【大賞&書籍化】異世界から来た魔族、拾いました。 うっかりもらった莫大な魔力で、ダンジョンのある暮らしを満喫します。
Saida
書籍版(新連載版)
【新連載版・1話】プロローグ
魔族たちの住む異世界、クラドワット。
「本当に行ってしまうんじゃな、二人とも」
老魔族シバが呟いた。
彼の孫娘と、白いもふもふした毛に覆われた獣は、顔を見合わせた。
「じぃじ、泣いてるの?」
5歳の孫娘、リュイアが尋ねた。
「そうじゃな」
「どうして?」
老魔族は、しょんぼりとした顔で答えた。
「とんでもなく寂しいからじゃな……」
少女は首を傾げた。
「でも、リュイアが一人前の魔族になったら、こっちの世界に戻れるんでしょう?」
リュイアは、花が咲いたように笑った。
「じゃあ、大丈夫だよ。だってリュイア、すぐに一人前の魔族になるから!」
「……そうか。それなら心配はいらぬな」
老魔族はリュイアの頭を撫でた。老魔族と同じように、二つの角が生えている頭を愛おしそうに。
「リュイアや。向こうの世界を、目いっぱい楽しんできなさい」
リュイアは、元気よく頷いた。
「うん!」
老魔族は微笑み、白き獣の方に目を移した。
「ヴァンよ」と老魔族は言う。「この子のこと、頼んだぞ」
「任せてくれ、シバ」
白き獣は力強く答えた。
「うむ」
それからまた、シバは愛する孫娘の前に膝を折った。
「リュイア。向こうの世界に行ったら、まず何をするか覚えてるかの?」
「向こうに住んでいる人で、リュイアたちと契約してくれる人を探します!」
リュイアが、元気よく答える。
「そうじゃ。それから?」
「その人にリュイアとヴァンの魔力をちょっとずつ渡します!」
「よろしい。リュイアとヴァンにかけられる契約の魔法が使えるのは一度きりじゃ。なかなか契約してくれるもんが見つからんかもしれんが……諦めず、探すんじゃぞ」
「あい!」
老魔族が、優しい笑みを浮かべ孫娘を撫でる。
それからゆっくりと立ち上がった。
「引き留めてすまなかったのう。さぁ行きなさい、二人とも」
老魔族が、光を放っている転移の魔法陣を指差す。
その魔法陣に近づくと、リュイアとヴァンは振り返り、叫んだ。
「じぃじ、行ってきます!」
「達者でな、シバ!」
「無事に帰ってくるのじゃぞ、二人とも!!」
別の世界へと転移する魔法陣――そこから放たれる光が、少女と白き獣とを柔らかく包み込んだ。
「仕事、本当にやめちゃったなぁ……」
道を歩きながら、俺は胸のうちで呟く。
27歳、恋人なし、無職。
自分の今のステータスを改めて考え、俺は思わず息をはいた。
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