17. ベン男爵
「ベン君! すごいのだ!」
ダンジョンの入り口まで戻るとベネデッタが駆け寄ってきて抱き着いてきた。甘く華やかな香りがベンを包む。
「ベ、ベッティーナ様、ハグなど恐れ多いですよ」
「何言ってるのだ! 君は命の恩人なのだ!」
何度も絶望を一撃で葬り去ってくれたベンは、もはやベネデッタの中では『運命の人』が確定していた。
「君にはいつも助けてもらってばかりなのだ……」
うっとりとしながら、ベネデッタはベンのスベスベのほっぺに頬ずりをした。
「えっ? いつも?」
ベンは少し意地悪に聞く。
「あ、いや、ベネデッタの件合わせてなのだ」
ベネデッタはほほを赤くしながらうつむいた。
「顧問! お見事でした! ドラゴンを瞬殺とは史上初めての偉業。自分は猛烈に感激しております!」
班長はビシッと敬礼しながら言った。
「あはは、たまたまだよ。いつもはできない」
「いやいや、ご
と、深く頭を下げる。
「あ、そう? 指導なんてできないけど、騎士団の連中には言っておいてよ。結構苦労してる奴だって」
「く、苦労ですか? 分かりました。ただ、これを見せたら誰しも黙ると思いますよ」
そう言いながら、キラキラと黄金の輝きを放つ大きな珠を見せた。
「何これ?」
「ドラゴンの魔石ですよ。これは国宝認定間違いなしですよ」
班長は嬉しそうに言った。
「ああ、そう……」
ベンは魔石の価値が分からず、適当に流したが、後で聞くとドラゴンの魔石はそれこそ小さな領地が丸々買えてしまうくらい高価なものだそうだ。
◇
ベネデッタを宮殿に届け、自室でゴロンと寝っ転がり、うつらうつらしていると班長がドアを叩いた。
目をこすりながらドアを開けると、班長がキラキラとした目をしながら嬉しそうに言う。
「顧問! 今宵式典が催されることになりました!」
「式典? 何の? ふぁ~あ……」
また面倒な話を持って来られ、ベンはウンザリしながら聞いた。
「顧問のドラゴン討伐ですよ! これは歴史に残る偉業ですからね、公爵様も大喜びで、すぐに式典をとおっしゃってます」
「あぁ、そうなの? でも、僕眠いんだよね。代わりにやっておいてよ」
そう言いながらベンはドアを閉じようとする。便意を我慢して表彰なんて、バレたら恥ずかしくて生きていられない。
すると、班長は靴でガシッとドアを止め、
「何言ってるんですか! ドラゴンスレイヤーが参加しないなんてありえないです! 爵位も
と、熱を込めて力説する。
「しゃ、爵位!? なんでそんなことに……」
「いいからすぐ来てください!」
班長は渋るベンを引っ張り出した。
◇
大広間には貴族、文官などの要人が集まり、式典の開催を待っている。
セバスチャンに段取りを叩きこまれたベンは、宝物を収める重厚な木箱を持たされ、赤じゅうたんの真ん中に連れてこられた。
ベンの入場に会場はざわめき、出席者たちはベンを
ベンはやる事なす事、どんどん面倒なことにしかならない現実にウンザリしながら、それでもビシッと背筋を伸ばし、真面目にこなしていた。この異常にクソ真面目なところは何とかしたいと思うのだが、他に生き方を知らないのだ。
ベンは自分の不器用さに大きくため息をつく。
パパパパーン!
ラッパが鳴り、公爵が入場する。
公爵は壇上中央に進むと、大きな声で叫んだ。
「今日は我がトゥチューラにとって歴史的な日となった! なんと、我が騎士団顧問、ベン殿により、ドラゴンが討ち取られたのだ!」
ウォーー! パチパチパチ!
盛り上がる会場。
「ベンよ、ドラゴンの魔石をここに」
公爵の声に合わせ、ベンはうやうやしく公爵の前まで進むとひざまずき、木箱の
おぉぉぉ! あれが……!
会場からどよめきが起こる。ドラゴンの魔石などほとんどの人は見たこともなかったのだ。
「こちらにございます」
ベンは練習通りに木箱を公爵の前に差し出した。
「おぉ、見事だ。ベン殿、何か
「いえ、魔物の討伐は騎士団の仕事。褒美など恐れ多い事です」
ベンは棒読みのセリフで答える。
「そうか、欲のないことだ。では、その方、ベンに男爵の爵位を授けよう」
「ははぁ、ありがたき事、深く感謝申し上げます。こ、今後とも……えーと……、なんだっけ……そうだ、トゥチューラの繁栄に尽くします」
公爵はとちってしまったベンに苦笑すると、
「うむ、期待しておるぞ!」
と、言って肩をポンと叩く。
「ははぁ!」
こうして式典は無事終了し、会食へと移っていった。
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