(Web版 第36話)

キノコな魔物ばかり出てくるダンジョンの探索を無事終えると。


俺と美都みとはダンジョンを出て、最初に案内された古民家カフェへと戻った。



「お疲れ様でした。収穫はありましたか?」

中に入ると、カフェの店員さんが労いの言葉をかけてくれる。

カウンターの向こう側で、コーヒーをハンドドリップしているところだったらしい。左手に握られた、先の細長いポット。お湯がかけられたコーヒーの粉からは、湯気が立ち上っている。


「ありがとうございます。おかげ様で」と俺は会釈した。魔物キノコたちがドロップしてくれたD鉱石は、背中のリュックサックをずっしりと重くしている。


「良かったです」

店員さんは爽やかな笑みを見せると、挽かれたコーヒー豆にふたたびお湯を注いだ。


美都が俺の方を見上げて、はにかむように笑った。



と、カウンターに座っていた人がこちらを振り返った。


丸眼鏡をかけた、もじゃもじゃ頭の男性だった。年齢は四十前後に見える。


「あれま、宮陽みやびさんじゃないですか」

美都みとに朗らかな笑みを向けて、男性が言った。


「中村さん! お久しぶりです」美都が弾んだ声で返事をし、彼に近づいた。「今から潜られるんですか、ダンジョンに」


「うん、そうです。しばらくぶりなんで、ちょっと緊張してます」


「あはは。中村さんなら、Eランクダンジョンは敵無しなんじゃないですか」


「いえいえ、そんなことないですよ」丸眼鏡の男性は謙遜したあと、俺の方を見た。「ええと、宮陽さんのお知り合いの方ですか?」


「あっ、紹介します。友人の藤堂圭太さんです」と美都。


「はじめまして。藤堂と言います」


「藤堂さん、ですね。はじめまして。中村です」

中村さんは、美都に向けたものと同じくらい親しみのこもった表情で俺を見た。


「圭太さん。こちらの中村さんは、普段、バーのマスターをされている方です」


「そうなんですよ。あっ、良かったらこれ」


中村さんから、店の名刺を渡される。

茶を基調としたシンプルなデザイン。【Barナカムラ】という店名の下には、【冒険者の集うバー】と小さく書かれていた。

裏面の地図をたしかめると、俺の自宅からもそう遠くない。


「今日は日曜だから休みですけど、それ以外の曜日は基本やっていますから。よろしかったらぜひ」と、中村さんは気さくに言う。


「ありがとうございます」と俺はこたえた。


「おお、そうだ。宮陽みやびさん。近々、ウズくんがこっちに戻ってくるそうですよ」


美都の可愛らしい目が、ぱっちりと開いた。「え、あのウズくんですか!?」


「ええ」中村さんは明るい表情で頷いた。「しばらく滞在したら、また向こうに戻っちゃうそうですけどね」


「わー、そうなんですね。ウズくんって今、アメリカにいるんでしたっけ?」


「みたいですね。といっても、ちょくちょく別の国のダンジョンにも遠征に行ってるみたいですけど」


「すごいなぁ……」美都が心の底から羨ましそうに言った。「ウズ君、いつ頃、帰ってくるんですか?」


「来月の頭、って言ってたかな」


「わっ。じゃあもうすぐなんですね」


「そうなんですよ。店でも会えるのが楽しみだって、みんなで勝手に盛り上がってます」


「あはは。ウズくん、人気者ですもんね」


「んー、不思議な魅力がある子ですからねぇ……」中村さんはしみじみと言った。

「宮陽さんも良かったら、また店に遊びにきてくださいね。みんな喜ぶと思いますから」


「あっ、すみません!バイト始めてから、なかなか夜の時間帯に余裕がなくて……」


「いや、無理はしなくて大丈夫ですよ」中村さんが、慌てたように両手を振る。「時間があるとき、気が向いたらで結構ですから」


「ありがとうございます。また近いうちにお邪魔させていただきますね」


「ええ、ぜひぜひ。お待ちしております」




中村さんとの挨拶を済ませると、俺たちは店員さんにお礼を言って、「古民家cafe ノームの休日」を後にした。



「じゃ、行くか」


「お願いします!」


ハンドルを握り、アクセルを踏む。


個人所有のダンジョンにはよくあることらしいのだが、この古民家カフェダンジョンにも、D鉱石を売却するための窓口は用意されていなかった。


というわけで向かったのは、縁口ゆかりくちダンジョン情報センター。冒険者登録のときにもお世話になったダンジョン複合施設だ。


施設に到着すると、縁口-1ゆかりくち いちダンジョンがあるフロアへ。

そのフロアに設置された「D資源取引所」の窓口で、ゲットしたD鉱石を全て引き渡し、査定をお願いした。


背負っていたリュック一気に軽くなる。儲けが楽しみだなー、と期待で胸が膨らんだ。

「ダンジョンに潜るたび給料日がやってくる」(厳密には給料ではないが)という感じは、なかなか気分が良いものだなと、改めて感じる。



美都と他愛もない会話をしながら、縁口ゆかりくちダンジョン情報センターを出て、駐車場にとめた車に乗る。


朝からダンジョンに潜り、時刻は14時が近づいていた。

美都はこの後も予定が空いているとのことだったので、ちょっと遅めの昼食をとることにした。


「何か食べたいものあるか?」


「ううん。すごくお腹減ってるから、今なら何でも食べられる気がする」

謎に、自信に満ちた顔で、胸を張る美都。


「じゃあ近くに定食屋があるから、そこでもいいか?」


「おっ、いいね」美都は頷いた。「圭太さんの行きつけの店?」


「行きつけってほどじゃないけど……まぁ何回か行って美味しかったなって思ったぐらいかな」


「へへ、そいつは楽しみですぜ……!」

助手席で体を揺らしながら、美都がふざけた口調で言う。


相変わらずのことだが、ダンジョンに潜った後の美都はテンションが高い。


『まぁ……楽しそうで何よりだな……』


そんなことを思いつつ、空腹を抱えた俺たちは、定食屋へと向かった。














――ランクA、赤熱せきねつのダンジョン。


『来なければよかった』


パーティーを先導するリック・エヴァンズは、胸の内で思った。



パーティーはリックを含む2人の先導役と、様々な国からやってきた若者8人で構成されていた。


若者たちの共通点は、「冒険者として前途有望な者である」ということ。


世界ダンジョン連盟が中心となって進めている若手育成事業。そのひとつとして行われているのが、このダンジョン探索だった。



先頭を歩きながら、リックはため息をついた。


同年代のライバルたちは、今もトップレベルの冒険者同士でパーティーを組み、連盟指定のSランクダンジョンに挑み続けている。


自分はその戦いの場から抜け出して、なぜこんな、子供のお守りじみたことをしているのだろう。



「君にとってもいい刺激になるはずだ」

そう勧められ安易に引き受けた、今回の先導役。


しかし8人の若者らと顔をあわせ、挨拶もそこそこにダンジョンの中へ入るなり、リックはすぐに感じ取った。


彼らの中に、図抜けた才能を持つ者はいない。


世界でもトップレベルの冒険者たちと肩を並べてきた自負のあるリックは、自分の直感に自信を持っていた。


ダンジョンを満たすDダンジョンの扱いに長けた強者たちは、ダンジョン内で独特の雰囲気を発する。

オーラというほど大袈裟なものではないが、醸し出す空気が、そこらの冒険者たちとは明らかに違うのだ。



生活費目的でダンジョンへと潜るならいざ知らず、本当の意味での「冒険者」となれる者はほんの一握り。


未踏のダンジョンへと挑み、新たな地平を切りひらく者たち。


そういった真の冒険者になるために求められるのは、これまでの人が出会ったことのない、未知の才能。


誰も到達したことのない場所にたどり着くことができるのは、これまでの人間には無かった「何か」を持つ者でしかないのだ。



リックは自身は、自分がその手の「何か」に恵まれた人間だと信じてやまなかった。

冒険者の両親のもとに生まれ、2歳5か月で初めての魔法を使った。

その才能を腐らせることなく、できる限りの努力はし続けてきた。


自分が与えられた資質は特別なものなのだと自負していた。


連盟に才能を認められ、他のトップレベルの冒険者たちと関わる機会が与えられるようになるまでは。



自分と同じように、才能を認められた同世代の冒険者たちとパーティーを組むようになると。


すぐにリックは思い知らされた。選ばれた人間の中にも、さらに選ばれた人間がいるのだということに。


『自分の才能なんて……いや、まだ不十分なだけだ。だからこの可能性をもっと伸ばす。だから俺は、時間を惜しんで経験を積み続けなければならないのだ』


これまでに、何度心に浮かべたか分からぬ葛藤が、またしてもリックの心に浮かぶ。


そして彼は自分の後ろを歩く、まだあどけなさの残る青年たちを見やった。


事前に受けた説明では、16、17の子らが多いといっていただろうか。


青年らの精神の健全さが、リックには手に取るように分かる気がした。自分の才能がこれからも伸び続けることを当たり前だと思っている、真っ直ぐな自信、曇りのない心。


しかしリックの方では、既に彼らに対しての見切りをつけている。


まだ彼らが魔物と戦っているところを見たわけではない。しかしこれまでの経験からくる直感が、彼らから学べるものなど何もないと、リックに告げていた。


『とっととこの仕事を終わらせよう』


そして次にこのような雑用を頼まれたときには、きっぱりと断らなければならない。


連盟の人間たちには、おそらくいい顔はされないだろう。


自分も幼い頃から色々と便宜を図ってもらい、力を伸ばすための機会を惜しみなく与えてもらってきた。


「先人たちから惜しみない助言や指導を受けてきたのだから、それを後輩に返すのは当たり前のことだろう」と言われるかもしれない。


だが今の自分には、悠長に後輩指導をする余裕など一切ないのだ。


もう一度、トップ層の連中と肩を並べ、いずれ彼らを追い越すために。


下の人間に構っている暇などないと、リックは改めて心に刻み込んだ。




「リックさん」

隣を歩くホセが話しかけてきた。

普段はBランク程度のダンジョンに潜っているというこの男。複数の言語を不自由なく操れるため、今回はリックの補佐役として探索を先導する側に回っていた。


「彼女がちょっと、リックさんに質問したいことがあるそうです」


ホセが、先頭にいた女子を指差す。彫りの深い、ラテン系の顔立ちをした子だった。


「どうぞ」


ホセが言うと、少女はこっちを見て何か発言した。

英語ではない。イタリア語、あるいはスペイン語だろうかとリックは思う。


「世界的に活躍する冒険者になるためには、何が大切だと思われますか? だそうです」と、ホセが通訳した。


リックはたった一度の瞬きが終わらぬうちに、口を開いた。


「さぁ、何が必要なんだろう。僕にも分からないな」




ボゴォン!!


激しい音がなり、パーティー全員の視線を集めた。


道の先に現れたのは、数十体のゴブリンの体を、ぐちゃぐちゃにつなげ合わせたかのような異様な姿をした化け物だった。


ウクォ!!!



『未分類か』

リックは冷静に分析した。


ハイランクのダンジョン、特にAランク以上のダンジョンでは、「何の魔物とも言えない」ような化け物と遭遇することがよくあった。


それらは複数の魔物の特徴をあわせ持っていたり、あるいはそもそも形を成していなかったりと、魔物をきっちり種類分けしたい研究者たちを悩ませる存在だ。


だが冒険者であるリックにとっては、細かな分類などはどうでもいい。


重要なのは、相手を倒すこと。

敵を凌駕する力が自分に備わっているかどうか、それだけが重要なことだった。


誰よりも強く、深く。

ダンジョンに満ちるDダンジョンを完全に支配し、それを利用した強大な魔法で、化け物どもを蹴散らす。


冒険者にとってはそれが全てなのだと、リックは確信していた。



「どうしますか」と通訳のホセが言う。


その顔は、緊張で強張こわばっている。普段Bランク程度のダンジョンをうろついているこの男には、目の前の魔物が、得体の知れない難敵に見えているのかもしれない。


だがリックにとっては、見た目が気色悪いだけで、格下の雑魚にしか見えなかった。


リックは後ろを振り返り、「実力が見たいから、一人ずつ。誰からでもいい。自信のある者から、前に出て戦いなさい」と告げた。


すぐにホセが幾つかの言語に変換し、パーティー全体に伝える。


するとほとんどの青年たちが、前に出た。



「じゃあ、まずは君から」


リックは近くにいた、アフロヘアーの青年を指差した。


リックに指名されると、青年は自信と緊張の入り混じった顔で、魔物に向かっていった。


そして祈るように胸の前で手を組む。



『ほう』

リックは、心の中で唸る。


アフロの青年が使う魔法は、黒い雷だった。

彼の周りを囲むように発生したそれは、四つ足の獣、宙を舞う鳥、人間などの姿に次々と形を変えていく。


「行け」と青年が手を前に振ると、檻から放たれた獣のように、黒雷が動き出した。

グロテスクなゴブリンの塊に、何十という雷の獣たちが躍りかかった。






真っ赤な臓物に手と足が生えたみたいな奇形の魔物を、金髪の青年が炎の槍で貫いた。


「上出来だ」


黒い靄となり魔物が消滅すると、金髪の青年は得意気な顔でリックを振り返り、「何か改善すべきところはありますか?」と尋ねた。


リックは首を振り、手を叩いた。「無いよ。素晴らしい」


金髪の青年は「ありがとうございます」と言って、パーティーの輪の中に戻った。


他の青年たちが彼を迎え入れる。肩を叩いたり、笑顔で声をかけたりして彼の勝利を素直に称えた。



『良いところまでは行くだろう。でも、その先は……』


リックは改めて、全員の顔を確かめる。


D子に用いて生み出した人間離れした怪力によって、ミノタウロス亜種との肉弾戦に勝利した青年。洪水のような水を出現させ、大量のキメラを一気に押し流した少女。


若く、柔軟な想像力。自分のイメージしたものを、きっちりとD子、魔法に落とし込むことのできる早熟な才。


彼らは既に、全世界でダンジョン探索をする者たちのトップ1%に入る力を持っているだろう。


だが、オリバ・ルーツや、ミネア・フロドアのように。

「時代をつくった」と称される偉人たちと肩を並べる者が、この中から一人でも出てくるだろうか。

もし出てこないのだとしたら、この探索に――連盟が実施する「才能発掘」「若手育成」事業に、いったい何の意味があるのだろう。


ここにいる青年たちは、普通の冒険者からすれば既に手の届かない地点に達している。

だが歴史を塗り替える傑物となるためには。決定的な何かが欠けている気がしてならない。

それは彼らがこれから重ねる努力や経験によって、補うことができるものなのだろうか。

そして、自分の場合においても……。



と、リックはパーティーの中に、まだ魔物と戦っていない者がひとり残っていることに気がついた。


「きみ」


リックが手招きすると、パーティーの後方にいたその男の子は素直に走り寄ってきた。


他の子に比べ、一段と幼く見える。アジア系の顔立ちだからだろうかと、リックは疑問に思った。



「君はまだ魔物と戦っていないね」


通訳のホセが口を開く前に、その子は「はい」と答えた。


英語が通じるらしい。どこの国の子だろう。


「どうした。魔物と戦う自信がないのか」


「いえ」


虚勢を張っているようには見えなかった。

よく言えば落ち着いてる。悪く言うと……。


『能天気な性格、か?』


リックは目を細めた。「次の魔物は君に戦ってもらうよ。いいね?」


「分かりました」


少年は唇の端をきゅっとあげた。どうやら俺に笑いかけているらしい。


リックは少年から視線を外し、再び前を向いた。


『全員分の戦いを見ればもう十分だろう。入口まで戻ったら軽いミーティングをして、解散にする。それで俺の仕事は終わりだ』




ほどなくして、次の魔物が現れた。


『少し荷が重いか?』


鎧のような鱗をまとうドラゴン種。


リックは自身の知識と経験に基づいて、瞬時に魔物の実力を推しはかる。


『硬いな』


全方位的な防御力の高さ。


物理的な攻撃はもちろん、どの属性の魔法を使ったとしても、そう簡単にはあの殻を破れない。

かといって防御特化型の魔物でもなさそうだ。鼻息荒いドラゴンからは、高い攻撃性がまざまざと伝わってくる。


これといった穴のない、オールマイティなタイプ。

弱点を突くということができない分、実力が試される相手だとリックは判断した。


彼は先ほど指示した少年に話しかけるため、後ろを振り返ろうとした。


すると少年は、すでにリックの隣に立っていた。


少年の表情は、リックと話していたときと変わらない、緊張も気負いも全く感じられないものだった。


クール、というのとも少し違う。口元には相変わらず、小さな笑みが浮かんでいた。


『相当、鈍いのか……そうでないとしたら、度胸だけは大したものだな』


だが隣に立てば、はっきりと分かる。平然とした態度を除けば、この少年も他の若者たちと同じで、特別な何かを持っているようには到底思えない。

むしろ他の子より幼く見えるから、魔物を任せてよいものか、心配ですらあった。


「どうする?」


リックが尋ねると、少年はこくりと頷いた。それからくいっと眉をあげ、笑みを深めた。


リックはふんと鼻を鳴らし、後ろに下がった。


『まぁこのパーティーに選抜されている時点で、手も足も出ないということはあるまい』


グォォォォォォォォォォォ!!


『さぁ、どう戦う。どんな魔法を使う?』


リックは万が一に備えつつ、少年と、鎧の皮膚を持ったドラゴン種の両者を視野におさめた状態で戦闘を見守った。



少年と鎧のドラゴン種は、互いの力量を探るように沈黙している。


パーティーの青年たちは、息を飲んで、両者を見つめていた。


と。


『……なんだ?』


リックはすぐに、何か奇妙なことが起こっている気配を感じ取った。


目を凝らすと、異変が起こっているのは鎧のドラゴンの方だと気付く。


薄っすらと、ドラゴンの皮膚から何かが滲み出している。


『煙……じゃない。あれは』


ドラゴンがカッ、と目を開いた。


リックは反射的に身構えた。


何が起こるか、全く予期できなかったからだ。



ドサッ。


ドラゴンのもたげていた太くながい鎌首が、力なく地面に落ちた。


そしてドラゴンの全身が、黒い靄に包まれる。


そして靄が消え去った後、ドラゴンの姿はどこにもなかった。

地面に落ちているのは、ごつごつした隕石のようなもの。紛れもない、D鉱石だった。



リックは我に返った。


視線を感じ横を見ると、いつの間にか少年がそこにいて、リックのことを見上げていた。


少年の口元には、先ほどと変わらぬ微かな笑みが浮かんでいた。


ゾッ。


歳が十以上離れているはずの相手に感じる、底知れなさ。


少年が持っている「何か」を見抜けなかったという事実を、リックは認めないわけにはいかなかった。


「なにを……」自分の声が掠れていることに気付き、リックは咳払いした。「君は……いや、すまない。先ほど紹介してもらったと思うけれど、いま一度、私に、君の名前を教えてもらえるかな」


白島しろしまうず。13歳です」


『13……?』


リックは自分の耳を疑った。


『他の青年たちよりさらに小さい。

いやそれよりも、俺の半分の年でしかないじゃないか……』


頭を殴られたような衝撃。


『これが、才能か』


と同時に、全身の血が沸き立つような感覚が、リックを襲った。


「ウズ」とリックは、少年の両肩を掴んで言った。「君は一体、何をした?」


リックの目は爛々と、不気味なほどに輝いていた。目の前の少年が持つ「何か」のことで、リックの心は一瞬にして占められていた。


白島渦しろしまうずの表情は変わらない。

ただ小さな笑みを、口元に浮かべているだけだった。

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