番外篇② すれ違う想いー⑹
「だったら、なんで今、夫婦げんかしちゃって、そのままなんですか?」
夫婦じゃなくて婚約者……と、思いながらも、
「それは、陛下の心がなぜか急に離れて」
と悩みを打ち明ける。
「は?」
ジーンはミーシャの言葉を遮り、目を細めた。
「もしかして、ミーシャ様も恋愛音痴ですか?」
「お、音痴とは?」と思わず聞き返した。
「陛下の心が離れるわけないでしょう? あいつの初恋はクレア様。二度目の恋もミーシャ様。三度目があってもきっとあなたさまで確定! 揺るぎない決定事項ですよー。もう、さっさと仲直りしてください。陛下怒ると色々凍らせてこっちは大変なんですから!」
「な、仲直りしたいから? ジーンさまのご尽力を賜りたくお呼び立てしたんです!」
「そうだとも思いましたよ。お呼び立て、ありがとうございます!」
ジーンは何か考えるような仕草のあと、「陛下は食事をゆっくり召し上がらない」と神妙な顔で呟いた。
「いつも軽いお食事で済ませてしまうんです。ここは戦場じゃないから、携帯食じゃなくちゃんとしたものを食えと申しているのですが」
実はジーンの方がリアムより年上だ。ミーシャがクレアだと知ったからか、素でおかん的な発言がどんどん出てくる。フルラにいた頃のようで懐かしく、彼との距離が近くなって嬉しい。
「時間調整します。ミーシャ様、陛下と今夜、ゆっくり食事していただけませんか?」
「私は、かまいませんが……」
冷たい視線と言葉を頂いたのはつい昨日のことだ。陛下が自分と食事をしてくれるのか、不安だった。
「ジーン様。食事も大切ですが、陛下はちゃんと寝てますか?」
ミーシャの問いに彼は首を横に振った。
「ずっと気を張っているようで、ちゃんと寝ていないようです。ですから、ミーシャ様に陛下の癒しにもなっていただきたいです」
ジーンはにこりと微笑んだ。
「癒しは、私、不得意分野ですが……」
「そんなことないです。陛下、ミーシャ様を見つめるときだけ蕩けるような眼差しに瞬時に変わるんですよ。愛しくてたまらないのでしょう」
ミーシャはリアムの甘い言葉や表情を思い出し、一気に熱くなった。が、すぐにすっと頭を冷やした。
「それはもう、過去の話です」
「なわけないと、何度言えばいいのですか!」
そばで黙って会話を聞いているライリーも、ジーンの言葉に強く頷いている。
「陛下とミーシャ様は、相手のことばかり優先しすぎです。自分の感情押し殺しすぎ。ちゃんと自分の気持ちも言わないと。想いは伝え、向き合った方がよろしいですよ」
「向き合いたくても、リアムが私を避けるんですよ?」
「陛下は昨日、ミーシャ様の元へ向かいましたよ。なぜがイライジャを連れて帰ってこられましたが」
「え?」と思わず大きな声が出た。
リアムは自分の元へ向かっていたんだとわかって、心臓が鼓動を強める。
侍女に続き、ジーンまでもがリアムの気持ちは変わっていないと言う。
期待で逸る胸に手を当てる。その様子を見たジーンはほくほく顔だ。恥ずかしくて顔がさらに熱くなった。
「長くここに留まると陛下に企てがばれるので、そろそろ行きますね。見つかった怖いですし」
最後が本音のような気がしたが、黙って笑みを浮かべる。
ジーンの立ち去り際、ミーシャはあることを思いだし、呼び止めた。
「ジーン様、私の正体についてですが……私、別に過去をひけらかすつもりはありません。皆様を再び怖がらせたくないし」
「存知上げておりますよ?」
「他に誰が知っていますか? 正体を知るのは一部の者ということですが、私もちゃんと把握しておきたいです」
ジーンはミーシャに向き直った。
「ミーシャ様の正体を知るのは、クレア様と面識がある者だけがよろしいでしょう。この国ではリアム様、私、イライジャ、そしてオリバー大公。フルラ国から同行されたライリー様だけですね」
ミーシャは頷いてから口を開いた。
「実は、この国に来て、自分の正体を打ち上げた方がお一人いらっしゃいます。……ジーンさまの妹君、ナターシャ様です。彼女は私の正体を知っています」
ジーンはこれでもかというくらい目を見開いた。
「は? なんで、我が妹がぁ?」
とても嫌そうな顔だ。
「この部屋にナターシャ様が押しかけてこられまして。私とミーシャさまの会話を聞かれてしまいました」
ジーンはライリーの言葉に思いっきり目を見張った。そして、額をペチンとたたき、天を仰いだ。
「……あんの、妹めえッ。許すまじッ!」
「家長であるジーンさまがご存じなかったと言うことは、ナターシャ様は私との約束通り、ずっと黙っていらっしゃったってことですよね?……彼女は、私がこちら来て最初に友だちになってくれた方です。信を置ける大事な人です。叱らないで差し上げてください」
ミーシャの必死が伝わったのか、怒りを静め、ジーンは真剣な表情に戻った。
「我が不肖の妹がミーシャ様の信をいただけるなんてとても光栄です。家に戻ることがあれば、口封じ、十二分にしておきます。では、失礼します!」
「は、はい!」
ジーンは、さっさと仲直りして、ついでに「子作りよろしく」と、爆弾発言を残して去って行った。
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