37. 決意

「じゃあどうすれば……?」


 紗雪は青い顔をして、心配そうに言った。


「なあに、倒す必要はないんじゃ。お主はちょいと奴らを引き付けてもらえんか?」


「引き付ける……?」


「奴はパワーはあるがノロマじゃからな。お主が洞窟の入り口から奴らを手前に引きつけてくれたらワシらがその隙に洞窟に入るって寸法じゃ」


「ちょ、ちょっと待って! 紗雪はどうするの?」


 英斗があわてて聞くと、


「奴らはノロマだし、あのサイズじゃ洞窟には入って来られん。ピョンピョンと奴らの間をぬって洞窟に飛び込めばいいだけじゃ」


 と、レヴィアは事も無さげに言う。


「そんな簡単にいかないでしょう。レーザーとか撃ってくるんですよね?」


「そりゃ撃ってくるが、動き回っていたら当たらん」


 レヴィアは悪びれもせず、無責任に言う。


「いやいや、そんなの危険ですよ」


 英斗が抗議すると、


「じゃあどうするんじゃ?」


 と、にらんだ。その真紅の瞳には非難というより、諭す色が浮かんでいる。レヴィアもすべてわかった上で言っているのだ。となると、もっといいやり方を提案しないとならなかったが、レーザー撃ってくる頑強な相手に安全なやり方など思い浮かばない。


「ど、どうって……」


 英斗がしどろもどろになっていると、紗雪は英斗の肩を叩き、


「大丈夫、ノロマを引き付けて洞窟に逃げ込むだけの簡単なお仕事だわ」


 そう言ってニコッと笑った。


「紗雪……」


「それが一番確実だわ」


 紗雪の瞳には決意が浮かんでいる。


 英斗は大きく息をつき、ゆっくりとうなずいた。



         ◇



「ハーイ! ノロマ達、こっちよ!」


 紗雪は単身飛び出してゴーレムを挑発する。


 しかし、ゴーレムは微動だにしない。


「あ、あれ……?」


 拍子抜けした紗雪は大きく息をつき、


「じゃあ、これでどう?」


 と、黄色い魔法陣を描き、岩の槍を次々とゴーレムに射出した。先の鋭い重い槍、それが超高速でゴーレムの顔面に突っ込んでいく。


 ズガガガガ! と激しい衝撃音が走り、土煙がもうもうと上がった。


 しかし、ゴーレムは微動だにしなかった。顔の表面には細かな傷がたくさんついてはいるもののダメージらしいダメージは受けていないようである。


「何よこれ……。あんたたち壊れてるんじゃないの?」


 紗雪は口をとがらせるとジト目でゴーレムたちを見て、大きく息をついた。


 ここまでやって反応がないなら普通に強行突破でいいのではないか、と思った紗雪は、


「じゃあ、通してもらうわよ!」


 そう言ってピョンピョンと軽やかに跳ねながらゴーレムの間を通ろうとした。


 刹那、ゴーレムの目が激しく輝き、激しい咆哮が火山の峰々にこだまする。


 きゃあ!


 紗雪は急いで距離を取ろうとしたが、ゴーレムが口から発したレーザーを胸のところに浴びてしまった。


 もんどりうって倒れる紗雪。


 あぁぁ!


 英斗は思わず飛び出してしまいそうになるのをレヴィアに制止される。


「さ、紗雪ぃ!」


 英斗は震える手を力なく紗雪の方に伸ばした。


「大丈夫じゃ。あ奴のジャケットなら致命傷にはならん」


 レヴィアは英斗の腕をガシッとつかみながら諭す。


 果たして、紗雪はピョンと跳びあがり、痛む胸を押さえながらゴーレムをにらんだ。


 ゴーレムは地響きをたてながら前進し、また口をパカッと開く。


 紗雪はジグザグにピョンピョンと跳びながら後退していき、ゴーレムたちの撃ってくるレーザーを上手く避けていく。


「こ、こっちよ! このノロマ!」


 紗雪は痛そうに胸をさすりながら虚勢を張り、さらに後退し、大きな岩の裏に隠れる。


 ゴーレムは土煙を派手に上げながら巨体を揺らし、一歩ずつ紗雪を目指しながらレーザーを次々と放った。紗雪の隠れている岩は次々と爆発を起こしながら少しずつ削れていく。


「紗雪ぃ……」


 英斗は手を組んで、泣きそうになりながら紗雪の無事を祈った。


「何やっとる! 行くぞ!」


 レヴィアは紗雪のことはお構いなしに洞窟へと行こうとする。


「待って! 紗雪が……」


 追い詰められている紗雪を見捨てて先を急ぐ。それは確かに正解かもしれない。しかし、どんなに正解でも英斗には荷の重い決断だった。


「お主は馬鹿か! 何のため紗雪が頑張ってると思っとるのか? 紗雪の献身を無駄にするのか?」


 くぅぅ……。


 ゴーレムたちの総攻撃を受けて隠れている岩はどんどんと小さくなっている。紗雪は逃げられるのだろうか?


 しかし、ここで助太刀に入れば洞窟侵入すら怪しくなるのは避けられない。


 英斗はギリッと奥歯を鳴らし、自然に湧いてきた涙をぬぐうとタニアを抱きかかえ、レヴィアにうなずいた。

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