第41話 世界はつながったまま①
こうして私、練馬ナリは日常に戻ってきた。
やけ食いで倒れて転生してから、実に一ヶ月間くらいの出来事だったらしい。
無くなった私の死体と言うのは実はもう火葬されてて、お骨だったんだとか。
そうしたらお骨が消えて生身の私が玄関から入ってきたので、大変な騒ぎになったわけだ。
「異世界転生かあ……うーん、そんなものがあるんだなあ……。いや、ナリが元気に戻ってきたから、俺としちゃ本当に嬉しい限りなんだが……」
「私はあるがままに受け入れるわねえ。ナリちゃんが元気に帰ってきて、それに異世界? の彼氏さんも連れてきたでしょ? 前の彼とはダメだったものねえ。私、前の彼はちょっと頼りないなーって思ってたのよ」
両親とそんな話をしたりなどした。
なお、元彼であった男はあの時のチョップで許してやるなどした。
私は寛大なのだ。
というか、この一ヶ月間の冒険で、そんな小さなことがどうでも良くなったと言うか。
テレビでは今日も、都心に空いた大きな穴のニュースで持ちきりだ。
とうとう、穴の向こうに潜水艦みたいな機械を使って漕ぎ出していくらしい。
穴へドローンを飛ばすと、向こうにカリフォルニアと、よく分からない世界があることが判明したんだそうだ。
穴の中はよく分からない、極彩色の渦で満ちている。
新しいエネルギーの発見だ、と沸き立つ人もいれば、ここから地底人と会えるかも!と脳天気な感想を言う人もいる。
「新しいエネルギーっていうか、この星が大昔に封じた古いエネルギーだし、地底人じゃなくて宇宙人が向こうにいるんだよなあ」
朝食のトーストに目玉焼きを載せ、たっぷりケチャップとマヨネーズを掛けてからかじる私。
大穴を探るニュースをぼーっと見ながら、画面の時刻表示を確認したりなどする。
そう、一ヶ月半ぶりの登校なのだ。
授業の遅れを取り返さなくちゃいけないし、あんな冒険の後でこんな呑気な日常を過ごすようになる。
これから仕事の父が、ぶらぶらと出ていった。
母も出勤準備をしている。
「行ってらっしゃい」
二人を見送った後、私は登校する。
食器を洗い場にドザーっと入れ、おかずをラップして冷蔵庫に叩き込み、カバンを持って出発なのだ。
「ナリじゃん! 今日から?」
「そうそう。一ヶ月半ぶり……! ま、死んでから一ヶ月で復活したんで、半月はリハビリだね……!」
「わははは、受ける」
友人である朋美と会って、喋りながら通学する。彼女は草野球チームのキャッチャー、権藤さんの娘で、宝船でエーテル宇宙までやって来た豪傑だ。
高校は徒歩圏内。
近かったから決めた。
「穴さ、空いてるでしょ」
「空いてるねえ」
彼女とも穴の話題。
「あれって、ナリ飛び込んだんでしょ? どうだったの?」
「朋美だって宝船に乗って飛び込んできたでしょ」
「だってナリがなんか生き返って、しかもヤバいやつとヤバいことしてるって聞いたからさ! 友情よ、友情」
ぐっと腕まくりし、力こぶを見せる朋美。
「力こぶ柔らかい」
「うはは、くすぐったい」
私に力こぶもどきをモミモミされて、朋美は笑った。
「んで、正直どうなの? ナリ、あっちから彼氏連れてきてたでしょ」
「あれを彼氏と言っていいものか……。あっちにペットみたいなのがいることは間違いないんだけど」
ケミストリの顔と、ヒトデのトムが交互に脳裏をよぎり、最後にアメンボマシーンに取って代わられた。
「割りとその気になればいつでも来れるみたいだよ」
「マジで。じゃあナリからも会いに行けるじゃん」
そうなのだ。
電車を乗り継いであの球場だったところまで行けば、私はいつだってアルケイディアへ行ける。
これはなかなか凄いことではないだろうか。
いや、行ったところで何か特別な物があるわけじゃないんだけど。
学校に到着したら、友人たちにもみくちゃにされた。
野次馬も集まってきた。
私が空を飛んでるのが、報道ヘリで間近に撮影されてたんだと。
あー、あのヘリか。
私はちょっとした有名人で、その時の動画は動画投稿サイトにもガンガンアップされてて、色々な考察が出回っているらしい。
「練馬さん、宇宙人なの!?」
「空飛んでたけど、あのガジェットっぽい虫マシーンはなに!?」
「よく虫乗れるよね……キモイ」
私、最後の発言にキレる!
「は!? アメンボは私のペットみたいなものなんだけど!? 謝って?」
「何ムキになってんの? そっちもキモイんだけど」
暴言を吐いた女子がムカついたので、私は彼女のスマホをロックオンして。
「吸引!」
キュイイイイイインッ!!
スポン!
吸引完了だ。
近くを飛んでいた羽虫も一緒にね。
「あ、あ、あたしのスマホぉぉぉぉぉ!!」
「返してあげるってば。ほら」
◯お腹の中
スマホ
羽虫
◯レシピ
アブマシーン
「錬成!」
私のお腹が光った。
おっといけない!!
私はお腹のボタンを外した。
男子たちがどよめき、集まってくる。
朋美が素早く、カバンでお腹を隠してくれた。
「ナイス」
「いきなりボタン外すのやめてね!?」
ともかく、お腹から飛び出してきたのは、一見してさっきの生徒のスマホ。
だけど、それに機械の羽が四枚生えて、六本足をゴシゴシこすり合わせる不思議なガジェットだった。
「はい、返すね。自分で動けるようになったよ。これはサービス!」
「あひーっ!? あ、あたしのスマホが虫にーっ!?」
そう。
私は吸引して錬成する力を持ったままなのだ。
つまり、転生したままの状態でこっちの世界にいる。
いいのかなあ……。
いいんだろうなあ。
多分いいんじゃないかな。
私は考えるのをやめるのだった。
どうせ、このままありふれた日常が続いていくのだ。
多少吸引と錬成が出来る程度では、何も変わらないし……。
ところが、世界があっち側と穴で繋がっている以上、ありふれた日常なんか戻ってくるわけがなかったのだ。
=================
日常編、やっぱり雑な感じで生きているナリです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます