第49話ホームレス防衛線を無効化する

―ボルミア公国(公王視点)―


「ダメです、第一防衛線突破されました」

 前線から入る悲報によって作戦会議室はどんよりとした雰囲気に包まれる。


「第一防衛線は強固ではなかったのか、どういうことか説明してもらおうか、陸軍大臣っ!!」


「公王陛下……第一防衛線は破られたのではありません。放棄したのです。最前線のグルーダ将軍が行方不明となってしまった状況では、国境付近の防衛線で消耗するべきではありませんからね。ここは天然の要害を利用した第二防衛線の死守に専念いたします」


「それで、敵の航空魔導士隊の対策はできているのか。魔導士による対空砲火は無効化されたと聞いたが? やつらによってこちらの魔導士部隊は壊滅。前線は崩壊している。どうにかならんのか。あのクニカズ中佐を止めろ」


「公王陛下、ご安心ください。第二防衛線においては戦力は分散して配備しており、航空魔導士隊からの攻撃で甚大な被害が出ないようになっております。天然の要害のため、ここで敵の出血を強いて、できる限り有利な講和を目指すのが最善かと」


「もう勝てぬか……」


「残念ながら……すでに我が連合軍の主力は壊滅しております。このような状況では、よりよい負け方しか選ぶことはできないかと……」


「うむ。いたしかたあるまい。厳命する。絶対に第二防衛線を確保……」


 そう言いかけた瞬間だった。


「第二防衛線から緊急連絡です。第二防衛線はクニカズ中佐率いるヴォルフスブルクの航空魔導士隊を確認。戦闘に移りました」


『なんだと』

『すさまじい機動力だ』

『まさか、第一防衛線を破ってからそんなに時間が経っていないだろう!?』

『第二防衛線での戦力の再編はできているのか!?』


 陸軍大臣はハンカチで汗を拭きながら答えるのが精いっぱいだ。


「現状、確認中です」


『確認中とはなんだ!!』

『わかっているのか? キミが開戦を主導したんだ。どう責任を取るつもりだ!?』


「責任は、戦後にしっかり取らせていただきます。しかし、軍部は秘密兵器を隠しているのです。こちらも秘密裏に航空魔導士隊を結成し、第二防衛線に配置しております。戦闘継続可能時間は10分程度ですが……一定の対抗手段になるはず。第二防衛線を指揮するクリット将軍には、敵が見えたらすぐに迎撃に向かわせるように指示をしております」


『おお~』

『我が国にも秘密兵器があったのか……』

『同条件なら地上からの援護があるこちらの方が有利じゃないか?』


 楽観論が会場を支配した。


「いえ、しかし……」

 伝令だけが青くなって言葉を否定する。


「なんだ、どうしたんだ!!」

 私は思わず声を荒げてしまう。


「第二防衛線からの伝令では、迎撃に向かった航空魔導士隊は一瞬にして撃ち落とされて無力化された模様です。最前線からの報告では、クニカズ中佐の魔力によって抵抗すらできなかったと……」


 その報告を聞いた瞬間、私は持っていた杖を落としてしまった。杖が転がる乾いた音だけが会議室に響いた。

 

 ※


 俺は戦場の空にいた。

 軍事参議官室室長とデスクワーク中心の生活だったが、論文も完成したことで兼務で実戦部隊を率いることにもなった。


 第1航空魔導士隊隊長。それが兼務した俺の役職だ。


 女王陛下に妖精の存在をカミングアウトしてから、航空魔導士の研究はより進んだ。まだ、少数ながらも浮遊魔力を増幅し安定させる魔道具も完成した。こちらはまだ先行量産中だが、徐々に数は整いつつある。


 よって、20人の腕利き魔導士たちを選抜して航空隊を結成したわけだ。


 彼らは半年の厳しい訓練によって、安定した浮遊技術が完成している。まだ、地上攻撃は回数を制限しないといけないが、浮遊能力は向上し5時間以上の連続移動も可能になっている。


 このメンバーを鍛えて、列強国との衝突に備えるつもりだったが……


 まさか、こんなに早く初陣を迎えるとはな……


 この航空魔導士隊は、女王陛下直属部隊。ボルミア―シュバルツ連合軍の奇襲を聞いて、すぐさま出撃命令が出された。


 俺たちはすぐさま出撃し、地上部隊の航空援護を実行。対空攻撃は、俺のダンボールによる魔力防御で打ち砕き、敵地上部隊を壊滅させた。


 部下たちはやはり初陣で、訓練の時よりも緊張していて動きが固かった。だから、なるべく俺が前線に出て、部下たちは後方から1・2発の援護射撃を行わせるにとどめた。航空魔導士は装備にもお金がかかる。だが、それ以上に養成するのが大変だから、できる限り消耗したくはないからな。


『すげぇ、やっぱり隊長の魔力は底なしだ』

『俺たちを守ってくれているうえに、さらに敵にも甚大なダメージを与えている……』

『指揮、戦闘、理論、軍政……本当に何でもできるんだな』

『"茶色の狼ブラウン・ウルフ"の異名は伊達じゃないぜ』


 俺たちの攻撃で敵の魔導士隊は壊滅し、司令部も崩壊させた。敵は総崩れになりつつある。


「よし、みんな一度引くぞ!」

 勝利を確信し、俺は撤退を命令する。


『どうしてですか?』

『敵が総崩れですよ。追撃した方が……』


「ダメだ。お前たちは長距離移動してきて、あと1発くらいしか魔力を撃つ余力しかない。イレギュラーな事態が生じたら、こちらが壊滅する可能性だって残っている。ここはクリスタが作っておいてくれた補給基地に戻り、一度休息して次に備えるのが最善手だ。俺たちの役割はこのあとの防衛線攻略が本番だからな」


『すげえ、勝ちに浮かれてない』

『ああ、局地的な勝利を目指さずに、大局観で物事を見ている』

『本質は戦略家なんだな』

『この人についていけば間違いないな』


「よし、あとはアルフレッドに任せて撤退する!!」

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