16. 困惑の結婚プラン
ドラゴンは侵入者に気が付き、巨大な翼をバサバサと揺らし、マイクロバスくらいはあろうかという巨大な首をもたげ、クワッと大きく口を開けた。そして、圧倒的なエネルギーの奔流が喉奥に集まっていく。
「ブレスが来る! 逃げろー!」
班長はベネデッタを抱えて逃げ出す。
しかし、ベンは、構うことなく一気に飛び上がると、そのまま手刀でドラゴンのクビを全力で切り裂いた。一万倍の宇宙最強のエネルギーがベンの指先から閃光となってほとばしり、鮮烈なレーザービームのように、すべてをはじき返すはずのドラゴンの鱗をあっさりと焼き切ったのだった。
グギャァァァ!
ドラゴンブレスのために集めたエネルギーは行き場を失い、喉元で大爆発を起こす。
ズン!
大広間は閃光に包まれ、地震のように揺れた。ドラゴンの首は黒焦げとなって吹き飛び、壁に跳ね返され床に転がっていく。
だが、ベンはそんな事には目もくれず、出口までピョンとひと飛びし、扉をぶち破って消えていった。
班長もベネデッタも、その圧倒的な戦闘力に呆然とし、言葉を失う。ドラゴンを瞬殺したすさまじい戦闘力はもはや神の領域である。
二人は黒焦げとなって熱を放つおぞましいドラゴンの首を眺め、どうしたらいいのか分からず、顔を見合わせる。そして、手を組んで神の御業に祈った。
◇
「きゃははは! やったね、一万倍だよ!」
用を足して恍惚としているベンにシアンは上機嫌に話しかける。
ベンはチラッとシアンを見ると、首を振り、何も言わなかった。
「どうしたの? 真龍も瞬殺。神に近づいたんだよ?」
ノリの悪いベンをシアンは不思議に思い、首をかしげる。
「僕は! 静かに暮らしたいだけなの! 何なんですかこの糞スキル!? いつか死にますよ!」
ベンは憤然と抗議した。
「大いなる力は大いなる責任を伴うからね! しかたないね! きゃははは!」
「だから変えてって言ってるでしょ? もうやだ!」
ベンは両手で顔を覆う。
「んー、でも今、魔王が君にしかできない世界を救うプラン考えてるんだって」
「へ? 魔王? なんで僕を巻き込むんですか? 止めてくださいよ!」
「だってそのスキル宇宙最強なんだもん」
そう言うとシアンは嬉しそうにくるっと回った。
「なんと言われたって絶対協力なんてしません! あなたの言うとおりになんて絶対! ぜ――――ったい、なりませんよ!」
ベンは
すると、シアンはちょっと悪い顔をして言う。
「上手く行ったらベネデッタちゃんと……、結婚できるのになぁ……」
「えっ!? け、結婚?」
ベンは全く想像もしなかった話に言葉を失い、口をポカンと開け、間抜けな顔を晒した。
「だって世界を救ったベン君なら断る理由なんてないからねぇ」
嬉しそうに話すシアン。
「え? 本当に? いや、でも……」
「魔王のプランに乗る気になった?」
ベンは困惑した。これ以上シアンの言いなりになるのはゴメンだ。でも、世界を救って公爵令嬢と結婚、それは確かにありえない話ではない。前世では彼女を作る暇もなくブラック企業で過労死してしまったが、あんな美しいおとぎ話に出てくるような可憐な少女と結婚の芽があるというのは全くの想定外だった。
ベンは大きく息をつくとシアンをチラッと見上げ、小声で返事をする。
「……。話は聞くだけ、聞いてみてもいいです。でも、話あるならお前の方から来い、って伝えといてください」
「うんうん、分かったよ」
シアンは『チョロすぎ』とでも言いたげな、にやけ顔でうなずいた。
「それから、このスキル修正してくださいよ。苦しすぎます」
「え――――! スキルの修正なんてできないよ。それ、絶妙なバランスの上で作った芸術品なんだゾ」
「でも、苦しすぎて死んじゃいます!」
「うーん。……。じゃこうしよう!」
そう言ってシアンはベンの可愛いお尻をサラッとなでる。するとお尻はピカッと黄金色に光輝いた。
へ?
「これで君の括約筋は+100%。十万倍にも耐えられるゾ!」
「いやちょっと! そういうんじゃなくて……」
「じゃ、次は十万倍! 頑張って! きゃははは!」
シアンは笑いながらすうっと消えていった。
ベンはそっと自分のおしりを触ってみる。すると確かに今までと違うずっしりとした確かな筋肉を感じる。ただ、漏れにくくなっただけで苦痛は変わらない。むしろ今まで以上に耐えられる分だけ苦痛は増す予感しかない。
「なんだよもぅ……」
ベンは宙を仰ぎ、頭を抱えた。
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