第74話公国崩壊へ

―ヴォルフスブルク帝国軍第1遠征旅団機動部隊―


「ラガ大佐、ザルツ公国守備隊の一部が見えました」

 私は地上部隊の指揮を准将から委任されている。すでに、クニカズ准将のシナリオ通りに事が進んでいた。


「では、航空魔導士隊へ救援を要請してください。それまでは、私たちだけで持ちこたえますよ」

 目の前の川を有効活用して、私たちは防御に特化する。騎兵隊の最大の利点はその進軍スピードの速さだ。そして、逆に装備が軽装になりやすい弱点がある。


「魔導士隊、攻撃開始!」

 クニカズ准将は航空魔導士ばかり注目されがちだが、それとは別に魔導士騎兵隊という革命も起こしている。魔導士を騎兵化することで、本来の騎兵以上に強力な飛び道具を確保できる。


 魔導士隊の火力を使えば、騎兵が苦手としていた拠点の防衛が楽になる。

 その意見を聞いた瞬間、私は世界が反転したかのように驚いた。


 騎兵隊の常識が、クニカズ准将によって簡単に塗り替わった瞬間だった。


 川を渡っている敵兵は、強力な魔力攻撃によって吹き飛ばされていく。足元が不安定な川では、強力な攻撃を避けることすらかなわない。


 これなら数に劣る機動部隊でも守備隊を足止め可能だ。その間に前線に展開している南方方面軍が徐々に前進して、敵軍は圧殺される。


「大佐! 大変です。グレア帝国義勇軍がこちらに突っ込んできます!! 指揮官は、猛将ビルトです」


 ついに来たか。この作戦で最も恐れなくてはいけない相手だ。クニカズ准将もこの部隊に常に注意を払えと言っていった。人材の宝庫であるグレア帝国の中でトップクラスの猛将の一人がこちらに向かってくる。戦局は最終盤に突入した。


 ここをしのげば、勝てる。


 ※


「グレア帝国義勇軍に向けて、攻撃を集中!! ここを潰せば私たちの勝ちよ」

 だが、グレア帝国の精強な騎兵隊は、対魔道アーマーに守れていて、ザルツ公国の部隊とは違って魔導士の攻撃をものともしなかった。


 魔道アーマーは、かなり高額な装備で大国でも一部の部隊にしか配備されていない。すべての兵士にこれを提供した場合は、間違いなく財政が傾く。その貴重な装備を義勇軍に回したということは、グレア帝国側が、クニカズ准将を相当警戒していることの裏返しだ。


 魔力攻撃が効かないのであれば、白兵戦しかない。魔導士を失えば、この先の個々の防衛ができなくなる。彼らを死守し、前線部隊が敵をせん滅するまでこちらを持ちこたえれば勝ちだ。クニカズ准将率いる航空魔導士隊主力が帰ってくれば、いくらグレア帝国の猛将でも勝ち目はない。


「騎兵隊は前に。私に続きなさい。魔導士隊を死守する」


 川を渡り切った敵兵の襲うように騎兵隊が前進する。

 敵兵と味方が入り乱れる白兵戦が始まった。


 こちらの部隊も元々は、近衛騎士団出身者で固められている。精鋭部隊だ。良い勝負はできる。さらに、敵兵は足元が不安定で疲労や精神的なプレッシャーもある。


 白兵戦になればこちらが有利。ひとりのイレギュラーをのぞいて……


「邪魔だ。この程度の力で、俺を止められると思うなよ!!」

 ビルト将軍に向かう兵士たち3人が安々とねじ伏せられてしまった。さすはグレア帝国の猛将だ。一兵卒から実力だけで駆け上がったたたき上げの猛将。評判通りの強さだった。


「あの将軍は、私に任せなさい。他の者たちは、敵の騎兵の足止めを」


「大佐!!」


「大丈夫です。あの男を止められるのは、私しかいないわ」


 そう言って将軍の前に馬を進める。


「ほう、その旗印。聞いたことがあるぞ。ヴォルフスブルクの近衛騎士団副団長様か。言っておくがここは戦場だ。女騎士とはいっても手加減などしないが、覚悟はよいか」


「剣の道に生きると決めた以上は、甘えは捨てています。ビルト将軍、一騎打ちを申し込ませていただきます。ご覚悟を」


「言ってくれる。気に入ったぞ小娘。名を聞こう」


「ヴォルフスブルク帝国第一遠征旅団副長ラガ大佐よ」


「楽しませてくれよ、ラガ大佐」


 将軍は、長剣を抜く。巨大な剣を軽々と扱う歴戦の猛者は、じりじりと距離を詰めていく。お互いに愛馬に合図をして開戦のタイミングを待っていた。


「来ないのならこちらかいくぞ!!」


 先に仕掛けたのは将軍だった。


―――

登場人物紹介)


ビルト中将(グレア帝国:ザルツ公国への義勇軍司令)

知略:64

戦闘:84

魔力:39

政治:31


スキル:猛将・疾風


グレア帝国義勇軍を率いる将軍。

人材の宝庫であるグレア帝国でも、特に戦闘向きな猛将で、率いる軍の速度を上げる疾風というスキルを持つ。特に騎兵を率いることに長けており、彼が率いる騎兵隊の進軍スピードは彼の戦闘力もあって、屈指。


ただし、猪武者になりやすく、適当に使っているとすぐに前線で孤立してやられてしまいがち。

他国では軍事面でエース級の能力値だが、人材の宝庫であるグレアにおいてはそこそこ使える猛将の位置にいる。


彼が中将でとどまっていることは、すなわち、グレア帝国の大将級以上がどれほどチート能力値を誇るかわかりやすい。

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