2-3. 目立っちゃダメ
食後に冒険者ギルドへと向かう。
石造りの立派な建物が立ち並ぶ石畳の道を、二人で歩く。
朝露に濡れていた道ももう乾き、荷物を満載した荷馬車が緩やかな斜面を一生懸命に登ってくる。二人は荷馬車に道を空け、その先の裏路地へと入った。
しばらく行くと見えてきた剣と盾の意匠の看板、冒険者ギルドだ。がっしりとした年季の入った石造りの建物は風格を感じさせる。
「ここで冒険者登録をしよう。いいかい、目立っちゃダメだよ?」
ヴィクトルはルコアを見て言った。
「え? なぜですか?」
「目立つとね、面倒ごとがついてくるんだ。僕は静かに暮らそうと思ってるから実力がバレないように頼むよ」
「は、はい、分かりました……」
ルコアは少し釈然としない表情で答えた。
ギギギー!
ヴィクトルはドアを開け、中へと進んだ。入ってすぐのロビースペースでは、冒険者たちがにぎやかに今日の冒険の相談をしている。
二人はその脇を抜け、カウンターの受付嬢のところへ行った。
銀髪の美しい美人と小さな子供の取り合わせ、その異様さに冒険者たちは
「いらっしゃませ! 初めて……ですよね?」
笑顔の可愛い受付嬢はそう言って二人を交互に見た。
「はい、冒険者登録と魔石の買取りをお願いしたいのです」
ヴィクトルがそう言うと、受付嬢は少し悩む。
そして、カウンターに乗り出し、小さなヴィクトルを見下ろし、困ったような顔をして、
「ぼく、いくつかな? 冒険者にはそれなりに実力が無いと……」
と、答えた。
すると、後ろで髪の毛の薄い中年の冒険者が、
「坊やはママのおっぱいでも吸ってなってこった!」
と、ヤジを飛ばし、周りの冒険者たちはゲラゲラと下品に笑う。
すると、ルコアがクルッと振り向き、恐ろしい顔で中年男をにらむと、
「黙れ! 雑魚が!」
と、一喝し、
「ひ、ひぃ!」
中年男は気圧され、ビビって思わず後ずさりする。
ルコアの使った『威圧』のスキルはすさまじく、ギルド内の冒険者たちは全員凍り付いたように動けなくなり、広い室内はシーンと静まり返った。
受付嬢もルコアのただごとではないありさまに青くなる。こんなすさまじい威圧スキルを使える人など見たこともなかったのだ。
ヴィクトルは思わず額に手を当てた。なぜこんな鮮烈なデビューをしてしまうのか……。
しかし、やってしまったことは仕方ない。
ヴィクトルはルコアの背中をポンポンと叩き、威圧をやめさせ、コホン! と咳ばらいをすると、
「一応僕も魔物は倒せるんだよ」
そう言ってアイテムバッグから魔石を次々と取り出し、カウンターに並べた。
オークやトレントなどの弱いものばかり選んで出していたのだが、間違えてワイバーンの真っ青な魔石が手からこぼれ、コロコロとカウンターの上を転がった。
それを見た受付嬢はひどく驚いた表情を見せる。
「えっ? ぼくがこれ、倒した……の?」
ヴィクトルは焦った。ワイバーンは少なくともレベル百のAランクの魔物だ。それを倒せるということはSランクを意味してしまう。Sランク冒険者など王都にも数えるほどしかいない。
「あっ、えーと、これはですね……」
冷や汗を浮かべながら必死に言い訳を考えていると、ドタドタドタ! と誰かが階段を下りてくる。
「今のは何だ!?」
ひげをたくわえた中年の厳つい男は血相を変えて受付嬢に聞く。
「あ、あれはこの方が……」
と、手のひらでルコアを指した。
男はルコアを上から下までジロジロとなめるように見る。
ルコアはニコッと笑うと、
「何かありました? 私はルコアです。よろしくお願いいたします」
と言って、軽く会釈をした。
男も会釈をすると、
「何があったんだ?」
と、受付嬢に聞く。
受付嬢が事の経緯を説明すると、男はふぅっと大きく息をつき、
「ちょっと、部屋まで来てもらえるかな?」
と、ヴィクトルたちに言った。
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