第96話クニカズ・フォン・ヴォルフスブルク

『大ヴォルフスブルク帝国史』214巻列伝1「クニカズ・フォン・ヴォルフスブルク」より引用


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 帝国初期における最大の功臣のひとりであり、アルフレッドともに帝国の双鷲そうしゅうと呼ばれたクニカズは、不思議な男である。歴史的な英雄のひとりであるにもかかわらず、生年や育った場所は不明。歴史書に初めて登場するのは、青年期のころであり、彼はたまたま出会ったダニエル大主教に認められて、ヴォルフスブルク王国軍に入隊した。


 そもそも、貴族でもない身分の男が仕官待遇で軍に入ること自体、異例のことだった。大主教と共に、王宮を訪れた彼がすでに軍人としての名声を獲得していたアルフレッドを決闘で打ち破ったとも、「神の使い」と紹介されたとも、妖精の加護を保有していたともされるが、詳細は不明である。


 入隊直後の彼はアール紛争と呼ばれる領土紛争で頭角を現した。ザルツ公国の軍事的挑発により発生したこの領土紛争は、ヴォルフスブルク王国守備隊が120しか存在していなかったにもかかわらず、ザルツ公国の精鋭300を打ち破って王国を防衛した。彼はアルフレッドと共に、守備隊の中心として前線に出て圧倒的な力を披露した。アルフレッドとはこの紛争で友情を深め、親友になっていく。


 紛争終結後は、軍事大学に特例で入学。のちに、クニカズ・マフィアと呼ばれる側近たちともそこで友情をはぐくみ、彼らは後にヴォルフスブルク軍の中枢を担う存在になる。大学を首席で卒業した彼は、学生の身でありながら当時の軍首脳部に戦略シミュレーションで圧勝したと伝えられている。


 大学卒業後、アルフレッドが司令を務めていたハ―ブルク要塞に赴任し、彼の右腕として辣腕を振るう。そして、このハ―ブルク要塞をめぐるローザンブルク帝国との戦争に巻き込まれてしまうのだった。ハ―ブルク戦争と呼ばれるローザンブルク帝国の戦争では、謀略を看破し、世界で初めて航空魔導士となり敵の補給ルートを遮断。当時世界最強の魔導士だったニコライ=ローザンブルクとの決闘に勝利し、戦争に勝利をもたらしたのだ。戦力は数倍差があり、国力では圧倒していたローザンブルク帝国が小国だったヴォルフスブルク王国に敗北したことで国際秩序すら変容することになった。


 講和会議においては、ローザンブルク帝国皇帝と特別に面会を許されて、ここで有名な"ハーブ酒とマティーニ"の問答をおこなったとされる。中佐でありながらも、彼はその戦略眼と巨大な魔力によって、ヴォルフスブルク軍中枢のような役割を担っていたとされるが、真偽は不明である。

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