最強カードゲーマーは異世界で無双して最強になる
桜祭
1、最強カードゲーマーの最終決戦
──ついに来た、最終決戦。
360度、どこを見回しても客、客、客。
熱中した彼らはみんな、こちらを見ていた。
そして、辺りから発狂するかのように響き渡る応援の歓声。
その中心にいるのは俺と、黒人でガタイの大きい男性の2人だけ。
その試合を司会を兼ねている実況者が煽っていた。
『さぁ!『ラストコンタクト』のTCG世界最強決定戦!カードゲーム界のナンバーワンになるのは果たしてどちらなのか!その盤面が最終局面に突入だ!』
英語の実況が会場全体を包み込む。
『最終局面』という単語が俺の耳にも届き、アドレナリンがフルスロットルで沸き上がる。
カードを握る手の汗がヌルヌルしてきて、ズボンで拭った。
スリーブ3枚重ねでもしていなきゃ、大事なカードがふにゃふにゃになるかもと不安になるくらいに汗が止まらなかった。
「このオレ様がジャパニーズのヘタレなイエローモンキーに負けるわけないだろうが」
「俺がヘタレだと……?」
慣れていなくて、たどたどしい英語を投げかけながら対戦相手のボブ・スティーブの煽りに返事をする。
身長190センチ超え、体重150キロオーバーしていそうなほどの相手からテーブルを挟みながらの威圧は足がすくみそうなほどに怖い。
手札3枚を握る手が震える。
「そりゃあそうさ!オレ様の『ブラックドラゴンデッキ』と知るや否やお前は今までのトーナメントで使い続けた『ブラッドデッキ』を封印したな」
「…………」
「そりゃあそうだよなァ!!なんたって相性最悪だからな!だから別デッキに変えたんだろう?『メイドナイトデッキ』か。最後の決戦で初心者用の雑魚デッキ使いやがってよ!だからお前は自分愛用のデッキで負けるのが怖いヘタレジャパニーズだってんだよ!」
「…………へぇ」
確かに実績が高い『ブラッドデッキ』ではあるが、対戦相手として向き合う彼の超パワーデッキとはすこぶる悪い組み合わせだ。
かといって俺の使うデッキがボブのデッキと相性が合うかといわれればそうでもない。
むしろ俺のデッキの方が不利まである。
『やはり人気が高く、現プレイヤーが最強と称えるボブ選手の『ブラックドラゴンデッキ』が有利かー!?観客たちもボブサイドの人気が高いようだー!』
アメリカ人の実況が大会を盛り上げていく。
そんな彼の実況に答えるかのように、周りから『ボーブ!ボーブ!』とコールが鳴り止まない。
国も、会場もアウェイな俺の応援はとても少ない。
「残念だけど……、俺は別に準決勝まで使っていた『ブラッドデッキ』が愛用なんて一言も言っちゃいないさ」
「ワット!?」
「俺はどんなカードでも、どんなデッキでも使いこなすさ」
「マルチデッカーを名乗るか!?ハッタリジャパニーズがっ!」
「そもそも『ラストコンタクト』は日本発のカードゲーム。後から流行したアメリカなんかに負けるわけないじゃん」
日本語で『最後の契約』という意味で付けられた『ラストコンタクト』の名前を持つカードゲーム。
俺はあらゆるカードの効果を勉強し、熟知している。
どんなデッキにだってメタを張れる。
『次はジャパニーズのユート選手のターンだ!ドラゴン3体が並んだ絶望的な8ターンをどう返すのか!?』
実況に合わせるようにして、カードを1枚ドローする。
契約コストが8ある中で4枚を駆使してボブのデッキを打ち砕く。
「契約コスト5使用。『石化』」
「なっ!?なんでそんなカードがっ!?」
相手が並べたブラックドラゴンと、2体のしもべは石となり、パワーが0へと減少していく。
ボブの黒人の顔が、青ざめていくのを感じる。
「契約コスト3使用。『メイドソルジャー』召喚。効果によりデッキから『メイドソルジャー』を2体召喚」
「なっ!?」
「『メイドソルジャー』が3体並んだことにより、効果で契約コストを3回復。またその契約コストを3使用し、『メイドソルジャー』に『疾風のクナイ』を装備。『疾風のクナイ』の効果により、手札から『武器補充』発動。武器を増やすことにより『疾風のクナイ』が3つ揃った……」
「なんでだ!?なんでこんな状況でソリティアを発動できる!?」
「それは──俺が最強のカードゲーマーだからさ!」
この盤面により、デッキから『メイドプリンセス』を契約破棄して召喚。
初心者の弱小モンスターを並べるだけのデッキであるが、使い方次第では無限大の力を集結させることができる。
「『メイドプリンセス』及び『メイドソルジャー』3体の総攻撃!俺の勝ちだ!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!?」
対戦相手であるボブのHPをゼロにする。
最強デッキとまで揶揄されたインチキ効果満載の『ブラックドラゴンデッキ』は、初心者用の『メイドナイトデッキ』に逆転敗北した瞬間である。
『ウィナー!ユート・タカハシぃぃぃぃ!』
実況と共に、会場が騒ぎだす。
『ボブのインチキデッキをあんな正攻法で破るとかすげぇ!』
『契約破棄とかあいつどんなデッキでぶんまわしてんだよ!?』
『あんな都合良く『石化』なんか引けるか?イカサマなんじゃねぇか?』
『メイド最高!メイド最高!メイド最高!』
称賛の声。
批判の声。
十人十色な歓声が俺の耳に届く。
それがなんであれ、俺は勝った。
『ラストコンタクト』のカードゲームで世界トップになったのだ。
嬉しくないわけがないのだ。
『世界ナンバーワンプレイヤー、ユート!賞金は70000ドル!王者がここに決まったぁぁぁぁぁ!ユート選手!なにか優勝のコメントを一言お願いします!』
「な、なんて言ったらいいのかわかんないですけど…………。最高ですっ!応援ありがとうございます!」
毎月コツコツと少ない会社の給料をもらいながらデッキを組み、人生の一発逆転を狙ってこの大会に出場した。
今日のことも、会社の上司に睨まれながらも5日間の有給を消化してアメリカまでやって来たのだ。
70000ドルとは、日本円にして約1000万円弱。
これで大学の奨学金を返せるし、親に恩返しも出来る。
金の為だけに『ラストコンタクト』の大会に出場したわけではないが、金の使い道を色々と考えていく。
とりあえず焼き肉は行きたいなー、なんてささやかな贅沢を考える。
「応援ありがとう!」
自分の名前である、ユートコールに手を振りながら勝利の余韻に浸る。
明日1日、アメリカ観光するのを楽しみにしながら、表彰されるのを楽しみにしていた時だった。
──にゃは!ここに、最強がいたか──
「え?」
俺の脳に直接語りかけてくるような声に、辺りを見回す。
しかし、俺を呼ぶような声はどこにもない。
気にしないでおこうと思い、上を見上げた。
実況の指示のもとステージの真ん中へと移動することになる。
『え?に、逃げてくださいユート選手!?後ろ!?』
「…………っ!?」
突然、実況の慌てた声が耳に届いたと同時だった。
背中から酷い熱を帯びたような痛みを覚える。
それと同時にぐらぐらと視界が揺れていく。
「…………え?げほっ……」
口から吐血して、手を赤く染める。
アレ?
アレ?アレ?アレ?
思考が真っ白になりながら、後ろから憎しみ籠ったの声がする。
「オレ様がジャパニーズの猿に負けるわけない!負けるわけない!だって、ほら!オレ様が立っていてお前は倒れた」
倒れながら俺の視界に映ったのは、対戦相手のボブが顔を真っ赤にさせて鮮血がこびりついたナイフを手にしていた。
「…………」
あ、死ぬ……。
会場中が悲鳴や戸惑いに包まれていく中、俺は意識を手放した……。
──その魂、回収させてもらう──
どこか遠くで、声がした。
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