特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい

紙風船

草原都市ヴィスタニア篇

第一話 走るのが苦手だった

 昔、走るのが苦手だった。辿り着く先を見て、辿り着くまでの道を見て、合図を出す人を見て、いつ始まるかも分からないスタートに合わせて走り出すのが難しかった。


 そうやってスタートを出遅れると、とても大変だ。周りのみんなは一生懸命に走るものだから、それに追いつくのは難しい。ましてや追い越すだなんて夢のまた夢だ。


 その夢を叶わせるのは努力や才能だと俺は思う。自らの能力が優れているなら、多少の差は埋められる。


 けれど、努力や才能だけでは埋まらない差もあった。


 昔、村の同世代の皆とかけっこ勝負をしたことがあった。横一列に並ぶ友人たち。皆、目を輝かせてゴール地点を見つめ、耳を澄まし、よーいどんの合図を待っている。

 その合図をしてくれるのは仕事を抜けてきた俺の父さんだ。しょうがないなぁなんて眉尻を下げながら、少し照れくさそうにピッと手を空へと伸ばす。


「よーい……どん!」


 振り下ろされる手。一斉に走り出す皆。でも俺はびっくりして走れなかった。普段物静かで優しい父さんから聞いたことないような大きな声に驚いて泣いてしまったんだ。


 走り出した皆は振り返らない。誰が1番か決めるのに必死だった。そんな後ろ姿を、あたふたした父さんに抱かれながら、涙で歪んだ視界で見ていた。


 ゴールした皆は、漸く俺がいないことに気付いたみたいで、手を振って応援してくれた。此処までおいで、がんばれ、って。

 それが俺には恥ずかしくて、悲しくて、それでも必死に走った。何度も転んだけれど、1番最後だったけれど、それでも俺はゴールした。ゴールすることができたんだ。


 それ以来、俺は”諦める”ということができなくなった。あの日応援してくれた皆を裏切るようで、立ち止まれなくなった。だけどそれが原動力になった。ある人はそれを『まるで呪いだね』なんて言ったけれど、俺は今も皆に背中を押してもらってる気がして嬉しいんだ。


 あの頃の皆はもう、背中も見えないくらい先を走ってる。努力と才能を手に、最前線を走り続けていた。


 俺には才能がなかった。大きな声に泣いてしまうような子に、神様は呆れてしまったのかもしれない。

 けれどその代わり、努力はした。いっぱい頑張った。すると神様は見てくれていたのか、一つの才能をくれたんだ。


 『これで頑張って、皆に追いつくんだよ』


 まるでそう言われたような気がした。何の才能もなかった俺は今、不思議な力で窮地を脱することができた。



  □   □   □   □



「ハァッ……ハァッ……!」


 必死に走っていた。


 冒険者仲間と森に入ってクエストをこなしていたらゴブリンの群れに奇襲された。暗くなってきてたこともあって大打撃だった。俺たちは散り散りに逃げるしかなかったが、運悪くゴブリンたちは俺を標的に選んだようで半数以上がこちらへと走ってきた。今思えばその慧眼には恐れ入るね。正解だ。俺がパーティーの中で1番弱いんだから。


 結果、俺はゴブリンに囲まれていた。


 それでも必死の抵抗をした。その中に居たマジックゴブリンがたまたま手にしていた杖を落としたのが運命の分かれ道だった。俺は盾と剣を手にしてたが、剣は既に折れてしまって使い物にはならないので杖を奪う。


「頼む、何か……頼むよ……!」


 元来、マジックアイテムには魔法が封印されている。マジックゴブリンが無駄撃ちしていなければ、奇跡が起きるはずだ。しかし魔法は出ず、代わりに不思議なことが起きた。手にしていた杖が消失してしまった。


 終わった。そう思い、絶望した。けれどそれと同時に、俺の中のよくわからない感覚が盾を強く握らせた。力を込めさせた。何の変哲もない盾だ。俺の体の半分くらいのカイトシールド。


 その盾の表面が薄らと光る。逆光の中、青い魔法陣が浮かぶのが見えた。その魔法陣から出現したのは無数の氷の槍。見たことがある。”アイシクルランス”という氷系魔法だ。


 槍は射出され、盾を向けられていたマジックゴブリンが蜂の巣にされて絶命した。


 あとはもう、必死に盾を振り回した。俺を囲うゴブリンたちが死に尽くすまでずっと叫び続けていた。窮地を脱して全てが終わった時、盾は壊れて崩れていった。


 軽くなった手を見つめる。俺にも才能が……『職業』が生まれたのかもしれないと何度も見返すが変化の兆しは見当たらなかった。一先ずゴブリンたちが落とした剣と盾、それも状態が良いものを選んで持ち、その場を後にした。


 剣と盾は混じることなく、村に辿り着くまで俺を守ってくれた。




「……ってことがあってね。マジで死ぬかと思った……」

「そっか……ついにウォルターに職業が目覚めたのね」

「そうかもしれない。嬉しいし飛び跳ねたい気持ちもあるけど、正直あんまりにも遅すぎだって気持ちが強い。それに本当に職業かどうかはまだ分からないから安心も出来ないな」


 冒険者ギルドのカウンターに人はいない。先程、散り散りに逃げた仲間と無事に再会を祝い合い、そして解散したところだ。彼等とは目的が一緒で組んだ突発的なパーティーだったから、全員今日で解散という契約だ。また機会があれば組むかもしれないが、お互い無事に生きてほしいものだ。


「全然うちで調べられるけど、どうする?」

「ありがとう。でももう時間も遅いし」

「私は大丈夫だよ。ていうか、気になるでしょ?」


 時間外にも関わらずこうして親切にしてくれるのはギルド員のミランダだ。彼女は俺の家の隣に住んでた幼馴染だ。かけっこでは一番を取った俊足の持ち主である。彼女はその村一番の素早さの持ち主で、最速で村を出て冒険者になり、最速で結婚して引退した。そして今はギルドに務めている。全部早いのが彼女なのだ。


「じゃあお願いしてもいいか?」

「いいよ。じゃあちょっと待ってて」


 言い終わる前に立ち上がり、ギルドの奥へと行ってしまった。そしてすぐに戻ってくる。手にしていたのは冒険者登録に来た人が最初に使う道具だ。平べったい鉄の板のように見えるが、それに手を置くと自分の職業やスキルが鉄の板に印字される。時間が経てば消えるので情報の漏洩も少ないという優れた魔道具である。そして見事冒険者となった者には冒険者の証である”腕輪”が送られる。


 こうした職業は人に必ず生まれるものだ。俺の場合はそれが遅かったが。ちなみにパン屋さんやお肉屋さんもまた職業だが、それとは意味合いが違ってくる。


「はい、手を置いて」

「ん」


 ドキドキする。果たしてその結果は……。俺は冷たい金属の上に置いていた手をそっと戻す。すると其処には俺の名前と、その下に色々と書かれていた。


「これ、ミランダ!」

「ちょっと待って、えっと……」


 魔道具を自分の方へ向けたミランダがそれをじっと見つめて、ぼそっと呟いた。


「見たことない職業ね……」

「えっ?」


 俺の興奮は疑問符で埋め尽くされる。


「錬装術師……って表示されてるよ」


 対面するミランダも首を傾げている。


 錬装術師……?



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



【ご挨拶】

初めましての方は初めまして。

そうでない方も初めまして。

紙風船と申します。

この度は当作品をお読みいただき、ありがとうございます。

僕が思う面白さを詰め込んだ作品で、僕自身この先の展開を書くのが非常に楽しみな作品となっております。

お暇な方はお付き合いいただけると嬉しいです。

尚、当作品は第8回カクヨムWeb小説コンテスト(カクヨムコン8)に参加しております。

ブックマークや感想といった形で応援していただけると、僕としても執筆の原動力になります。

長々と書きましたが、今度ともどうぞよろしくお願いいたします。

それでは、また。

紙風船でした。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


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