夕暮れのページを開く/アドベントカレンダー2022

秋色

★12月1日 (図書館にて①)

 その巻き毛の女の子は、毎週土曜日の午後、市の図書館を訪れる。そして閉館近くまでそこで過ごす。学校が早く終わった日にも。

 司書の豊田由季はその子の図書館通いに好奇心をそそられていた。なぜならその子、穂乃香が主にいるのは洋書コーナーで、とても本人に読める本があるとは思えなかったからだ。中一でも、帰国子女のような子なら分かる。でも穂乃香は帰国子女ではないだろうし、勉強が得意そうなタイプでもない。洋書のコーナーにずっといるものの、借りていった履歴を見ると、洋書ではなく、絵本やゆるい学習漫画等、幼い趣味のものばかり。そして貸し出し票の字は、中一にしては幼く、様々な方向に歪んでいて、まるで窮屈な紙の仕切りから、字が飛び出したがっているみたいだった。

 由季が気になるのは、穂乃香が洋書コーナーにこもっている事だけではない。図書館の周囲はバス通りを離れると道が暗く、中学生が一人で歩くのは危険な場所がある事だ。穂乃香の住所を見ると、家はこの図書館から林を通った先だ。自転車で来ているようだけど、林の中の道は暗いし、怖くないのだろうかと心配になる。

 同じ中学の二年生で、本の虫のミノルという少年がいる。同じく閉館時刻までよくいるものの、ミノルは、図書館前から大通り沿いに自転車で五分のマンションに住んでいる。


 穂乃香の事を知っているか、由季はミノルにきいてみた。


「図書館でよく会うから顔くらいは知ってるよ。それ以外は知らない。ただ変わった子だよね。読めもしない洋書のコーナーにばかりいて。それに夜遅く林を抜けて帰ってる後ろ姿、見た事あるよ。あいつって魔女みたいだ」


「魔女だったら危険を避ける事が出来るけど、普通の女の子だから心配なのよ」


「だったら直接、本人に言ってみたら?」


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