第43話 若き宰相殿
どれだけの積雪があろうとリアムには関係がない。
吹雪を蹴散らすように馬を走らせる。すぐ後ろにはジーン。リアムの横には白狼が並走する。目的地には十分ほど着いた。止まって見上げたのは、古風で趣のある立派な邸宅だ。
「な……んで、我が家なんですか? 陛下!」
ジーン・アルベルト侯爵。
彼は、グレシャー帝国創建時から続く由緒ある一族の長男だ。今は当主を務めているのにはわけがある。
「おじさん、ずっと危篤状態なんだろ。お見舞いをしようと思って」
ジーンの父、エルビィス・アルベルトはこの数年、ずっと病床に着いている。一昨年前、リアムが帝位に就くと同時に爵位をジーンに譲った。
アルベルト家は代々グレシャー帝国の宰相を務めてきた。クロフォード家の右腕的存在だ。リアムとジーンは歳が一緒なこともあり、二人は物心つく頃からの付き合いだった。
「父のことは、とうに覚悟をしております」
リアムは馬を下りると、同じく馬を折りたジーンに近寄った。
「ジーン。俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど、宮殿に詰めすぎだ。……会えるときに会っておけ」
「ですが……」
「火傷のある碧い瞳の男。この案件についての報告をしてきたのはアルベルト婦人だ。……お見舞いはついでだよ」
ジーンは臣下の鑑だ。いつもリアムを優先し、自分の事は後回し。父親が重篤だと、ずいぶん前に報告を受けているが、一向に帰ろうとはしなかった。
彼にはこれくらい強引な方がいいと、長い付き合いだからこそリアムは黙って連れてきた。
強張った顔をしているジーンの背中を叩く。二人に気づいたアルベルトの侍従たちが慌てて外へ出てきた。リアムは愛馬を任せると、そばで伏せて待っている白狼に向き直った。
「国境の様子、見てきてもらってもいいか?」
雪の上で寛いでいた白狼はのっそりと立ち上がると、すぐに東に向かって駆けだした。あっという間に吹雪の中へ消えてしまった。
白狼を見送り、さっそく邸宅内へ入った。見知った場所だ。まっすぐ寝室に向かう。
「侍従長、妹は?」
ジーンは振り返り、後ろを着いてくる白髪の紳士に聞いた。
「ナターシャさまは、今夜の陛下のお披露目パーティーにご出席させていただくため、ただ今ご支度中でございます」
「ああ。はいはい、長風呂ね。侍従長、難しいかもしれないが、妹に陛下が来ていることを隠してくれ」
「重々承知でございます」
それを聞いてジーンは、ふうっとわざとらしくため息を吐いた。
二階の部屋に案内されて、侍従長が声をかける。ほどなくして部屋の中から返事があった。
ドアを開けてもらいリアムは、身体に良いと言われる香油で満たされた部屋に入っていった。
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