第22話 魔王就任。そして男女混合ハーレム婚(後編)

 フリーとワイファと一緒にやってきた夕暮れの浜辺。海から巨大な大魔女様が現れる。


「あら王子よ、何用かしら」


「フリーとワイファのお見合いを無しにしてください!」


「ホホホ、単刀直入ですね。わたしは、この子らを心配しているのです。フリーは十八、ワイファは二十。人魚の常識でいえば、です」


「この若さでですか」


「他の魔族には分からないでしょうね、特にワイファはもう子供が産めるかギリギリのライン。仕方なく年増好きの男を探してあげたのです」


「結婚さえすれば相手は誰でもいいのですね」


「そうですが、まさか……」



「ぼくが二人とも奥さんにします!」



「「「「ええええ!」」」」


 フリーとワイファだけでなく、こっそりついてきたらしいメガとギガも絶叫した。更に海の中からも複数の人魚が顔を出した。


「何を寝ぼけたことを言っているのかしら?」


「レッドから聞いたことがあります。魔王に就任すると一度だけ法律を変えることが出来ると」


「と、言うと?」


「魔王になって、結婚をもっと自由にします。十二歳以上で同意の上なら誰とでも何人でも結婚出来るように書き変えます!」


「「「「「ええええ!」」」」」


 地割れのような叫びが響き渡る。

 そんなに大変なことを言っているのかな。あまりのリアクションにちょっと怯む。


「お、女の子同士でも?」

「はい」

「血縁でもいい?」

「はい」

「ヒトデでもいいの?」

「十二歳以上で意思の疎通が出来るなら……」


 人魚たちがワイワイ盛り上がって、飲めや歌えの大騒ぎになった。


「面白い魔王だこと。しかしまだ認める訳にはいきませんね。フリーのどこがいいのかしら、単細胞でうるさいでしょうに」


「フリーは思い込みが激しくて暴走しがちですが、いつでも真っ直ぐで、お姉さん思いの優しい子です。それにすごく可愛いです!」


「ひ、姫ええ!」


「ならばワイファはどうです。音痴で不器用なババアでしょうに」


「ワイファはいつも穏やかで一緒にいて落ち着きます。楽しそうに歌いながら絵を描く姿が素敵です。それにすごくキレイです!」


「姫ちゃああん!」


 フリーとワイファに両側からしっかり抱きしめられて、頬にキスをされた。


「まあ、娘たちも王子を好きな様子。もう邪魔をしませんわ。早く孫を見せてくださいね」


 大魔女様と他の人魚たちは手を振りながら海に消えていった。メガとギガにたくさん感謝されつつ、二人に抱きしめられながら、お城に帰った。



 メイド長さんに、魔王就任と法律の改定を願い出て、様々な書類に血でサインをした。レッドの居場所は残したいから、魔王になった事は公表しないでまだ影武者を続けていく。



 城下町の新レストラン。

 オープン準備のために作業中のおじいさんに声をかける。お店が繁盛しているのは、このイケメンフェイスの力もあるのではと思わせる笑顔だ。


「お久しぶりです。この度はおめでとうございます。これはお祝いです」


「これはこれは、どうもありがとう。しかし要件はそれだけではないようですな」


「はい。少しお時間をよろしいですか」


 ぼくは今日までの事を全て話した。具合が悪い時に優しくしてもらった事。追放された時に支えてもらった事。石造りの家で一緒に過ごした日々。


「キョウ君はかけがえのない存在なんです。彼がいない生活はもう考えられません。お願いします。どうか、一緒に居させてください!」


 頭を下げると、おじいさんの笑い声が聞こえた。


「実はの、スタッフは足りておるんじゃ」


「それならば、なぜ?」


「子供が出来たと報告してから、孫がとんと手紙を寄越さんようになってな。寂しゅうて、近況を聞くノリで勧誘したんじゃが、深刻に取られたようで悪かったわい」


 なんだ、そうだったのか。

 子供を心配する親心は、時に騒動を巻き起こす。


「孫の片想いではないと知れて良かったわい。のう、出ておいで」


 壁の向こうから、耳まで真っ赤になっているキョウ君が現れた。何も言わなくても、今までの話を聞かれていたのだとよく分かる。


「先ほど真剣な顔で断りに来ましてな、トリィさんと一緒に居たいのだと。さあ二人で帰りなさい。オープンしたら食べに来ておくれ」



 キョウ君と並んで城下町を歩き、扉をくぐってお城までの長い階段を登っていく途中。

 キョウ君が足を止めて、手を握ってきた。


「トリィ、俺と付き合ってください」


「キョウ君……。すごくすごく嬉しいけど、言わなきゃいけない事があるんだ」


「えっ、なに。まさか全部ドッキリ?」


「フリーとワイファと結婚の約束をしたんだ」


「どういう事なんだよ!」


 階段に座りながら、事情をイチから説明した。


「そういう事だったのか」


「軽蔑した?」


「いや、トリィらしいと思うよ。しかし既婚者か、じゃあ付き合えないよな……」


 血の底まで落ちそうなぐらいにガッカリした様子に、何か言わなくちゃと焦る。階段から生えている雑草を引き抜いて、丸く加工する。


「もう付き合うの飛ばして、結婚しちゃわない?」


 即席の指輪を差し出した。

 キョウ君の目が限界まで開かれている。


「そういうの有りなの?」


「フリーとワイファがOKしたらになるけど」


「待って。そういう事なら仕切り直させてよ」


 キョウ君は草の輪を受け取り、ぼくの手をうやうやしく取った。


「いつも人の幸せの事ばかり考えてる、優しくて危なっかしいトリィが大好きだ。結婚してくれ!」


「はい!」


 草の輪を指にはめてもらい、町の明かりを遠くに感じながら、唇を重ねた。




「まあ、オオカミ男の気持ちは知っていますからね、ギリ許してあげます」


「みーもキョウちゃんだけはいいわよ〜」


 二人のOKが出たので、メイド長さんの司会進行の元、お城のホールでささやかな結婚式を行った。


 黒を基調としたゴシックな婚礼衣装に身を包み、ウエディングドレスを着たフリーとワイファ、タキシードを着たキョウ君に、順番に指輪をはめていく。お揃いの指輪が四人の薬指に光った。


「初代魔王ホワイト様の名の元に、四名の結婚を認めます」


 メガとギガとサトリの子供たちとメイドさん数名の拍手が鳴り響いた。吸血鬼は「処女が減る事の何がめでたいのじゃ」とヤケ酒を飲んだ。


 その夜は、フリーと手を繋いで眠りについた。彼女の寝相が悪すぎて、深夜にベッドから蹴り落とされた。

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