(Web版 第32話)
日曜日の朝。
「お、おはよー」と、なんとなく緊張しているように見える
「おう、おはよう」
今日は美都とダンジョンへ行く予定にしていた日だ。
二人で車に乗って、ダンジョンへと向かう。
車内の空気はどことなくぎこちなかった。
『なんか前会ったときの別れ際、変な感じだったからな……』
俺は車内に流れる音楽のボリュームをあげて、「なんか聞きたい曲ある?」と聞いた。
最近、ダンジョン関連の動画を見る機会が増え、動画アプリのプレミアムプランに加入した。
付帯している音楽配信アプリも広告なしで音楽を流すことができるようになったので、重宝していた。
「ううん、圭太さんの選んだやつで大丈夫だよ」
「そう?」
「うん。
というかごめん。ぶっちゃけ、あんまり音楽知らないの。はは……」
「そうか」
シーン。
車内には最近よく聞くアニメだか映画だかのノリの良い曲が流れているが、ぎこちない雰囲気は追い払えなかった。
「あ、そういえばさ」
「ん?」
「使役フィギュア以外で何か反転ダンジョンのレベル上げに向いてるアイテムってなんかある?
何か買おうかなって思って色々と調べてたんだけど、なんかおすすめある?」
そういうと、しばらく返事が返ってこなかった。
俺がちらと見ると、美都がにこにこ笑っていた。
「ん?」
「あ、ごめん」美都は恥ずかしそうに言った。「圭太さんが徐々にこっち側に来てると思うと嬉しくて……」
「なんだよ、こっち側って」
美都ほどのダンジョンオタクになれる自信はないわい。
「えへへ……あっ、おすすめのアイテムだよね。うーん、何がいいかなぁ……」
そういって美都は、お勧めのダンジョンアイテムについて楽し気に話し始めた。
ダンジョンの話になると、ぎこちない雰囲気は自然に消えていった。
いつもの明るい調子で美都が笑っていると、俺もほっとした。
「そういえば、
「ん? ああ、行ったよ」
「え、どこどこ!」
美都が飛び跳ねんばかりに食いついてくる。ほんと好きなんだな、ダンジョン。
「
「おー、あの高台みたいなとこにあるダンジョンか。面白いとこ行ったねぇ……」
やっぱり知ってんのか。
「どうしてそのダンジョンにしたの?」
美都が小首を傾げて聞く。
「人が少なそうだなっていうのと……あとはゴーレムばっかり出るダンジョンだって書いてあったからな。魔物についても色々調べてみたけど、魔法の練習をするのにゴーレムはちょうどよさそうだったから」
「なるほどね。たしかに物理守備に特化してる魔物だしね。攻撃性低いし、魔法は弱点だし……いやぁ、なかなか良いチョイスですねー」
美都はうんうんと頷き、嬉しそうにしている。
「そりゃどうも。美都は行ったことあるの?」
「何回か行ったよ。でも私は物理攻撃でなんとかやってかなきゃだから、メインではいかないかな。ちょっと距離もあるしね。」
「そうか」
「うん。でもあそこのダンジョン面白いよね! 色んな形のゴーレム出て来るし」と美都は笑う。
「そうなんだよ。馬っぽい形のとか、はにわっぽい奴とか……変な形のゴーレムばかりで飽きなかったよ」と俺も笑った。
「ねー。あ、でもあそこのダンジョン、ちょっと前にランクがCに上がったらしいねよ? 残念だなー」
ぎくっ。
「あ、美都は冒険者登録……3種?だっけ。最初に取得したやつのままなのか?」
なんとなく話を逸らしてしまう。
自分がランクが上がるきっかけの一つになってしまったことは、まあ別に隠すようなことでもないんだが、自分から話すのもなんだか気恥ずかしかった。
また機会があれば話すことにしよう。
美都はむー、と顔をしかめた。
「そうなんだよー。2種試験、受けてみたいんだけどなかなか踏ん切りがつかなくてさー。
筆記の方は過去問みた感じ問題ないと思うんだけど、実技がなぁ……」
たしかに、美都なら知識の部分は問題なさそう。
「実技って、実際にダンジョン探索するんだよな?」
「うん。試験官の人含めて、3人か4人のパーティーでCランクのダンジョンを探索するの」
「へー」
なんかそういうの緊張するな。
俺、試験的なやつ、あんまり得意じゃないし。
ダンジョンの中でお腹下したら、目も当てられないな……。
「あ、そういえば魔疲労チェッカーは試してみた?」と、今度は美都が話題を変えた。
魔法を使った際の疲労度を簡易的に計測できる小型機器。
俺の暴発する魔法を見て、自分の限度以上の魔法を使うことを防ぐために美都が勧めてくれたアイテムだ。
税込1万4200円と決して安価なアイテムではないが、ゴーレムダンジョンではこれのおかげで安心して魔法をぶっ放すことができ、その必要性は実感できた。
「おう。今のところ、攻撃のメインで使おうと思っている魔法は1発で0.8%ってところだったな」
「あの、雷の魔法?」美都は手の形をピストルにして言った。
「そう。ただ出力のコントロールが難しいんだよなぁ……。
必要以上に強くなったり、抑えようとするとものすごく弱くなったりする」
「一回一回で変わっちゃう感じ?」
「ああ。狙ったところに撃てるし、Fランクの魔物相手ならそんなに困らないとは思うんだけど」
「出力かぁ……」
「さっき美都が言ってたトレーニング用のアイテムだと、そういうのに効果的なのはどれになるんだ?」
「んー、ごめん。さっき紹介したのは、基本的に通常のダンジョン内で使ったらレベル上げの効率が良くなるって言われてるアイテムだね。その中でも、おそらく反転ダンジョンでも使えそうだなって仕組みになってるアイテムをピックアップしたの。
うーん、レベルが上がることによってD子の扱いが上達するのは間違いはないと思うんだけど……うーん、魔法の出力か」
美都は桜色の唇に、指をあてて考えた。
頭を使うときの彼女の仕草の一つだったけれど、よく考えてみると口紅というか、グロスみたいなものをつけていないんだな、と思う。俺は女性の化粧のことがほとんど分からないが、俺からすると普段会う美都はほとんど化粧をしていないように見える。今時の女子大生は、そんなものなんだろうか。
いや、このダンジョン好きを平均的な大学生と考えるのには無理があるか……。
「なんか最初に圭太さんの雷魔法を見せてもらったとき感じたけど、力を持て余してる感じだったもんね。反転ダンジョンで急にレベルがあがったから、感覚がまだ追いついてないとかなのかな。
もしそうだとすると、このまま反転ダンジョンでレベル上げばかりしてしても、ますます威力だけがあがって出力の操作がうまくいかなくなるような……」
ぶつぶつと、独り言のように唱え、考えている。
俺はナビに従って、道を右折する。
切ったハンドルを戻し、彼女の言葉を待った。
「うん、これ持ち帰って考えてさせてもらってもいいかな?」
「ああ、もちろん」
「私、自分が使えないということもあるけど、あんまり魔法の知識ないんだよね。その辺、詳しい知り合いがいるから、ちょっとあたってみるね」
「おう。すまんな、色々と」
「ううん。小学生の時の自由研究みたいで楽しい」
屈託なく笑う美都。
小学生の頃にやらされた自由研究って……そんな楽しいイベントだったけな。
夏休み最後の日に、父親の力を借りて変なカメラみたいな工作をしたことくらいしか記憶がない。
あの時も、父さんに迷惑かけたなぁ。
「自由研究か……何やったか覚えてるのか」
すると美都は、パッと顔を輝かせた。
「うん。家の周りのダンジョンの特徴を地図にまとめたの。毎年テーマを変えて地図をつくってたんだけど、すごく楽しかったなぁ……」
美都はにこにこしながら言った。
俺も思わず、笑みが漏れる。
『ぶれないなぁ……』
最初に感じていたぎこちない雰囲気もどこへやら。
ダンジョンの話で盛り上がっていると、「あれ?そんなに走ったっけ」と思うほどの体感で、目的地に到着した。
反転ダンジョンで黙々とレベル上げしてたときとは大違いだ。
まぁあれはあれで、没頭していた気はするんだけど。
「目的地に到着しました」と車のナビが言う。
目的地に設定した駅まで到着した。
「ここ?」
「このまま真っ直ぐ通り過ぎてくれる?」
「? わかった」
駅の前を車で通りすぎる。
「あ、ここ。この建物だね……駐車場、どこだったっけ」
古い日本家屋。普通の民家のように見える。
ここがどんな場所なのかは、「着いてからのお楽しみだね」と美都に言われたので何も聞いていない。
すると建物の中から、長身でおしゃれな感じのお兄さんが出てきた。
前かけをしている。完全なイメージだけど、イタリアンレストランとかで働いてそう。
その人はこちらにお辞儀をして、建物の前を指差した。どうやら、この前を停めていいようだ。
車をとめるとお兄さんが近寄って来る。
車から降りると、「ご予約の宮陽さまですか?」と尋ねられた。
「はい、そうです」
そう答えると、「お待ちしておりました。どうぞ中へ」と日本家屋を示された。
近づくまで、「古そうだけど、立派な家」にしか見えなかったけれど。
玄関の横に、看板があった。
「古民家cafe ノームの休日」と書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。