滅亡世界と安価スレ

西沢東

『名無しのチンパンジー』

【part4348】安価で次の行動を決めるスレ


182 ぼっち男子高校生

今日もニートです。というわけでやること募集します。

>> 185


183 名無しの権兵衛

おはよう、ニート(学生)という嘘をやめろ。真のニートの俺に効く

>>182 紐無しバンジー


184 名無しの令嬢

皆さん暇ですわねぇ、安価なんかで時間を潰す位なら有意義な時間の使い方を考えてみてはいかが?

>>182 紐無しバンジー


185 名無しのチンパンジー

ウキッ! ウッキッキー!

>>182 紐無しバンジー


186 ぼっち男子高校生

何でそんなに紐無しバンジー好きなんだよ……その一体感をもっと別の所で活かせ


187 名無しの権兵衛

昨日皆で見た映画にそういうシーンがあったから……



 端末から目を離す。皆ヒマなのかあっという間に安価は埋まり今日の行動指針は決まってしまった。まあ決まってしまった以上は仕方がない、やるしかない。


 俺は姿勢を正して立ち上がる。寝転がっていた場所は高台となっており下の世界が一望できる。異様に黒ずんだ雲の下にかつて俺たちの住んでいたであろう世界があった。


 人の背丈ほどもあろう無数のチューブが大地を覆い尽くしている。その下にあったであろう道路や建物、住んでいた人々は見る影もない。ただ配管から漏れ出す薄緑の液体がぐにゃぐにゃと動きながら奇怪な蛍光パターンを示していた。


 そのさらに先、無数の管を越えた先には崖がある。崖下何kmあるかもわからない、底が見えない恐怖。ただ無数に積み重なる建物と瓦礫の群れが今いる場所がそれらが積み重なった山の上であるという事だけが分かる。時代が積み重なり血と化すのだ、などと過去スレで名無しのチンパンジーが言っていた。だが最早その真意は問うことが出来ない。死の大地を生きることに疲弊した彼は掲示板でウッキッキーと叫ぶだけの存在になっていた。たまに理性を取り戻すけど。


 さてどうするか、と思案する。この下に落ちて生きていられるか俺には分からない。最低でも数kmはある落下に耐えられるのは人間とは呼ばない。


 だが俺はいい加減飽き飽きしていた。曖昧な情報、掲示板だけが頼りの日々。2028年を生きていた、娯楽に溢れた世界の人間だからこそより鮮明に感じる苦痛。


 ある日突然、目が覚めたらこの世界にいた。高校に通い帰り道に買い食いをし、友人とゲームをするという何の変哲もない楽しい高校生活。それがただの一晩で、何の前触れもなく消滅したのだ。それから3週間ほど初めに居た大地で過ごしているが本当に何もない。ただ破滅した大地が続き、お前はその中に迷い込んだモブでしかないと言外に語っているようだった。


 だから行動を起こしてみよう、と俺は思ったのだ。どうせ無意味に死ぬのであれば色んなものを見て、色んなことを楽しんで死にたい。それにこの紐無しバンジーも無策ではないのだ。時間跳躍体であるが故の修正力、等と過去スレで名無しのチンパンジーが言っていた。その言葉を信じ、足を静かに踏み出した。


「あっ」


 口を開く事すら一瞬で出来なくなる。思考がシェイクされまともな視界も維持できなくなる。赤く染まる中最後に見えたのは巨大な頭だ。あの緑色の液体が運ばれていた配管が無数に繋がる、数km以上の大きさを持つ人間の脳。その配管上には何やら小さな影が蠢いている。それが何かを理解するより早く視界は途切れ、何も無くなる。






「チーさん、肉片が起きたよー! 多分あと20分もあれば完全に修復されると思うー!」


 次に聞こえたのはそんな声だった。声だけだ。視界は赤に染まったまま閉ざされ、脳内は不快感に浸りぐちゃぐちゃになっている。その元気な少女の声を遮るように静かな掠れた音が耳に届く。


「……良かった、あなたが名無しの……高校生? ……初めまして」


 美しい声だった。これはもしかして少女が空から降って来る、というのと逆パターンの出会いなのだろうか。それにしてはグロテスクであるが。この声からするに同年代くらいだろうか、と出会いに少し胸を躍らせる自分がいた。


「……名無しの……チンパンジー……です」


 あ、もう大丈夫です。動悸は消えました。

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