっ!
もちろん、リリアーヌは何も言わなかったが、二人の使用人と共にテーブルについた。
えっ?あんたも飲むの?
仕方なく私は、4人分のフレーバーティーを淹れた。
暇だったからいいんだけどね。
「「・・・。」」
2人の使用人は絶句。
美味しいと言われるより、絶句してもらった方が、気分がいいのは何でだろう?
「お嬢様、大変美味しいです。」
シレっと言いやがるリリアーヌ。
「あなた達も感想くらい、言ったらどうなのですか?」
いや、そんな無理に言わさなくても。
「お、美味しいです。」
「い、今まで飲んだ飲み物で一番です。」
大絶賛してくれた。
しかし、アレだ。
これで、また評判になったら、使用人が一杯来るのかな?
夜の側仕えのティータイム。
今日は3人とも静かだ。
何せ、なぜかお母様もいるからなんだけども。
「エルミナとダリアが揃って休憩を取るから、何かと思えば。」
「「・・・。」」
「まったく、困ったものです。」
堂々と座っているリリアーヌが言った。
「あなたは休憩中なの?」
「私はお嬢様の特訓にお付き合いしております。」
「特訓ねえ?」
お母様相手でも、相変わらずのリリアーヌだ。
私はフレーバーティーを5人分淹れた。
一応、エヴァーノからは5種類のブレンドを教わっているので、まだ味は被っていない。
「ありがとう、アウエリア。」
「どういたしまして。」
お母様は、私に礼を言うと、一口飲む。
「っ・・・」
おっし、お母様の絶句頂きましたっ!
「ダリア。」
「既にエヴァーノに話はしました。お茶会での使用は可能です。」
仕事速いね、ダリア。本当、優秀だ。
「エヴァーノが作っているのね。」
「今年はフルーツが余り気味と言ってました。」
私が回答した。
「素晴らしいわ。アウエリアも、こんな短期間で上達するなんて。」
「いえ、私なんて、まだまだです。」
まあ、普通の紅茶なら、鉄仮面三姉妹に及ばないだろう。
「奥様、お嬢様の紅茶が評判になり、使用人の中にもここに来る者が出始めました。」
「まあ、それは困った事ね。でも、それをあなたが言うのは、どうかしら?」
フフフとお母様は笑いながら、リリアーヌに言った。
「わ、私はお嬢様の専属ですので。」
「まあ、そういう事にしておいてあげるわ。ダリア、使用人たちが、これ以上、アウエリアの紅茶を求めない様にして頂戴。」
「畏まりました。」
「そもそも、まともに紅茶を淹れる事が出来る使用人が少なすぎるのでは、ないでしょうか?」
エルミナが言った。
「あら?そうなの?まともに淹れられるのは誰かしら?」
「ここに居る4人と・・・。」
おいっ!それ私を入れてない?
私は、使用人ではないわよっ・・・。
「執事長にエヴァーノと、あとは家令でしょうか。」
「えっ?たったそれだけなの?」
エルミナの回答に、お母様はビックリしていた。
そもそも私と家令が紅茶を淹れる事はまずない。
執事長が紅茶を淹れる事もないだろう。
格上の貴族が来たりすれば、あるかもだけど。
エヴァーノは、引退した身だし。
ということは、鉄仮面三姉妹のみ?
大丈夫か、ピザート家(うちのいえ)。
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