【書籍版・第33話】ダンジョンボス

洞窟の奥をじっと睨み。

ヴァンが低く唸り、毛を逆立てる。


「ヴァン?」

リュイアが心配そうに声をかけた。


道の奥から、重く、不気味な足音。


姿を現わしたライオンのような魔物は、六つの足を使って、のそのそと近づいてきた。


蛇のような太い尻尾で、地面を叩く。

背中には大きな翼があった。


顔があるはずの位置には、獣の頭蓋骨のようなもの。

その骨の顔が、威嚇するかのように、口を開けたり閉じたりする。


神話上の化け物――キマイラを、さらにおぞましくしたような見た目。


リュイアが杖を振る。


【獣が混ざり合った魔物じゃのう。脅威度は★★★じゃな】


杖の声に続き、ヴァンが口を開いた。

「手こずるかもしれん。今までの魔物とは、魔力の大きさが違う」


「どうしよう。一旦、引く?」


「いや。おそらくこの者は、ダンジョンボスだ」


「ダンジョンボス?」


グォー!!と魔物が吠えた。


そして俺たちに向けて、黄色い火を吐きだした。


ボォォォォォ……


その火はぎりぎり俺たちには届かなかった。


だが、強さを示すには十分なパフォーマンスだった。


「この者を倒しさえすれば、おそらくダンジョンコアはもう目の前だ。何とか引かずに倒したいが……」


めちゃくちゃ、やばそうな火、噴いてるんですが……


魔物は翼をはためかせ、俺たちに向かってきた。


迷っている暇はなかった。


「前、行きます!」


「分かった。後方から援護する!」


俺が【雷球】を放ち、ヴァンもほぼ同時に紫の火を吹く。


空中を飛んでくる魔物を、二つの魔法が襲う。


だが、怪物が怯む様子はなかった。

こちらに前脚を伸ばし、俺たちを掴もうとする。


ヴァンと二手に別れ、それをかわす。鳥のような前脚だった。


【雷球】

躱しながらも、カミナリ球を打ちまくる。


が、いくら当てても、相手に効いている様子はまるでない。

敵の体にぶつかった瞬間、魔法が弾けてしまう。

ヴァンが放つ火球も同様だった。


「ヴァン、これ効いてる!?」


「敵の魔力で、我々の魔法が打ち消されているんだ! このまま当てて行けば、削れるはずだ」


短い言葉だったが、状況はピンときた。

魔力がバリアのような役割を果たしているらしい。


そうと決まれば、【雷球】を打ちまくろう。

なんせ魔力量に関していえば、十分にある。


【雷球】

ひたすら距離をとって、雷球を打ちまくった。


隙あらば、近づいて【雷剣】で叩こうと思ったが、なかなかできそうにない。


敵は黄色い炎を吹き、俺たちを寄せ付けない。


距離を取り、それでも当たりそうになったら、防御魔法で応じる。


【雷盾】


敵が放ってくる火を、雷の盾でかき消す。


俺とヴァンが放つ火は、次第に、怪物の体に残るようになった。


どうやら、敵の魔力は確実に削れているらしい。


このまま、削り切ってしまおう。


【雷球】

【雷球】!

【雷球】!!

【雷球】!!!

【雷球】!!!!


白い雷と、紫色の火をくらってうめく怪物。


大分だいぶきてるな……』と思った、次の瞬間。


敵が今までよりもはるかに速いスピードで、俺に飛びかかってきた。


【雷盾】!


鋭い爪にやられる寸前で盾を出現させる。


その盾ごと、俺は吹き飛ばされる。

「くっ.......!」


怪物が凄まじいスピードで這い、俺に迫ってくる。

背後は壁。

完全に追い込まれてしまった。


「ケィタ!」

リュイアの悲鳴。


だが、俺の感情は不思議と落ち着いていた。


俺の脳裏に、あの魔力の湖とそれを覗き込む少年の姿が浮かんできた。


『魔法は、』と俺は思う。


俺を追い詰めた怪物が、勝ち誇った様子で大きく口を開く。


『求める者に与えられる』


邪悪な口から黄色い炎が吐き出される。


『魔法が必要だ』


魔力の湖に、俺は淡々と訴える。


『魔法が必要なんだ』


湖の傍にいた少年が微笑んだ。


俺は魔力から、新たな魔法を引き出すことに成功した。


雷鎧らいがい


その直後、怪物の吐く黄色い炎で視界が埋め尽くされる。


ゴシャァァァァァァァ……。


俺は瞬きもせず、その炎を眺めていた。


自分の体を見る。


「おぉ……」


全身を白い雷が覆っている。


白雷はくらいよろいに守られた俺は、全くもって熱さを感じなかった。


『これはいい』


なおも怪物は炎を吐き続けるが、持続時間なら負ける気はしない。


腹の底に感じる莫大な魔力量。


力を分けてくれたリュイアとヴァンに感謝だ。


『ありがとう、二人とも。頂いた魔力、存分に使わせてもらいます』


視界の炎が消えた。


「ウゴッ!!???」


骨のような顔でも、その怪物の虚を衝けたのだということは伝わってくる。


「ケィタ!」


視界の端に、リュイアとヴァンの姿。


二人が無事で何よりだ。


【雷剣】


俺は雷の剣を出現させた。


『お返しじゃい!』


怪物の骨のような頭部に、その雷剣を思い切り叩きつけた。



ウガァァァァァァァァ……


怪物の声が、ダンジョン内に響き渡った。

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