第24話

「ふざけんじゃねえっ!A級冒険者に参加させる訳ねえだろっ!」


店主が怒鳴り声をあげた。


ですよね~。


「人違いです。私は旅のハーフエルフです。」


「ぶあぁかかっ!自分の事をハーフエルフなんて堂々と言うエルフは、A級冒険者のヘスティナ以外いねえんだよっ!」


「では、腕づくで。」


「ちょ、待て、早まるなっ!そりゃあ強盗だろうがっ!」


「そもそもA級冒険者が、参加できないなんて、何処に表示してるんですかっ!」


ヘスティナが逆切れした。


「そこに、デカデカと書いてあんだろがっ!」


的屋のおっちゃんが言うように、デカデカと書いてあった。


C級以上の冒険者は、お断り。


「実は私、こうみえてD級冒険者でして。」


み、見苦しい・・・。


「いねっ!商売の邪魔だっ!」


ヘスティナは、とうとう追い出されてしまった。



「理不尽な店主でした。ヤッてきましょうか?」


トボトボと帰ってきたヘスティナが、物騒な事を言い出した。


「やっちゃ駄目でしょうっ!」


この人には、はっきりと言っておかないと、とんでもない事をしでかしそうだ。

という事で、私はハッキリと駄目だしした。


「まったくエルフという奴は、物事の道理を知らない。」


ディグレットさんが、呆れたように言った。


ヘスティナさんが、アレなのはこの際置いといて。

2、3千ゴールドする原石なら、悪くはないわね。


「リリアーヌ、300ゴールド。」


私が言い終わると同時に300ゴールドが手渡された。


なるほど、私の行動は読まれてたのね。

まあいいわ。


「おっちゃん、はい。」


そう言って、私は300ゴールドを的屋のおっちゃんに手渡した。


「えっ?お嬢ちゃんが参加するのか?」


「ええ、そうよ。」


「いやあ・・・でもなあ・・・。」


「じゃあ代わりにヘスティナが参加しても?」


「そりゃあ駄目だ。」


即、却下された。


「おいおい、子供を苛めるなよ?」


「誰か衛兵を呼んで来いよ。」


野次馬が煽りだす。


「わかった、わかった。お嬢ちゃんはボール1個だ。」


「へえ、後悔しない?」


「ははは、凄い自信だな。ボールが体に当たっても泣くんじゃねえぞ?」


いや、当たらんし。


ぶん、ぶんっ


私は木の棒を振った。


うん、剣に比べれば、軽い。そりゃそうだ。


「んじゃあ、行くぞ、お嬢ちゃん。しっかりボールを見るんだぞ~。おりゃっ!」


十分、本気じゃん。

勝たせる気は微塵もないようだ。


がっ。

脳筋の剣に比べたら、遅い遅い。


私は難なくボールを叩き落した。


「なっ・・・。」


絶句する的屋のおっちゃん。


こういう時、前世の的屋なら、今のは無しとか言って、子供をだまくらかすんだが。

これだけ目撃者がいれば、それも出来んだろ。


むしろ、そんな事したら、確実にヘスティナにヤられちゃうよ?


「くっ、ちきしょーっ、持ってけドロボー。この中から好きなのを持って行きなっ。」


大人しく観念したかと思えば・・・明らかにクズ石ばかり。


「さっきのと違うでしょ?」


「そうかい?賞品は、この中からって決まってんだがな。」


「あっ、そう。ヘスティナ、ヤっちゃって!」


「お嬢様の許可も出た事ですし。」


ヘスティナは、嬉しそうに剣を抜いた。


「ま、待て。ま、間違えた。」


的屋のおっちゃんは、観念して見世物の賞品を取り出した。


まったく・・・的屋がろくでもないのは全世界共通か・・・。


「お嬢様、こっちの方が高価ですよ。」


そう言って、エンリが何処から出したのか、超高価そうな宝石を差し出してきた。


「ちょっ、馬鹿っ!それは賞品じゃねえっ。仕入れた宝石だ。」


シャキンっ!


ヘスティナが、的屋のおっちゃんの首筋に、剣を当てた。


「店主、私の問いに命を賭けなさい。これは賞品ですか?」


いや、これもう恐喝じゃね?

しかし、まあ的屋には一ミリも同情は出来ないんだけど。


「しょ・・・賞品です。」


いい年した、おっさんが泣いた。

み、みっともねえ・・・。


「では、お嬢様。遠慮なく、これを頂きましょう。」


鬼や、鬼がおる。

エンリが、完全に鬼と化してる・・・。


もういいや、それで。

私は呆れて、その場を後にしようとしたのだが、私を止める者があった。


「ちょっと待ってください。」


私を呼び止めたのはヘスティナだった。


って、あんたが止めるんかい。


「お嬢様、勝負いたしませんか?」


「「はっ?」」


私の素っ頓狂な声と的屋のおっさんの声が重なった。


「店主も、少しは儲けたいでしょ?」


「お、俺に胴元をやれってか?てか、お嬢ちゃんとA級冒険者じゃあ、賭けにならんだろ?」


なんで、勝負しなきゃあ、ならんのよ・・・。


「お嬢様に1000ゴールド賭けましょう。」


リリアーヌが言った。


「じゃあ、ヘスティナに100だ。」


「俺は200だ。」


何やら野次馬まで盛り上がってきた。


「胴元が10%とったって、大した儲けにゃあ・・・。」


泣きそうだ。

というか、さっきまで泣いていた、おっさん。


「では、お嬢様に5000ゴールド賭けましょう。」


「「お、おおーっ!」」


野次馬が更に盛り上がる。

気が付けばヘスティナに賭けられた総額は、3万ゴールドを超えた。


「これで少しは、胴元も儲かるでしょう?」


「そうだが・・・。」


「最初から、大人しく賞品を出さないから、こんな目にあうのです。」


「うっ。」


ヘスティナに正論を言われ、的屋のおっちゃんは何も言えなくなった。


「そもそも、何で私が勝負しなきゃならないのよ。」


私はヘスティナに苦言を呈した。


「今更、後には引けませんよ。お嬢様。」


周りの盛り上がり具合が半端ない。


そりゃあ、そうだが。


一つだけ叫びたい。


こんだけ野次馬が居て、私に賭ける奴は居らんのかいっ!!


「お嬢様、必ず勝ってください。」


リリアーヌが真剣な表情で言ってきた。


「何で?」


「お嬢様が勝利すれば私のへそくりが、2万ゴールドに!」


「負けたらどうなるの?」


「5千ゴールドは必要経費として処理します。」


こ、この女・・・。


リリアーヌにすっかり呆れて、私はヘスティナに対峙する。


「お嬢様、それでは、いき・・・。」


ますと言い終わる前に投げやがった。

何て女なのっ!


私は、瞬時にボールを2つ叩き落した。


あれ?2つ?


ふと見ると、私とヘスティナの丁度、中間あたりで、ボールが浮いていた。


「は?」


突如ボールが地を這うように、私へと向かってくる。

その速さは、先ほどのボールの速さの比ではない。


ま、魔法?

あふぉなの?ヘスティナっ!


「んなっ!」


私はギリギリで足元を狙って、飛んできたボールを叩き落した。


「「「「おおおおおーっ!」」」」


野次馬たちが盛り上がる。


いや、あんたら、負けたのに。いいのかそれで?


「い、今のは、練習です。」


往生際の悪いヘスティナだったが。


「既に賭けは成立しました。」


3万ゴールドを手に、ご満悦のリリアーヌ。


2万5千ゴールドはいいけど、5千ゴールドは家のお金でしょ?

と私は、冷静に心の中で突っ込んだ。



帰り道、ヘスティナが私の手を握る力が強かった。


どんだけ負けず嫌いなの?

ぎり、痛いくないからいいようなものを。

手を繋ぐなら力加減っていうものがあるでしょうにっ!


「お嬢様、私と一緒にS級冒険者を目指しませんか?」


脈絡もなく、突拍子もない事を言い放つポンコツエルフ。


A級冒険者だろうが、知った事ではない。

もうこの人は、ポンコツエルフで決定だ。


「お嬢様が冒険者になる事は、ありえません。」


反対側から、リリアーヌが抗議の声を上げた。


まあ、そりゃそうだ。

何言ってるんだか・・・。


「あ、あのうお嬢様。こちらの宝石は、頂いちゃってもいいですか?」


前方にも、突拍子もない事を言い放つポンコツ職人が居た。

どうなってんだ、私の周りは・・・。

これじゃあ、リリアーヌがしっかりしてるように見えてくるじゃないか・・・。


「いいわよ。」


まあ、エンリは石拾いが中止された為、同情の余地はある。


「い、いやっほーーーいっ!」


す、凄い喜びようだ・・・。

そこまで高価な宝石ではないだろうに・・・。


今日、一番儲けたのは、他でもないリリアーヌだ。


「お嬢様、家の者たちが着いたようです。」


そのリリアーヌは、平静だった。

リリアーヌが言うように、宿の前には、何人もの兵士たちが屯していた。

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