僕たちはその歪みに気付くべきだった。

婆ちゃんの痛み①

「で、でも、これ以上何を捜査するんですかね？　もう、麻浦先輩の裏にいる人が誰だか分かったじゃないですか……」

　能登が去った後の相談室は、一気に緊張感が失われた。

　一時はどうなるかと思われたが、何のことはない。

　所詮は能登も、タダの高校生だったようだ。

　結局のところ、ホタカ先生の言うように人が人である以上は、空気に振り回される運命なのかもしれない。

　だからある意味、全ての人間が被害者とも言えるし、加害者でもある。

　誰かが醸成した価値観にタダ乗りして、何となく真剣に生きているつもりになっている。

　それはきっと。麻浦先輩にしても同じなのかもしれない。

　とは言え、だ。

　どうやらそんなことは、実際に起こってしまった事実を見て見ぬフリを決め込んでいい理由にはならないらしい。

　事の真相が少しずつ明るみになる中、小岩はホタカ先生に当然の疑問を投げかける。

「チッチッ！　コイワくん、甘いなー。ノトくんの話を聞く限り、アサウラくんのお父さんは悪徳社労士さんだ！　これは私の勝手な想像だけど、もっとこう、別の薄暗〜い繋がりがあると思うんだよね！」

「へっ！？　そ、そうですか……」

　小岩は、ホタカ先生の言葉に少し慌てたような様子を見せる。

「小岩？　どうした？」

「い、いや！？　何でもないよ！　そ、そうだよね！　確かにホタカ先生の言う通り、かも」

「そ！　だってそうでもないと、アサウラくんのお父さんが児童ポルノに関与する理由がないんだよね。だから言っちゃえば、公金詐欺のグループと児童ポルノの販売グループがお互いの秘密を握り合って、協力し合ってるって感じかな？　お互い裏切られないようにね！」

「じ、じゃあ今度は、その協力者を探すんですね……」

　なるほど。確かにホタカ先生の言う通りかもしれない。

　既に不正を働いている麻浦先輩の父親が、わざわざ別のリスクを好き好んで背負うとは考えにくい。

　しかし、話が込み入り過ぎて、いよいよ頭が混乱しそうになる。

「そこで、だ！　その別の黒幕についてなんだけど……」

　ホタカ先生がそう言いかけた時、突如僕の右ポケットが振動した。

　僕はスマートフォンを取り出し、表示された名前を見てうんざりする。

　それでも僕の親指は、自然と応答へ向かってしまう。

「もしもし」

　僕はこの時、自分の母親から告げられた一言によって、一気に現実に引き戻され、その場に立ち尽くしてしまう。

　そんな僕を不審に思ったのか、ホタカ先生と小岩は顔を覗き込んでくる。

「あの……。天ヶ瀬くん？　どうしたの？」

「婆ちゃんが、急変したって……」