第50話ホームレスvs要塞
俺たちは補給基地で休息した後、前線のアルフレッド達と合流した。
今回は王都からアルフレッドが総指揮官として赴任していた。軍務次官が特命を帯びて、第1軍団総司令に任命されて前線に来たということは……
女王陛下と軍中央は、この1年間で積み重ねた研究の成果を見せろと言っているんだろう。
だから、俺と最も相性がいいアルフレッドを急遽、総司令官に配置換えしたんだ。
俺が最前線を壊滅させたことで、逆にヴォルフスブルク軍が攻勢に出ていた。
すでにヴォルフスブルク軍主力は、敵国の国境を越えて進攻していた。
敵国の防衛線は、崩壊寸前だ。敵国の主力は崩壊しているため、じきに突破できるだろう。
「どうするアルフレッド? 最後の一撃を決めに行くか?」
航空魔導士の火力は空飛ぶ砲兵みたいなものだ。一方的に空中から攻撃される状態は、損害も大きいが敵の指揮も下げる。すでに崩壊寸前の防衛線のとどめになるだろう。
「いや、クニカズ。キミたちはまだ温存する。ここは地上兵力だけでも突破可能だからな。貴重な魔力は次のラインを突破する時にしたい」
「だろうな」
俺たちは目の前の地図を凝視する。
「アルフレッド、おそらく敵の防衛線の本命はこの天然の要害だろう。ここを放置して進めば、俺たちの補給路には甚大な被害が出る。攻略は必須だ」
「うむ。だが、この山城を攻略するには大変な被害が出るぞ。ここまで強固な陣地を正攻法で攻略するには敵兵力の10倍は必要だろう」
たしかにそうだ。高地や山に籠もる兵を倒すには、相当な労力が必要になる。
戦国時代の城は、ほとんどが山城だった。
例えば、鎌倉時代末期に発生した赤坂城の戦いがある。
幕府打倒のために挙兵した伝説的な英雄・
500程度の兵力で山城に籠城した楠木軍を幕府軍は1万人で包囲したが、地形を有効活用した楠木軍に翻弄されて幕府軍は1000人以上の被害を被ってなおも力技では陥落させることができなかった。
他にも、日露戦争中の旅順要塞攻防戦でも、高地を利用したロシア軍の防衛陣地は日本軍を苦しめて死傷者が6万人にも出血を強いた。
高地を要塞化することは戦争において最も重要なことのひとつだった。
だが、今は違う。
「アルフレッド……要塞は、空中からの攻撃の前では無力だ。俺の世界における歴史の結論をお前に見せてやるよ」
「ああ、楽しみにしている。第一防衛線突破後は、敵の防衛線が再構築される前に潰してくれ」
俺たちは地図を前にうなずいた。
※
―ボルミア公国・第2防衛線司令部―
「将軍、ついにヴォルフスブルク軍が我が国になだれ込んできています。第1防衛線突破は時間の問題かと……」
「クリット将軍、中央はこの防衛線を死守するように言ってきております」
部下たちは悲壮な声を次々と上げる。
『おい、ヴォルフスブルク軍の空飛ぶ魔導士がうちの主力部隊を壊滅させたらしいぞ』
『それって、ニコライ=ローザンブルクを討ち取ったクニカズ中佐の部隊だろう……』
『ブラウン・ウルフ……』
すでに兵たちには、ヴォルフスブルクの秘密兵器の噂は広まっていた。士気にも重大な影響をもたらしていた。
「皆の者、安心しろ。この防衛線は天然の要塞だ。高地、防衛に利用できる川、森に展開すれば大砲も隠せる。さらに、ボルミア公国中央はヴォルフスブルクの秘密兵器に対抗するために、空飛ぶ魔導士を養成している。この防衛線にも秘密裏に彼らが配置されている。安心しろ!! この防衛線でヴォルフスブルクのやつらを撃破する。諸君たちの奮戦に期待する」
『なんと!!』
『我が国にも空飛ぶ魔導士がいるのか!?』
『ならば勝機はあるぞ。防衛は、攻めるよりも有利だ』
よし、これで士気は戻った。やれるはずだ。
「皆は防衛線の最終確認を頼む。敗残兵がこちらに逃げてくることになっている。彼らは吸収して、戦力を再編するぞ! 私は、航空魔導士隊と最後の打ち合わせをしてくるここは頼んだぞ」
※
―ボルミア公国・第2防衛線作戦会議室―
ここは私と魔導士隊しか場所を知らされていない秘密の場所だ。
暗い会議室にはすでに、腕利きの魔導士たちがすでに着席して待っていた。
「諸君、今回は当初の想定通り守備に専念してほしい。地上部隊と協力して航空魔導士隊を追い払って欲しい」
航空魔導士隊長は不敵に笑った。黒いフードを被って顔はよく見えない。悲壮な覚悟を固めている他の兵士たちとはまるで違う余裕を持っていた。
「将軍? たしかに追い払うつもりだが……何を弱気なことを言っているんだ? 撃ち落としてしまっても構わんのだろう。クニカズを討ち取れば、俺が世界最強だ」
「ああ、もちろんだ。敵のクニカズ中佐を倒せれば、こちらは圧倒的に有利になる」
「楽しみだぜ。将軍、俺はね、すべてを持っている奴がムカつくんですよ。だから、戦場でそんな奴を殺すために軍に入ったんです。最高なんですよ。こちらに未練があるやつが、俺と出会って死ぬとわかるまでの顔を見るのがね。ああ、早くやりたいぜ……」
黒フードは残虐な笑みを浮かべた。
※
「クニカズ隊長……今なんて……」
部下のカルバル大尉は、俺の提案を聞いて硬直したまま青ざめていた。
まあ、普通に考えればやばいことを言っている自覚はある。
「カルバル大尉。たしかに自分でも無理なことを言っているとはわかっている。だが、勝算は確かにある。みんなも俺を信じて欲しい」
「本気なんですね? 敵の第一防衛線突破後に俺たちだけで、第二防衛線を強襲して陥落させるってのは。わずか20人の魔導士で敵の要塞を陥落させるということですよねっ!!」
「ああ、敵国に戦力再編の余地を与えないように電撃戦でいく。俺たちの攻撃の主目的は、ボルミア公国・第2防衛線の要衝である砦だ。ここは山城で、川が複雑に入り組んでいる場所にある。周囲は森が生い茂っていて、おそらく火器が隠されているだろう。天然の要害だな」
「いくら戦力の再編が行われていなくても、砦には数千の兵力はいるはずです。その兵力にわずか20名の戦力で勝てるわけが……」
「いいか、カルバル大尉。俺たちは、世界初の航空魔導士だ。まだまだ、手探りなところはあるが自分たちのことは客観的に見た方がいい」
「といいますと……」
「敵の対空砲火は先ほどの戦いでもわかるように、俺たちには無力だ。よって、俺たちは一方的に攻撃が可能だ。そして、キミたちは地上攻撃に専念すれば3発程度の魔力攻撃が可能になる。それも陸上からの砲撃とは違って、何も邪魔されることなく空中からだ。外れる要素などほとんどない。俺以外の隊員だけで60発近い砲撃を要塞には撃てる。そうすれば、要塞の無力化は造作もないはずだ。森林に隠しているはずの大砲も大部分は駆逐可能。つまり、20名の航空魔導士で敵の第二防衛線は壊滅させることが可能だ。アルフレッド将軍も俺もそういう結論に達した」
「たしかに……」
「もちろん、敵国側にも航空魔導士が養成されている可能性はある。だが、こちらに比べれば1年以上の技術の開きがある。戦争において技術の開きは大きなハンディキャップだ。敵が迎撃に上がってきた場合は、すべて俺が引き受ける。お前たちは地上攻撃に専念してくれ」
「了解」
俺の世界の歴史でも要塞はこんな感じで陳腐化されていった。戦車による突破力で要塞が孤立化されやすくなり、航空機の発展で防御力にも疑問が持たれ始めたのだ。今でも限定された状況では防御陣地は有効だが、要塞や城のような大規模な防御施設は航空機に狙い撃ちされるため無用の長物だ。現在は、大阪城や姫路城、熊本城がただの観光名所になっていることからもわかるだろう。
「さぁ、諸君。一緒に歴史を作ろうか」
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