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「もとより、君は影で聖女の役割を果たしていたんだ。今更、何が変わると言うこともない」

「どういう意味ですか」

「隠していてすまなかったが……聖女と教会の役割とは、要は神聖術の素養のある魔力をこうして分配することなのだよ。聖木は、その目印ということだ。君が先ほど分け与えてくれた魔力は、これから各地へ配分され、その地の教会にある聖木へと注がれる。すると聖木がその地の土を潤すということだ」

「聖木を受けられれば『恵み』を得られるとは、そういう意味……? そんな、いつから?」

「聖女の役割とは初代からそのようなものだったよ。ただ、先代までは聖女がその足で各地を巡り、『恵み』……魔力を与えることをなさっていた。そのための巡礼だったのだが、先代の聖女様……王妃様はお体が弱い。各地を巡るのはあまりにもご負担が過ぎる。どうにかできないものかと思案していたら、ある方から提案があってね。それが、この機械というわけだ」


 大司教は、そう言って目の前の機械をポンポンと叩いた。


「王妃様のために、この機械が……?」

「そう。これのおかげで聖女様は王都を出ることなく、『恵み』を与えることができたのだよ。素晴らしいだろう?」


 レティシアは、眉をひそめて聞いていた。これから何を言われるのか、聞くのが恐ろしい。だが同時に、自分のあずかり知らぬ話を進められることも恐ろしい。


「では何故、私は礼拝の時に、これを……?」

「……君は、聞いたのだったね? 王妃様の力について」

「王妃様の……?」

「あの方が、とうに力を無くしておられるという事を」


 レティシアは、咄嗟にセルジュの方を振り返った。王宮でも知る者の少ない極秘事項のはず。だがセルジュは眉一つ動かさない。知っていた、ということか。


 つくづく、自分は謀られていたのだと、自覚するほか無かった。


「……はい。図らずも、聞いてしまいました」

「だがご立派に聖女のお役目を果たしておられた。それは、『恵み』を与えるということも含む。どうして、それができたと思う?」

「……そういうこと、ですか」


 レティシアは物心ついた頃から礼拝を欠かさなかった。だが成長すると、人目を避けて置くの部屋に通されるようになった。そして、この大きな機械に祈りを捧げるように言われた。


 思えば、八年ほど前……あのポムドテールの一件の後からだ。


「私はずっと、そうとは知らずに王妃様の代役を務めてきたのですね。そして今度は、アネットの代役を務めろと……」


 愕然とした、という言葉がぴったりだろう。


 この老人は……大司教と名乗るこの男は、『聖女』をこの世の誰よりも神聖な方だとうそぶきながら、アネットを見目だけ着飾った傀儡に、そしてレティシアのことを教会の中で魔力を吸い上げるためだけの飼い殺しにすると、にこやかに告げたのだ。

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