第66話革命
そして、訓示は終わり訓練が始まった。
「では、諸君たちには航空魔導士隊の攻撃力というものを味わってもらう。それを味わなければ、そもそも協力することはできないだろうからな」
「では、どのようなことを」
元近衛騎士団副団長のラガ大佐は、俺に問いかける。彼女は、陸上部隊側の責任者的な役割を担ってくれている。彼女もやはり有力貴族の娘で、ブロンドの長い髪をポニーテールで結っている。パワーこそないが剣技のスピードは1級品でアルフレッドの信頼も厚い女性だ。
「では、騎士団とこちらが選抜する魔導士、合わせて100名を要塞に見立てた高地の陣地に配備してくれ。それに対して、魔導士が空から攻撃をかける。はっきり言おう。先の二公国との紛争で、こちらはもう要塞は無用の長物だと知らしめた。軍事革命が起きているんだ。だが、まだ要塞を必要だと考えている現場の者も多いだろう。だから、この訓練で身をもって体感してもらう。ラガ大佐、地上部隊の指揮を執ってくれ。そちらは本気で撃ち落とそうしてもらって構わないからな」
「もちろん、航空魔導士隊の指揮官は閣下ですよね」
「ああ、そうだが……ひとつだけ間違っている」
「なにがですか?」
「航空魔導士隊ではない。ひとりの航空魔導士が相手だ」
「まさか、閣下ひとりで!? 1対100ですよ」
「一か所に100人が密集しているのであれば、航空魔導士にとっては単なる的だよ」
「撃ち落とされても文句は言わないでくださいよ」
「大丈夫さ。キミたちにけがをさせるつもりはない」
少しだけ大佐はムッとした。年齢はおそらく前世の俺くらいだろうが、鍛え上げた体によって若く見える。
「本気で撃ち落とさせていただきます、閣下!」
彼女はそう言ってコツコツと靴の音を立てながら部下を集めに消えていく。
「大丈夫なんですか、クニカズ閣下?」
秘書官のアリーナは心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫だよ。同期しかいない時は閣下はいらない」
脇に控えていたクリスタは噴き出すように笑う。
「クニカズらしい荒療治だな」
「ふたりともラガ大佐は、どういう風に対策すると思う?」
「きっと、方円陣を作って周囲に対空兵器で固めてきますよね」
「それが基本だな」
俺は笑う。
「基本に忠実な指揮は、大きな失敗をする可能性は低いが……逆に読みやすくもある。さらに、常識は規格外の存在に食われる。それが歴史の定跡だ」
クリスタは俺の考えを代弁してくれる。もう、
さあ、革命を証明しよう。
※
そして、訓練は始まった。俺が鍛えた魔導士たちも防御に回っている。気を抜くと撃ち落とされるな。
俺は衝撃波だけを使うことにしていた。これだけなら被害は最小限で抑えられるし、隊員たちがケガをするリスクもほとんどない。
さすがに火炎魔力とかを使うと甚大な被害になるからな。ちなみに、守備隊は本気で迎撃してくる。結構なハンディ戦だ。
「突入進路は確保したな」
俺は東側から防御陣地に近づいた。しっかりと訓練していた魔導士たちに気づかれにくいように低空で接近する。これはレーダーを回避する動きと一緒だ。魔力も基本的に波のようなものだから、この世界が丸ければ地平線や障害物によって魔力による索敵が邪魔される。
おそらく前世知識がある俺だけが理解している原理だ。よって、この接近法はヴォルフスブルクだけが独占している知識になる。
だが、近づけば近づくほど気づかれる可能性は高まる。
俺は気づかれるギリギリの距離で一気に急上昇した。これで敵の意表を突くことができる上に、見下ろす形にすれば攻撃は当てやすくなる。
「敵、急上昇!!」
「どうしてこんなに近くに来るまで気づかなかったんだ」
「准将は地面すれすれを飛んで高速で移動するんだ」
「攻撃準備! すぐに撃ち落としなさい」
「対空砲火、撃ち方始め」
だが、俺の動きが奇襲になっているため、散発的な迎撃になる。これならダンボールの妖精の力を借りずに、スピードを上げるだけで対処できた。
そして、高度を上げて敵の攻撃が届かない場所まで上昇する。これで直下の敵を
高高度爆撃。
魔力制御がうまくいかなければ、ただ無差別に攻撃をばらまいているくらいの意味のない攻撃になる。だが、妖精の加護を持つ俺ならそれが可能だ。
「敵直上!!」
「攻撃が届きません」
「魔力部隊による精密射撃には準備時間がかかります」
「閣下の攻撃が来るぞ」
「みんな伏せろ」
「救国の英雄といえども、たかがひとりの魔導士だ。何ができる」
「直上からの攻撃来ます。数、40!!」
「うわああぁぁぁっぁああああ」
「なんという精度だ」
一度衝撃波を食らった兵士は戦闘不能扱いになる。俺は魔力の衝撃波を同時制御で放った。魔力の衝撃波はこちらの世界では基本となる技術のため、たぶん50以上制御できると思う。ただ、今回は魔導士隊を壊滅させるために精度重視で撃っている。
これでほとんどの魔導士は無力化した。対空砲火すら届かない状況ならもう負けることはない。
ラガ大佐はすぐに状況を判断し、降伏の意思表示を示す白旗を上げた。
※
「准将が下りてくるぞ」
「100人の兵をひとりで圧倒しやがった」
「神か悪魔か」
「鬼神だ」
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