27. 襲いかかる悪夢
ピッ、ピッ、ピッ――――。
電子音の単調なリズム音が聞こえてきて英斗が目を覚ますと、そこは見知らぬベッドの上だった。
えっ……、あれっ……?
目をこすりながらバッと体を起こした英斗だったが、あちこちから激痛が走る。
「うっ! 痛てててて……」
思わず顔をしかめ硬直する英斗。
「うぅぅぅ……。なんだよこれ……」
腰を押さえながらゆっくりと辺りを見回すと、それは病室のようだった。近未来的なドアの形状からするとエクソダスの中の病院なのかもしれない。
「なんでこんなところに……、あっ!」
ようやく核攻撃を受けて吹き飛ばされたことを思い出した。あの絶望的な状況から生還したらしい。英斗は両手を眺め、傷一つなくきれいないつもの自分の手であることを確認し、小首をかしげた。
確かに身体の節々が痛いので、それなりのダメージを受けているようだったが、傷が一つもないのは不自然だった。エクソダスの医療技術が発達しているということなのだろうか?
隣のベッドを見ると毛布が膨らんでいる。誰かいるようだ。
英斗は体をいたわりながらそっと床に足を下ろし、隣のベッドをのぞいてみる。
それは毛布で顔を隠したショートカットの黒髪の少女だった。きっと紗雪だろう。
「さ、紗雪か?」
声をかけてみると、彼女は毛布をずり上げて隠れてしまった。
「ねぇ、あれから……、どうなったの……かな?」
恐る恐る聞いてみると、もぞもぞと毛布が動き、隙間から手が伸びてきてスマホを差し出してくる。
「ス、スマホ……? 見ろって?」
英斗は怪訝に思いながらもスマホを受け取り、画面を見た。そこには動画が映っている。
再生をタップして英斗は凍り付いた。それは無数の魔物が世界中を破壊しつくしている動画だったのだ。
「え……? これ、本物? 映画とかじゃなくて、リアルなの?」
海から無数の魔物が次々と上陸し、レーザー光線を乱射しながら街を火に包んでいく。
東京上空からのドローン映像では、あっという間に海岸線から上がった火の手がどんどんと内陸に進んでいる様子が見て取れた。それはまるで貪欲な炎が東京を食べつくしていくかのように、炎の津波がゆっくりと、しかし確実に全てを炎に沈めていく。
英斗は凍り付いた。この圧倒的な破壊力に対抗できる力を人類は持ち合わせていない。このままだと人類は滅亡してしまう。
な、何とかしないと……。
しかし、この圧倒的な魔物の攻勢を止められる方法など思いつかなかった。タニアに頼んでまた宇宙からの手で押しつぶしてもらおうかとも思ったが、どこを潰すというのだろうか? 東京を丸ごと押しつぶしてしまったらみんな死んでしまう。
それにこれは録画映像だ。もう全ては終わってしまっているかも知れない。
やがて、炎の波は英斗たちの街も飲みこみ、全てを灰燼に帰していく。
あ……、あぁ……。
英斗はスマホを持つ手が震え、気が遠くなっていく。
パパもママも、友達も、あの住み慣れた我が家もすべてこの世から消えていく。それはとても信じたくない現実だった。
「な、なんだよこれ!」
ポトリ、ポトリと落ちる涙をぬぐいもせず、英斗は叫んだ。
九十万の魔物は地球各地の海の中に隠れており、一気に世界各国の都市を襲い始めたらしい。当然、軍隊も出動したが、圧倒的な数の暴力の前に殲滅され、もはや魔物の破壊を止める方法は残されていなかった。
うっうっ……。
紗雪の毛布が揺れる。
英斗は紗雪の手を取るとギュッと握りしめた。
「もう……、終わりなのよ……、全部終わり。もう生きてる意味なんてないわ!」
激しい悲しみが紗雪から吹き出す。英斗は返す言葉も見つからず、ただ、呆然としながら涙を流していた。
確かにみんな死んでしまったら、どう生きて行ったらいいか全く分からない。勉強したって行く大学も無ければ勤める会社もない。気になるマンガもアニメも続きは二度と作られないし、お気に入りのアーティストももう二度と歌わない。農家も漁師もなく、レストランも無ければお菓子もない。瓦礫の山と化した日本で、世界で、自分たちはどうやって生きていくというのだろうか?
英斗はただゆっくりと紗雪の手をさすった。自分にはもうこんなことしかできなかった。
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