14
大司教達が出て行ってから、レティシアのいる部屋は静寂そのものだった。
レティシアが何もせず、ただぼーっと外を眺めている以外、何もしていないからだ。声も出さない、身動きもしない。涙すらも、流さない。
ただ、外の景色を眺めては思った。
(あの稜線の、ずっと向こうなのね。バルニエ領は……)
普段は部屋に書いた魔法陣を使って一瞬にして移動してしまうので、どうも勘違いしそうになる。バルニエ領は、ここからは肉眼で捉えることが出来ないほど、ずっとずっと遠くにある。
とてもとても、遠い場所なのだ。
そう感じるのは、距離の問題だけではないかも知れない。
(もう、あそこへ行ってはいけない……行けば、あそこに暮らす人々が……アベル様が、どうなるか……)
大司教の言葉は脅し文句なのだと思う。だが、実現させてしまう力を持っていることも事実。万に一つも、あってはならないのだ。
(簡単なことよ。私がここで飼い殺しにされていれば、それであの地の平穏は保たれるのだから。ここにいたって、酷い扱いを受けるわけではないだろうし。少し不自由なだけ。それだけよ、きっと……)
自虐的な思いで溢れそうになった。その時――コンコンと、扉を叩く音がした。
「お食事を、お持ちしました」
かすれて消えそうな声が、聞こえてきた。どこかで聞いたことがあるような気もするが、ともかく今は、食事なんて気分じゃない。
「いらない。下げてちょうだい」
「そういうわけには……」
きつい言葉を返してしまった。だが弱々しい声の割にははっきりとした拒絶の返答だった。
大司教のあの様子だと、どう言いつけられているかわからない。自分が頑なに食事を拒めば、もしかしたらこの扉の前の人物が罰を受けるかもすれない。
「わかったわ。入って、置いておいて」
「ありがとうございます」
急に嬉しそうな声に変わった。この蕾が開花したような印象を、どこかで抱いた気がしていた。
そのぼんやりした考えは、急速に形を成していく。
部屋に入ってきた人物が、食事の載ったワゴンを置いてぎこちない笑みを浮かべる。
「お食事です。レティシア様……」
深々と頭を下げるその人物の名を、レティシアは思わず、呼んでいた。
「どうして、ここにいるの……アラン!?」
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