第34話 背の高いリアムの片腕
「時間がないので、ひとまず別のドレスをお願いできないかと言っただけです」
「本当、浅ましい。今着ている服で十分でしょう。ガーネット公爵令嬢ですもの。何を着ても素敵ですわ」
ユナの含みのある言い方に、「……本気で用意する気がないのですね」と、ライリーは怒気を含んだ声で返した。
「そもそも、なぜクローゼットの中のドレスが切り刻まれていたんですか?」
「なんのこと?」
「とぼけても無駄ですよ。部屋に出入りできる者は限られいるんじゃありませんか?」
だんだん言い合いが強くなってきている。このままでは良くないと、ミーシャは急いでドアを開けた。
「私の荷物、あったかしら?」
「ミーシャさま……」
ユナとサシャは、ミーシャが出てきても隠さず、敵意の目を向けた。
「ミーシャさま。先ほどあなたの侍女は陛下を「冷酷」だと申しました。その言葉を我々は決して受け入れられません」
「……私の侍女が不適切な言葉を使ったことは謝ります。でもこれだけは信じてください。陛下を侮辱するつもりはありません」
「口では何とでも言えます。ミーシャさま、魔術を使って陛下に取り入ったのですか?」
「……ん?」
目を瞬きながらサシャに聞き返した。
元は師匠の私が魔術で弟子に取り入る? 天地がひっくり返ってもあり得ないことだ。
そんな事情を知らないサシャは目をつり上げたまま続けた。
「ですから、陛下にはこれまで名のある令嬢と数多の婚姻話がありましたが、すべて断ってこられました。それがなぜいきなり魔女と……理解しがたいのです」
ミーシャは感心した。
つまり、この者たちはリアムを慕い、真剣に心配しているのだ。自分の主を守るために怒っている。ミーシャは姿勢を正すと、二人に向かってにこりと微笑みかけた。
「私は確かに魔女の末裔ですが、魔力はほとんどありません。力の強い陛下を魔の術で操るなど、無理なこと」
「ではなぜここにいるのです」
「陛下のためです」
ユナとサシャは眉間にしわを寄せた。
「ミーシャ様の国フルラと、我がグレジャー帝国は数十年に渡って、何度も戦争をしていきたのです。陛下のため? それをどう信じろと? 先ほども言いましたが、口では何とでも言えるのです」
「戦争はもう繰り返したくないというのが私の考えです。微力ですが、陛下をお助けしたい。ただそれだけです」
「もう、その辺で止めていただけますか」
侍女との言い合いに割って入ったのは背の高い男だった。
「あなたは確か……」
「イライジャ・トレバーと申します。お探しの荷物が、我らの宿舎へ紛れておりましたので届けに参りました」
イライジャはミーシャの大きなトランクを持ったままお辞儀すると、「部屋の中へ運びますね」と言った。
「荷物、探していたんです。届けてくれてありがとうございます」
イライジャはリアムの片腕と言われる男だ。宰相のジーンとリアム、三人は幼いころからの付き合いで、フルラ国にも何度も遊びに来ている。
クレアの石碑の前までリアムの馬を連れてきてくれたのも彼だった。
あの時はリアムの容体が心配で、大きくなったイライジャやジーンの成長を喜ぶ暇はなかったが、改めて見るとずいぶんと変わってしまった。
ミーシャの荷物をドアの内側に置くと、イライジャはすぐに廊下へ出てしまった。
部屋の外から険しい顔で、サシャとユナを見た。
「ミーシャさまは陛下が所望されたお方です。文句があるのなら令嬢にではなく、陛下に申し上げなさい。できるものならだが」
イライジャの冷たい声と、視線にユナとサシャの顔から血の気が引いていく。二人の侍女は爵位のあるイライジャに向かって「申し訳ございません」と深々と頭を下げた。
「ちょっと。謝るのならイライジャさまではなく、ミーシャさまにしてくれる?」
「ライリー、私はいいから……」
怒りが収まらないライリーがかみつきそうで、ミーシャはあわてて宥めた。小さな炎の鳥まで威嚇している。険しい顔をしたイライジャはミーシャに向き直った。
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