第八話 鑑定結果

 宝箱の中身は金貨以外にもある。金貨の分配を終え、余ったのは片手剣が3本。短剣が2本。金属製の盾が大小1つずつ。プレートアーマーが1つにガントレットが左右一式。指輪が3つと、イヤリングが左右1対。魔力の籠った宝石が幾つかだ。


「武器に関してはあたしは間に合ってるから君に譲るね」

「わかりました。あとでギルドで鑑定してもらいます」

「盾もあたしは使わないしな。ウォルター君は使ってたけど」

「や、俺も場所に合わせてるだけなので……。基本的に力も技術もそんななので身動きが取りやすい方が好みですね」


 得意でなくても使わないとパーティーに入れてもらえなかったりしたので仕方なく使っていた時が多かった。そのお陰で命拾いした場面も多かったが、俺としてはチトセさんのように盾無しで攻撃を受け流す方が性に合っていた。小石ビシバシに関しては盾大感謝だが。ペーグルだっていつかは剣1本で受け流してやりたい。


「じゃあ換金して運営資金行きかな」

「いや、その前に特性付きかどうかだけ確認した方が」

「あぁそっか。移し替えることは出来るもんね」


 その通りだ。もしかしたら特性付きの可能性だってある。それを手放すというのは惜しい。俺ならそれを別の道具に再利用出来るのだから。


 しかしこれも考え方によっては面白いことになる。


 武具には時々”ハズレ特性”というものが付与された物がある。


 例えば、剣なのに『防御力上昇』の特性がついていたり、盾なのに『切れ味上昇』がついていたり、だ。これはダンジョンで起きるバグのようなものと言われている。


 俺が今後考えているのはこういった”ハズレ武器”を回収して錬装で特性を整頓することだ。ハズレ武器は鑑定で発覚し、店に投げ売られる。鑑定代の補填にまではならないが、多少は金にはなるからな。けど店側もそんなハズレに値段をつけるのは難しい。結果的にそういったハズレ武器は店の隅の箱に安値で突っ込まれていることが多い。今回の稼ぎでもかなりの量を仕入することが出来るはずだ。


 これらを重ね合わせていけば、ハズレもアタリになるという訳だ。


 魔剣(仮)を作りたいと漠然と思っていたが、これが具体的な制作方法だ。もちろん、ダンジョンから良いのが出てきたらそれも錬装する。


 いやしかし本当に天才過ぎる。こんな再利用、俺しか思い付かないだろうな。ていうか俺しかできないな。本当に錬装術師という職業は素晴らしい。


「装飾品もまとめて鑑定してもらおうか」

「金額は問題ないです?」

「うん、十分あるから大丈夫だよ。早速行こう!」




 ということでチトセさんと一緒にギルドへやってきた。此処で宝箱指輪からアイテムを出すと噂になってしまうので、鞄に詰めて俺が背負う形でやってきた。めちゃくちゃ重かった……。


「やぁ、ルビィ」

「あ、ココノエさん。お久しぶりですね」


 鑑定依頼を出す専用のカウンターに座っていたのは大人しそうな金髪の女性だ。俺はあんまり此処に来ないから面識はないのだが、チトセさんは仲良さげに話し掛けている。


「アイテムいっぱい見つけたから鑑定お願いしたいんだけどいいかな?」

「どうも」


 スッと横にチトセさんが移動したので荷物を持った俺はルビィと呼ばれた女性に会釈をした。


「えぇと、確かウォルター・エンドエリクシルさん……でしたか?」

「俺のこと知ってるんですか?」

「えぇ、まぁ。有名ですよ。《適材適所パーティーヘルパー》のウォルター……今はココノエさんと組んでるとお聞きしました」

「パーティーヘルパー……」


 確かに俺は色んなパーティーを渡り歩いてきたが……そんな風に呼ばれていたとは初耳だ。ヘルパーか。役には立てていたんだな。


「そうそう。今はあたしとウォルター君の2人パーティー。ウォルター君のお陰でアイテム拾ったからね」

「それで鑑定ですか」

「はい、よろしくお願いします。えぇと……ルビィさん、でいいですか?」

「えぇ。こちらこそよろしくお願いいたします、エンドエリクシルさん」


 あんまり苗字で呼ばれたことがないからむず痒いが、いきなり名前で呼んでくれというのも流石に気安いか。

 頷いた俺は鞄から宝箱のアイテムを取り出し、全てカウンターの上に広げた。


「これはまた凄い量ですね」

「溜まってたのも持って来ちゃった。いくらぐらい掛かりそう?」

「そうですね……これくらいですかね」


 ルビィさんが提示した金額は金貨10枚と銀貨15枚だった。パーティー用の資金でも十分賄える金額だったので俺とチトセさんは顔を見合わせ、頷き合った。


「それでお願い。どれくらい掛かりそう?」

「今日は鑑定注文入ってないのですぐ取り掛かれます。30分程いただければ」

「オーケー。じゃあよろしくね!」

「よろしくお願いします」

「はい、承りました」


 ということで宝箱から出てきたアイテムを全部鑑定してもらうことになった。聞いた話によると、鑑定という作業もまた『鑑定』という特性のついた魔道具で行っているらしい。いずれは俺も鑑定特性のついたアイテムを入手できれば経費削減になるだろう。まぁそれは運次第だ。できれば俺もギルドに金を落としたいところではあるし。


 鑑定作業が終わるまでの間、軽く食事することにした俺たちはギルドを出て最寄りの食堂へと向かうことにした。斜め向かいにある店だ。此処は忙しい人向けの食堂で、簡単な料理がすぐに出てくる。そして何よりも安い。だからいつ行っても満席だが、皆すぐ食べ終わって出ていくので回転が早い。だからそんなに待つ感覚はない。


 値段と早さの割に量の多い昼食を食べ終えた俺たちはその足でギルドへ戻った。


「あ、ココノエ様、エンドエリクシル様」


 と、入口のすぐ傍にあるカウンターに居たギルド員に声を掛けられる。


「依頼されていた鑑定が終わりましたので鑑定カウンターへどうぞ」

「わかりました」


 ルビィさんはとても仕事が早いらしい。どんな結果が出たのか……期待に胸を膨らませながら俺はチトセさんと並んで鑑定カウンターへと足早に向かう。


「お待たせ致しました」

「いや、全然待ってないよ。早いね」


 実際30分は経っていない。早く食べて遅刻しないようにギルドで待とうと思っていたから、実際には20分くらいである。


「では早速ですが鑑定結果を報告しますね。まずは片手剣から……」


 さて、いよいよ待ちに待つ程待ってはいないが楽しみにしていた結果報告だ。ルビィさんはカウンターの上に3本の片手剣を並べる。


「まずはこちら、右から雷属性、切れ味上昇、防御力上昇です」

「1つハズレか……」

「どうされます? ギルドで処分もできますが」

「一応受け取ります」


 一応とか言ってるが使い道はある。他の防具に移し替えれば何も問題ない。


「かしこまりました。では次に短剣を。こちらは無属性と毒属性の短剣でした」

「お、毒属性はレアだよ。当たりだね」

「これは嬉しいですね」


 そのまま使うも良し、片手剣に移し替えても良し。毒は種類にもよるがモンスターの体力を削るのに向いているので有難い。


「ちなみに付加効果無しの普通の毒でした。其処は少し惜しかったかもしれませんね」

「んー、腐食毒属性とか死毒属性、麻痺毒だったら最高だったな」

「中々お目に掛かれませんね」


 普通毒でも体力を削ることは可能だ。だが腐食毒は更に倍速で削れるし、死毒は即死効果がある。麻痺は言葉のまま、動きを制限することが出来る。この毒属性も重ね合わせることで変化が起きるかもしれないな。


「続いて防具ですが、ガントレット以外は無属性の無特性でした」

「ハズレもなし?」

「ありませんでした。ガントレットが土属性ですね」

「ふむ……」


 今回は武器に運が偏っていたか。しかしガントレットだけは当たりだ。土属性は総じて防御力に秀でている。上手く使えば防御面は心配しなくて済むかもしれない。


「続いて装飾品ですが、指輪は火属性が1つと魔力上昇が2つ。イヤリングは無属性でした」

「大当たりだね!」


 魔力上昇は魔法系の職業なら必須のアイテムだ。それが身に付けやすい指輪であれば尚更喜ばれるだろう。そして指輪はやはり特性付きだった。上書きしなくてよかったー!


「最後に魔宝石ですが、小さい物は雷属性が1つ、火属性が1つ、水属性が1つ、氷属性が2つです。そして中くらいの物が氷属性でした」

「これもまた良い感じだ。氷属性と雷属性は貴重だからね」

「ですね。高く売れそうです」


 この世には火、水、土、風の基本属性というものが存在する。そして基本属性から派生した属性が氷と雷だ。更に上位属性というのも存在するが、これは滅多にお目に掛かれない。


「では換金いたしますか?」

「いや、持ち帰ってもいいかな。どうするかはあたしたちで考えるよ」

「そうですね、チトセさんくらいにもなれば専属の取引先もありますし」


 最上位ともなれば商人も放ってはおかない。宣伝も兼ねてすり寄ってくることは少なくなかった。ただ、今回の場合は俺の錬装のためなのだが、其処まで話す必要はない。チトセさんもそう思っているからか、ルビィさんの言葉を否定せず、にこりと笑うだけだった。


「では全品引き取りということで」

「荷物はこっちで詰めるよ」

「かしこまりました。ではこちらでお願いします」


 カウンターの隣に装備品の乗った台があるので、そちらに移動して装備を回収した。一部装備出来る物に関しては俺が身に付ける形で、それ以外は鞄に詰め込んだ。鞄に入らなかったプレートアーマーと大盾はチトセさんが手で持ってくれた。


「じゃあまたね、ルビィ」

「はい。またのお越しをお待ちしておりますね」

「ありがとうございました」


 手を振るチトセさんに礼をするルビィさんに会釈した俺は、先を行くチトセさんの後を追ってギルドを後にした。



 暫く歩いた俺たちは適当な路地へ入る。周辺に人がいないのを確認してから、チトセさんから受け取り、そのまま宝箱指輪へと収納した。


「人前でできないのが辛いところね」

「ですね……もっと普及したら当たり前の光景になるんですかね」

「その頃にはあたしたちは大金持ちよ。遊んで暮らしてるかも」

「はは、確かに」


 宝箱の数だけ俺が錬装するしかないから普及するには俺が頑張らないといけないし、こんな代物、無償で配るわけにもいかない。相当な値段をつけても買う人間は出てくるだろう。錬装出来るのは俺しかいない訳だし、普及する頃には死ぬまで遊べるお金が手元にあるだろう。まぁ、現実的ではないが。


「もう1つあればお互いに持ち運び出来るんだけどね」

「時間経過で復活してるかなぁとか思ってるんですけど、どうですかね?」

「宝箱の再出現か……聞いたことないね」


 流石にないか。いや、分かっていたが。


「だからこそ、ありえるかもしれないよね。再出現しない、とは観測されてないんだから」

「なるほど……そういう考え方もありますね」

「うん。だからまた暫くしたら見に行ってみよう。それまでに宝箱が見つかれば、それはそれで儲けだ」

「ですねぇ」


 普通なら適当に座った岩の裏なんてすぐに忘れてしまいそうだが、強烈な記憶として残っているからまぁ、忘れないだろう。あの小汚い箱が実は宝箱だったとは、本当に驚いた。


 それよりも今はこの荷物を片付けないと。俺は早速右手に付けた宝箱指輪で荷物に触れる。すると一瞬で荷物は消え去り、宝箱指輪内に収納された。


「本当に便利だね、それ」

「宝箱指輪のお陰でかなり楽になりました」

「宝箱指輪? そう呼んでるんだ?」

「あー、まぁ、正式名称とかないですし分かりやすいかなって」


 なんだろう、逆に聞かれると急にこの名前が恥ずかしくなってきた。言われてみれば格好悪いよな……これの前なんて宝箱剣だったし……。


「なんか良い名前つけてくださいよ」

「え、あたしが?」

「極東の伝記ではどういう風に呼ばれてたんですか? これっぽいアイテム」

「あー……なんだっけな……アイテムボックス?」

「箱じゃないんですけど」

「じゃあアイテムリング……いや、アカシックリングでいいよ」

「? 何か違うんですか?」

「あんまり安直だと人前で話すのに支障があるかなって。ちなみに言葉の意味は”虚空の指輪”ってところかな」

「なるほど……意味的にも合ってますね。じゃあそれにしましょうか」


 今後はこいつのことをアカシックリングと言おう。虚空の指輪と書いて”虚空の指輪アカシックリング”だ。今後、指輪以外の媒体に宝箱を錬装した時は呼び名が代わるかもしれないな。


「さて、これからどうする?」

「俺は宝箱から出た剣を錬装したいです」

「1本はハズレだったけど、他の2本はそのまま使えるよね。錬装する意味ある?」


 そう。1本は切れ味上昇。もう1本は雷属性。普通なら当たりも当たり。どちらかを打ち消して錬装する意味はない。


 だが俺の考えは違う。


「雷属性の剣に、切れ味上昇の特性が乗ったら……面白くないですか?」

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