1-11. ケーキだよ、ケーキ!

 せっかくなので、二人は王女に会いに王宮へ向かった。


 気持ちのいい石畳の道を二人で歩く。


「ジュルダンのアヒル、面白かったね」


 レオがニコニコしながら言うと、


「ずっとあのままでも良かったのに」


 と、シアンはやや不満げに言う。


「まぁまぁ……、あっ! そう言えばシアンが出してた金貨千枚、そのままじゃない?」


 レオが気が付いて青い顔をする。


「えっ!? あ、そう言えば……」


 シアンはハッとしてレオを見る。


「取りに戻ろう!」


 立ち止まってレオが言う。


「んー、まぁ、屋根ぶっ壊しちゃったし、レオをここまで育ててくれたんだから、置き土産でいいよ」


 シアンはそう言ってニッコリと笑った。


「え? 千枚だよ、千枚。家が一軒買えちゃうよ?」


「ふふっ、悪いことできなくなったから、更生資金にも使ってもらえばいいんじゃないかな?」


「シアンは太っ腹だなぁ……」


「そもそもお金なんて大したものじゃないんだよ」


 シアンは軽く言う。


「僕には大したものだけどね……」


 レオはそう言って首を振り、ため息をついた。


「国を作るんだから、レオはお金を作る立場になるんだよ。もっと視野を広げなきゃ」


「えっ!? そ、そう言えば……。お金ってどうやって作るんだろう」


 レオは考え込んでしまった。


「こうやって作るのさ」


 そう言うとシアンは空中からジャラジャラと金貨を出して、一つをレオに渡した。見ると、金貨の表面にはレオの横顔がち密に彫ってあった。


「な、何これ!?」


 ビックリするレオ。


「お金とはただの信用だよ。みんながお金だと思えばなんだっていいんだよ」


「うーん、難しいなぁ……」


「レオは分かんなくていいよ。分かる人を見つけようよ」


 シアンはそう言って優しく微笑んだ。


「財務大臣……候補だね」


「そうそう、レオは信頼できそうな人を口説くだけでいいよ」


「うーん、できるかなぁ……。まぁ、やるしかないんだよね……。頑張ってみるよ」


 レオはそう言って微笑んだ。


      ◇


 遠くに王宮が見えてきた。豪奢な装飾のついた鉄のフェンスが広大な屋敷を囲い、中には赤、白、ピンクのバラが咲き誇る美しい庭園が見える。


 レオがいきなり止まって言った。


「あっ、僕、こんな服で来ちゃった……」


「服なんて何でもいいんじゃない?」


 シアンは興味無下げに言う。


「いやいや、王宮にこんな奴隷の服じゃ入れないよ、困ったなぁ……」


「じゃあ、こうしよう」


 シアンは両手をレオの方に向けて何かブツブツつぶやいた。


 ボン!


 爆発音がして、レオの服が濃紺のジャケットにボーダーのトップスになった。


「えっ!? あ、ありがとう……、でも不思議な服だね……」


 レオは初めて見るタイプの服に戸惑う。


「ユニクロで見繕ってみたよ」


「ユニクロ……?」


「僕が生まれた星の服屋さんだよ」


 シアンはニコニコして言った。


「あー、違う星の服……なんだね……」


 レオはこんな服で王宮に入っていいものかどうか悩んだが、奴隷の服よりはマシだと思いなおした。


        ◇


 門まで来ると、衛兵が槍を持って立っていた。


 レオは事情を説明すると、しばらくして初老の男性が迎えに現れた。


 男性は二人の服装を見て一瞬固まったが、


「こ、こちらでございます」


 そう言って、うやうやしく二人を応接室まで案内してくれた。


 パールホワイトを基調とした王宮は豪華絢爛なつくりで、あちこちに彫刻が彫られ、金の装飾が施されている。


 陽の光が差し込む明るい応接室には大きなテーブルがあり、小さなケーキがたくさん並べられたトレーがいくつか並んでいた。


「お、ケーキだよ、ケーキ!」


 シアンはうれしそうに言う。


 レオは緊張して頬をこわばらせながら、男性の引く椅子に腰かけた。


 ティーカップが用意され、メイドがそれぞれお茶を注いでいく。


「食べていいのかな?」


 シアンがソワソワしながらうれしそうにレオに聞く。


「ダメだよ! オディーヌ待たないと!」


「え――――」


 シアンは口をとがらせ、レオをジト目で見た。



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