31. 禍々しきドーム

 コホン!


 咳払いが聞こえ、二人はハッとしてあわてて離れる。


「今、パワーアップは必要ないぞ。悪いがヘルスチェックの時間じゃ」


 レヴィアはニヤニヤしながら、言った。


 二人は真っ赤になってモジモジとしている。


「お、魔王の拠点が見えるじゃないか!」


 レヴィアはそう言って遠くの山の方を指さした。


 二人は驚き、指の指す方を見る。


 そこには、水色にボーっと輝いているドーム状のものが小さく見えた。それは遠くの山脈の切れ目に、まるでイルミネーションのような鮮やかな彩りを与えている。


「えっ? あれ……、ですか?」


 英斗は弱い近視を補うように目を細め、必死に目を凝らしながら聞く。


「さよう。あの水色は巨大シールドじゃな。火山丸ごと覆っておるんじゃ」


「シールド……?」


「物理攻撃を一切通さない厄介な膜じゃな。そんな長時間維持はできんと思うんじゃが、今回は我々にも時間がない。面倒な話じゃよ」


 レヴィアは肩をすくめる。


「ど、どうやって突破するんですか?」


「今、工作隊が秘かにトンネルを掘っている。明日の朝には内部に到達するからそれからがお主らの出番じゃ」


 レヴィアはニヤリと笑って二人を見る。


「魔王は……、あの中にいるんですね?」


 紗雪は眉をひそめながら聞く。その顔には重すぎる任務に対する悲壮感が浮かんでいた。


 核攻撃も辞さない深刻な人類の敵、そして逆転の手がかりを握る中年男。それが鉄壁な守りを展開する火山に立てこもっている。とても一筋縄ではいきそうにない。


 紗雪は美しい顔を曇らせ、ため息をついてうなだれる。


 英斗はそんな紗雪の肩をポンポンと叩き、


「僕がついてる。一緒に行こう」


 と、言いながら優しくハグをした。



        ◇



 翌朝、タニアを含めた一行はレヴィアの背に乗って火山を目指す――――。


 レヴィアは力強く飛び上がると、バサッバサッと巨大な翼をはばたかせ、朝の冷たい空気を切り裂きながら一気に高度を上げていった。


 みるみる小さくなっていくエクソダス。上空から見ると巨大なパラボラのノズルスカートの形がよく分かり、宇宙船の形をしているのが良く見えた。今度は死に戻りではなくちゃんと戻ってきたいと思いながらも、ミッションの難易度はむしろ前回より高く、気が重くなる英斗だった。


 英斗は大きくため息をつき、抱えたタニアの頭をなでながら、昇ってくる真っ赤な太陽を渋い顔で眺めた。


 ふと見ると、紗雪はそんな英斗をジッと心配そうに見つめている。


 英斗は、失敗したと思い、慌ててグッとサムアップして無理に笑顔を作る。


 自分なんかより前衛の紗雪の方が圧倒的に不安は大きいはずだ。自分が士気を下げるようなことをしてはならないと、英斗は気合を入れなおした。


 レヴィアは力強く羽ばたくと雲を抜け、さらに高度を上げながら眩しい朝日を浴びながら火山を目指し飛んでいく。


 タニアは飛んでいく大きな鳥の群れを見つけて指さし、キャハッ! と嬉しそうな歓声を上げて英斗を見上げる。


 英斗はそんなタニアの頭をそっとなで、マシュマロのようなプニプニのほっぺたを軽くつまんだ。


 きゃははは!


 タニアは楽しそうに笑い、英斗の心にのしかかる重しをひと時軽く癒したのだった。



        ◇



 火山を見渡せる稜線へと降りてきた一行――――。


 目の前には半透明の巨大なシールドのドームが水色に輝きながら火山全体を覆っている。高さは五キロほどはあるだろうか、その遠近感が狂う圧倒的な大きさに英斗は気おされ、改めて魔王の型破りな技術力、実践力に舌を巻いた。女神と過去にいろいろあったらしいという魔王は、その存在自体が神に近いのかもしれない。


 ズン! ズン! と腹に響く爆発音が響いてくる。


 見下ろすと警護の魔物たちと黄龍隊らしきドラゴンがすでに戦闘を行っている。地下を掘り進んでいる工作隊がバレないようにする陽動作戦なのかもしれない。


 レヴィアはドラゴンのままシールドのドームを忌々しそうに見つめると、


「核融合炉出力最大! 充填でき次第全砲門ポイントAに全力砲撃!」


 と、重低音の声を上げた。エクソダスに通信しているらしい。


 いよいよ始まる魔王討伐の第二弾。倒すだけでよかった前回とは重みが全然違う。


 英斗は稜線を渡る強い風に髪を揺らしながら、キュッと口を結んでこれからの戦闘にブルっと武者震いをした。

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