(Web版 第34話)
回転しながら飛んでくる、2リットルペットボトルほどの赤白キノコたち。
『ふんっ!』
俺は注意深く、そいつらの飛んで来るラインをかわしながら、こん棒で叩き落していく。
こん棒が叩いた感触は、そう重くない。これなら、スライムの方がまだ弾力はあったかもしれない。
飛んで来るスピードがそれほど速くないこともあって、一体、一体の動きを見極めることはそう難しくなかった。
だが、量が量だ。
次から次に、こちらへと向かってくる。
これはスライムの群れに出会ったときよりも、はるかに余裕がない。
だが頭も体も、思いのままに動いた。
右から飛んできたキノコをかわす。
その下を飛んでいるキノコもかわす。
地面をごろごろ転がって、近寄ってくるきのこを蹴る。
正面から飛んで来るキノコの射線から体を外し、そのままぶっ叩く。
ブロック崩しや音ゲーを、全身でプレイしているかのようだ。
次々に飛んで来るキノコを、かわす、叩く、タイミングよく、叩く。
地面から、空中から、いたるところから黒い靄があがる。
その黒いもやに一瞬、視線がさえぎられることも考慮に入れて、冷静に、慎重に、大群の赤キノコどもをさばいていく。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
と、二つ同時に、別角度から飛んできた赤キノコの対応に迷い、遅れをとる。
『やべっ』
一瞬、さっと肝が冷えたのを感じた。
階段から落ちる夢を見たときの感覚に似ていた。
だがすぐに思考を現実に引き戻し、判断する。
一つの赤キノコを辛うじてかわし、まわりに別のキノコが向かってきていないかを視界の端で確認しつつ、かわしきれなかったもう一つの赤キノコロケットを左腕のアームシールドで防ぐ。
『くっ』
回転しているせいか、思った以上の力が伝わってきた。
左腕を大きく弾かれ、体勢を崩す。
『こっっの、野郎!』
地面に腕をつき、体を回転させ、地面から再び浮かび上がろうとしていたとしていた別の赤キノコを叩く。
さらにこん棒を振り回し、低い姿勢から、飛んできていたキノコを叩き上げる。
そこからまたリズムをつかむことができた。
『あっぶねー』
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
ベシッ。
『最後!』
ベシッ。
目の前の赤キノコを叩き、オールクリア。
ミスもあり、完璧な討伐とは言えないが、初見にしては健闘した方ではないだろうか。
「いやー、思ったより出てきたね……」
赤キノコ狩りを終えたのち。
美都と戦利品がないか周囲の地面を確認しながら、一旦落ち着く。
物理で叩いただけあって、D鉱石はほとんど落ちてない。
まぁこれは仕方ない。
事前の打ち合わせでまずは慌てず焦らず、物理で魔物を倒そうと話し合っていた。
それにゴーレムダンジョンのときと違って、今は近くに美都がいる。
むやみやたらにあの雷撃なんかを撃てば、当ててしまわないとも限らない。
慎重に行動するに限る。
「ないねー」
「だな……」
回収できたD鉱石はわずかに一つ。
しかも小粒で、注意深く見ていなければ見逃しそうなほどだった。
売却しても大した値はつかないかもしれない。二人で割るのであれば、なおさらそう。
「大丈夫?まだ行ける?」
「もちろん」
戦闘を終えた瞬間は、多少息が上がってはいたのだが。
D鉱石を探し集めているうちにそれも自然とおさまった。
『うーむ、レベル上げとは別に、基礎体力もつけた方がいいかもな。
朝、ランニングするとか』
汗一つかかず、涼し気な表情さえ浮かべる美都を見ていると、そんなことを思う。
俺には魔法があるからといって、体の動きをおろそかにしていると、今後、色々な不都合が起こりそう。
まだまだ25とはいえ、もともとこれといった運動習慣があるわけでもなし、用心するにこしたことはないだろう。
「行こう」
俺は美都に頷いて、先へ進むよう促した。
しばらく歩くと、ようやく目標にしていた、円状の通路にたどりつく。
通ってきた道よりも広い。こちらがメインの通路なのだろうか。
「着いたね。じゃあ、予定どおり、ここから円に沿って進もう」
「おう」
歩く、歩く、ひたすら歩く。
途中、魔物と出くわす。
最初に出くわしたのと同じパープル・マッシュルームが2匹と。
それとは別の、笠がやたら大きい黒ずんだキノコ。
どちらも数がすくないので、二人で落ち着いて処理する。
問題なく倒すことができた。
その後も、歩く、出くわす敵を倒す、歩く、出くわす敵を倒すを何度も繰り返した。
黙々と作業していると、不思議な気持ちになってくる。
自分が生きている意味や、これまでの人生が浮かんできて、自分はこれまで何をやってこれたのだろうか、そして今は自分は何をしていて、これからどうするのだろうかということについての考えが際限なく浮かんで来る。
昔から、そういうことを考える質ではあったし、嫌なことがあれば、そういう自分の殻というのか、内側の部分に逃げ込んでしまう癖があった。
そういう感覚が、どんどんぶり返してきた。
自分の存在価値とか、生きる意味とか。
そんなもの、考えても考えても分かるはずないし、考えたところで仕方のないことだとは分かっている。
だが気が付くと、そういうことばかり考えている自分に気が付くのだ。
これは、誰にでもあることなのだろうか。
それとも、そういうことを考えている人はあまりいなくて、自分だけの、病的な気質なのだろうか。
分からない。俺は俺という人間しか生きたことがないから。
「圭太さん?」
はっとして、顔をあげた。
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