第65話親友が語るクニカズ

 ヴォルフスブルク帝国大学歴史学教授"イマヌエル"氏は、講演会でクニカズ将軍のことを語った。


 ※


「私を含める後世の歴史家たちは、クニカズ将軍がまるで最初から軍務大臣や統合参謀本部議長のような軍の最高位に君臨し、軍を総動員して大国と戦った伝説の将軍だと考えがちです。しかし、そうではないのです。彼が一番最初に頭角を現したローザンブルクとの戦争において、彼はまだ少佐でした。要塞ではアルフレッド将軍指揮下の一参謀にすぎませんでした」


 観衆たちは驚いたようだ。


「アルフレッド将軍のインタビューも引用させていただきます。『小説や演劇の中のクニカズは、軍の頂点のように描かれていることが多いね。まるで、僕などいらないかのように。もちろん冗談だが……だが、クニカズは軍の最前線にいることの方が多かった。現場指揮官としての役割が強い人間だ。そして、現場における彼に判断力・発想力は怪物的で当意即妙だった。彼は、おそらく歴史家以上に歴史家であり、過去の経験から当てはめることができる数学の公式のようなものを見つける天才だったのだろう』と言っていますね」


 クニカズと言えば、やはり伝説上の将軍だ。まるで、奇術師のような作戦であらゆる名将たちを撃破した傑物。


「また、こうも言っています。『おそらく、フィクションの中でのクニカズのイメージは、軍事参議官室長と作戦課長時代の短い間についたものだと思うよ。あの職にいた数年間で、クニカズはすべてを変えてしまったからね。彼が考えた戦略教義はおそらく、この国の基本的な考え方を維持していくだろう。彼の戦略眼は、数百年先の未来までとらえていた。クニカズとはいつも一緒にウィスキーを飲んだが、彼の発言は背筋が凍るものだったよ。いつも思っていた。クニカズが敵じゃなくて良かったとね』」


 観衆は、やはり救国の英雄であるアルフレッド将軍のことも尊敬していた。だからこそ、クニカズの怖さというものが伝わってくる。クニカズがいなければ、間違いなくアルフレッドがヴォルフスブルク史上最高の将軍なのだから。


「そして、私たち後世の歴史家も、同じ時代を生きた将軍たちも同じ意見です。クニカズ氏の一番の功績は、ヴォルフスブルク最強の部隊を率いた時に作ったものです」

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