君に恋する理由を教えようか……。
「……
セーラー服姿の彼女を見るのは久しぶりな気がする。
いつもの自分ならスカートからすらりと伸びた白い足に釘付けになっているはずだが、今日の俺はとてもそんなよこしまな気持ちにはとてもなれない……。
乙歌にした仕打ちがとても気まずくて、ただ視線の置き場所に困ってしまったから。
「零お兄ちゃんがこの場所に来てくれて本当に嬉しかったです。だって……」
彼女の言いたいことは、その口ごもった後に続く言葉を聞かなくとも俺には理解出来た。
(零お兄ちゃんが真っ先に向かいたかった場所はあの人の……)
きっと乙歌はそう言いたかったに違いない。だけど彼女の優しさ、俺を責めてはいけないとの配慮からきっと必死に言葉を飲み込んだんだろう……。
「乙歌、俺を心配して留守中に何回も家に足を運んでくれたんだってな、親父から聞いたよ。ははっ、家に帰ってこっぴどく怒られちまったぜ、お前からの着信にも、いや他の誰の電話にも出なくてさ。従兄弟の家に頭を冷やして来いとは話したが、音信不通になれとは言ってないって……。普段はおちゃらけているけど怒るとかなり怖いいだぜ、ウチの親父様は!!」
昔から気まずい雰囲気になるとナマコが自分の内臓を吐いて、外敵から逃げるのと同じで饒舌に話さなくてもいいことをぺらぺらとしゃべる癖はまったく治らないな……。
「
「
「ええっ!? 何で乙歌が麻衣のことを知ってるの!!」
「ふふっ、知っているも何も同じ女子高の先輩後輩の関係ですよ、それにスポーツ系の部活動をやっていて麻衣先輩を知らない生徒はウチの女子高にはいませんから」
そうだ!! 乙歌と麻衣は、同じ君更津南女子高で通称、
「そういえば、零お兄ちゃんが大事そうに抱えている箱は何ですか?」
「ああ、これか、
「またまた冗談ばっかり、零お兄ちゃんのお父さんから先に聞きましたよ。麻衣さんの家にいったから零は必ず大事な箱を持って帰ってくるはずだって……」
なんだ、親父のやつ、先にネタばらしのかよ、これじゃあ面白くないじゃないか。
麻衣が亡くなった俺の母親の部屋で見せたい物といって託してくれた宝物には間違いないが……。
「ああ、これは後でゆっくり説明するよ、麻衣のやつ、そんなに有名人だったのか!?」
慌てて俺は箱から話を逸らした、ちょっとわざとらしかったかな?
「はい、南女ダンス部といえば……」
併設する女子大学を含め有名なお嬢様校である君更津南女子校、
俺の従兄弟の麻衣は乙歌の一学年先輩になる。
乙歌の顔に次第に明るさが戻り、俺にダンス部の
ダンスと言っても色んな分野があり南女ダンス部は創作ダンスの世界で全国的に有名な女子高で、創作ダンスの甲子園とも言える日本高校ダンス部選手権で三連覇を達成しているそうだ。俺は南女ダンス部の凄さに圧倒されてしまった。
そんな凄いダンス部の主将を麻衣は務めているのか……。
「……麻衣先輩と零お兄ちゃんがまさか従兄弟の関係とは夢にも思いませんでした。本当に世間て狭いですね。きっと私と零お兄ちゃんって
嬉しそうに頬を紅潮させる彼女。その笑顔を見ているだけで俺はとても
「結構、麻衣と乙歌は親しい間柄なんだね。やっぱり同じ運動部系だからかな……」
何気ない質問のつもりだった。その言葉を聞いた途端に彼女の顔が曇るのを俺は見落とさなかった。
「……あ、はい、でも違うんです、麻衣先輩にはすごい迷惑を掛けてしまったから」
「麻衣に迷惑って乙歌が!? 良かったら俺にも教えてくれないかな……」
先ほどの彼女の表情の変化が妙に気持ちに引っかかった。
「そ、それは……」
今まで俺を真っ直ぐに見すえていた乙歌の視線が不自然に外される。
彼女が嘘はつけない女の子なのは例の痴漢騒ぎで良く知っている。
何か言いたくない事情があるんだろうか。んっ待てよ。誰かをかばっているんじゃないのか!?
「……もしかして
俺の胸に急速に苦い物がこみ上げてきた。
あのモニターツアーの帰り、電車から偶然見かけた驚くべき光景。
俺の大切な幼馴染、
「……れ、零お兄ちゃん」
乙歌の沈黙が全ての答えを物語っている!!
やっぱりあいつか!? 香坂俊が茜だけでなく従兄弟の麻衣にまでいったい何をしたんだ……。
言い様のないどす黒い怒りが身体中にこみ上げてくる。
「あの野郎は俺から大切なものをすべて奪っていきやがる!!」
もうこの怒りの感情を止められない、怒髪天を突くとはこういうことなのか!?
「零お兄ちゃん!! お願いだから
「お、乙歌……!?」
あの大人しい彼女がここまで激しく感情を
「そして茜さんと俊さんが駅前で一緒にいた
彼女の悲痛な声が君更津中央病院の談話室に響いた。
次回に続く。
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