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「い、以上とは……」


 レティシアの態度は、どうも想定外だったらしい。たじろぐリュシアンを、さらに呆れた様子で見つめながら、レティシアは続けた。


「①よくもアネット嬢を虐めたな。②お前なんかと夫婦にはなれない。③だから婚約を破棄する。以上がこの場の皆さんを巻き込んでまで仰りたいことですか……と申しました」

「そ、そうだが……当然だろう! 本来なら今日この場で婚姻を宣言するところだったんだ。そのような偽りの宣言を国民に対してできない」


 リュシアンは、あくまで堂々と、高らかに謳い上げている。レティシアがぴくりと動くと、アネットを後ろに庇った。

そんな様子を見て、レティシアはもう一度、すぅっと息を吸い込んだ。


「まず①についてですが……私、アネット嬢をいじめてなんかいません」


 きっぱりと言い切った。レティシアは、リュシアンに半ば呆れつつ、半ばせせら笑っていた。

 その態度もまた忌々しいと言うように、リュシアンは噛みついた。


「あっさり認めるわけはないと思っていた。だがな、目撃者が何人もいるんだぞ。ねちねちと嫌みを言っているだとか、人を使って嫌がらせをしただとか」

「嫌みとは、何ですか? 嫌がらせとは? 具体的に仰って下さい」

「ここは平民のいる場所ではないと言われたと」

「呼ばれてもいないお茶会の様子を窺っていたからです。招待状はあるのかと聞いただけですわ」

「持ち物を隠されたり、壊されたりと……」

「そんなすぐに足の付きそうなことをして何になりますか。公爵家の名に傷が付くだけでしょう。馬鹿らしい」

「ば……!? そうだ、それにいつもいつも家柄を鼻にかけて人を寄せ付けないと……」

「勝手に人が避けていくんですもの、仕方ないでしょう。私も理由が知りたくて密かに調べたのですが、どうもどなたかが吹聴してくれていたらしいのです。レティシアは公爵家という家柄を鼻にかけていつも威張り散らしている。たとえ王家の人間でも傍にいると疲れる、とね」

「ぐ……」

「ああ、ついでにお伺いしたいですわ。人が寄ってこないのに、どうやって『人を使って嫌がらせをする』んでしょう?」


 リュシアンは押し黙った。それに対して余裕綽々のレティシアは、実に優雅だった。

 皆の視線が、リュシアンに向かった。疑惑の目として。

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