エロゲみたいな色欲魔法で成り上がり〜転生して帰ってきた魔王、学園でハーレム作ります〜
天笠すいとん
プロローグ
第1話 色欲の魔王、転生する
かつて魔族は世界の頂点に立つ種族として君臨していた。
そんな魔族の中でも規格外の強さを持つ七人の魔王は〈七大罪の魔王〉と呼ばれ、日々熾烈な縄張り争いを繰り広げていた。
その魔王の中でも変わり者と呼ばれていたのが〈色欲の魔王〉アスモデウス・ラストだった。
彼は他の魔王とは違って小さな領地に自らの国を作りそこに籠るように暮らしていた。
淫魔族のアスモデウスが統治する眠らない不夜の国。煌びやかな街では男女が種族関係なく愛を育んでいたのだった。
「……賊が侵入したか」
不夜の国の中心にある豪華絢爛な色欲魔殿。
色欲の魔王が美女達を侍らせながら淫らに暮らす城の玉座の間でアスモデウスは結界の揺らぎを感知した。
「申し上げます魔王アスモデウス様。ただいま侵入者が街で暴れており、真っ直ぐにこの城を──」
「その程度の幻覚では俺を騙せんぞ」
城で働いている魔族が報告に来たが、アスモデウスがその魔族に向けてパチンと指を鳴らすと魔族の姿が蜃気楼のように揺らいだ。
霧を払うように現れたのは暗殺者の格好をした男だった。
「流石は魔王か。まさかオレの変装を見破るなんて」
「相手が悪かったな。俺の〈色欲の魔眼〉は力の流れを見分ける。魔力を持たない人間なぞすぐに気づく」
人間。
かつては世界を支配していた種族だったが、魔力を持ち魔法を使う魔族の登場によって瞬く間に生存圏を追いやられた。
現在は大陸の最東端に身を寄せて細々と暮らしているはずだった。
「何が狙いだ人間」
「テメェら魔王の命だ。オレらは世界を取り戻す」
暗殺者の男はアスモデウスのオーラに気圧されながらも戦線布告を宣言した。
「無駄なことを。人間如きが俺に勝てるとでも?」
「あぁ、オレには無理だな。だが、コイツなら!」
暗殺者の男が天井を見上げる。
直後、大きな音と共に色欲魔殿の天井をブチ破って何かが飛来した。
「ひゅー、我ながら滅茶苦茶な作戦だぜ。あとは任せたぜ人類の希望!!」
「……任された」
土煙が舞う中、暗殺者の気配が遠ざかって行く。
アスモデウスは逃げる男には目もくれず、男を目印として飛来して来た人物を警戒した。
「俺が張った結界を強引に突破し、一直線に首を取りに来るとは豪胆な奴め」
「〈色欲の魔王〉。人間の未来のため、まずはあなたを討つ」
全身鎧を身につけた侵入者が剣を抜いて構える。
暗殺者を前にしている時は余裕の笑みを浮かべていたアスモデウスも敵がかなりの実力者だと見抜き、玉座から立ち上がって構えた。
「名を名乗れ人間。俺は〈色欲の魔王〉アスモデウス・ラスト」
「……わたしは〈勇者〉」
勇者という名前を聞きアスモデウスは以前に他の魔王から聞いた話を思い出した。
(確か人間が魔族への反乱を企み、その旗印として立ち上がった戦士がいたとか。人間の中で最強の力を持つ存在。それが勇者)
勇者は剣を握ったまま一直線に突撃してくる。
魔王を相手に正面から戦いを挑むその自信を砕くためにアスモデウスはあえて真っ向から攻撃を受けた。
「むっ。この感触は……」
「……魔王クラスであれば油断してくれると思った。聖剣の力はあなた達の能力を封じる」
「魔法の無効化か。小癪な武器だ」
小さな切り傷だったが、アスモデウスは自身の体に起こった変化を即座に理解した。
魔王の城に攻めてくるだけの作戦は用意してきたようだ。
「しかし解せんな。なぜ俺を最初に狙う?」
アスモデウスは疑問を投げかけた。
〈七大罪の魔王〉の中でも彼は変わり者であり、比較的に話が出来る人物だった。
縄張り争いとはいっても、あくまで挑まれたら迎え撃つ程度で余程のことがない限りは戦場にすら出なかった。
「……わたし達の作戦にとってあなたが最も脅威になりえると判断したから」
「ふははは。随分と高く評価してくれるな人間」
アスモデウスは笑い声を上げた。
何故なら、勇者の言葉は間違いなくアスモデウスという魔王の力を示していたからだ。
〈色欲の魔王〉は他の魔王からこうも呼ばれている。
最低で、最恐で、敵に回したくない最悪の魔王と。
「いいだろう。魔力を封じただけでこのアスモデウスに勝てると思ったことを後悔させてやろうではないか」
「最初から全力で行く!!」
♦︎
「ふははは。これは俺の負けだな」
結論から言うと魔王アスモデウスは敗北した。
色欲魔殿は跡形もなく崩壊し、戦場の中心には大きなクレーターが誕生している。
城にいたハーレムの女達も部下も戦いに巻き込まれないよう全員逃げ出していた。
「……はぁ、はぁ……」
両手を失い、体に風穴を開けたアスモデウスが地面に崩れ落ちる。
一方の勇者はというと呼吸を乱しながら立っているのもやっとの様子だった。
「……これが魔王……」
「怖気付くな勇者よ。これからお前は残る六人の魔王と戦うのだからもっと胸を張れ」
「……負けたくせに偉そう」
「魔王とはそういうものだ」
全身から血を流しながらもアスモデウスは不敵な笑みを止めなかった。
聖剣によって本来の能力を封じられながらも出せる全力を尽くして勇者と戦った。
負けたとはいえ、そのことに一切の未練は無い。
「ところで勇者。死ぬ前に一つ望みがある」
「……魔王の言うことなんて聞かない」
「そう言うな。俺はお前の素顔が見たい」
「……どうして?」
「この〈色欲の魔王〉を倒した強者の顔を冥土の土産にしたい。それくらい許せ」
「……はぁ。仕方ない……」
初手から反則地味た聖剣の能力で動きを封じたことに引け目があったのか、それとも別の理由があったのか勇者は鎧の頭部を外した。
「……これで満足?」
「お前、女だったのか」
鎧の下から現れたのは美しい銀髪に透明な水晶のような瞳をした精気の薄い女性だった。
淫魔族の中でも一番のイケメンと呼ばれるアスモデウスですら息を呑む美しさだ。
彼女を絵に描いても間違いなく実物の方が美しいとはっきり言える。
「くははは。女だと分かっていれば最初から口説いたというのに」
「……口説く?」
「あぁ。どうやら勇者よ、俺はお前に一目惚れをしてしまったようだ」
それは長い年月を生きたアスモデウスにとって初めての感情だった。
〈色欲の魔王〉として後宮を作り、ハーレムを満喫していた彼にとってこれまでの生殖本能のままに快楽を求めていた気持ちとは違うもっと純真無垢なものだった。
「……わたしに? 理解不能」
「俺もだ。まさか死ぬ瞬間に恋に堕ちるなんてロマンチックな……」
「……ロマンチック……わからない……」
「なに、生きていれば分かるさ。くそっ、急に死ぬのが惜しくなってきたな」
アスモデウスの体から熱が失われていく。
今の彼は最後に湧き上がった感情による気合いだけでこの世に止まっていた。
「勇者。もしも、もしも俺が生まれ変わってお前の事を覚えていたらその時は──」
視界が狭くなる。
もう気合いや根性では時間を伸ばせない。
魔王アスモデウスに死が訪れる。
「俺と結婚してくれ」
「……そんな奇跡が起きたら考えておく」
(ふっ、言質取ったからな)
無表情に見えた勇者が僅かに微笑んだのを魂に刻み込んでアスモデウスは死んだ。
「……不思議。胸がざわざわした男だった」
勇者が魔族へと上げた狼煙はすぐに他の魔王達に伝わり、世界が激震した。
こうして魔族が世界を支配していた時代に大きな波乱が訪れる最初の戦いが幕を下ろした。
♦︎
それから千年の時が経った。
「よく頑張ったリリス! 元気な男の子だぞ!」
「ふふっ。私のかわいい赤ちゃん」
魔族領のとある田舎に住む夫婦の元に新たな命が誕生した。
「なぁ、この子の名前は何にしようか」
「もう考えてあるのよシモン。私の種族の偉大なる王様の名前を付けてあげたいの」
「王様の名前か。それは凄い男に育ちそうだな!」
「えぇ。これから訪れるどんな苦難にも負けずに立派な人に育ってね、私のかわいいアスモデウス」
名付けられ瞬間、産声を上げる赤子の魂に変化があった。
それは偶然であり奇跡に近かった。
かつての魔王が転生した魂に全く同じ名前を名付けたことで魂の持つ記憶が呼び起こされたのだ。
(ふははは。待っていろ勇者よ。この〈色欲の魔王〉アスモデウスが必ずお前を探し出してやる……)
魔王アスモデウスは転生し、二度目の人生を歩み出すのだった。
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