幼馴染の個人レッスン やすみじかん、そのさん
「こ、この人痴漢です!! 誰か助けて」
……考えうる限り最悪の状況だ。
お嬢様女子校、
『驚かせてごめんなさい!! 私、
そんな甘々展開がラブコメの難聴系主人公にはお約束だよね。
俺は心の隅でそんなラノベみたいな展開をどこか期待していたんだ……。
俺の目の前にいる可憐な美少女が、そんなラノベのヒロインならどんなに良かっただろう。人間は
俺の脳内ではラブコメアドレナリンが自己防衛のためにドクドクと分泌される。この絶体絶命のピンチからなんとかして逃れねば!!
「……ち、違う、痴漢なんかじゃない。君が俺の腕を自分で引っ張ったんだ!!」
俺は慌てて美少女の白いおぱんつに差し込んだままの手を抜こうとした……。
だけどそれは無駄な行動に終わった。
「い、嫌ああっ!! 私の下着から早く手をどけて!!」
俺の腕をセーラー服の両腕で押さえ、がっちりとホールドして離そうとしない。
なぜ彼女はそんなことをするんだ!?
混乱する俺の視界の片隅に電柱に貼られた痴漢防止のポスターが見えた。
【住民のみなさまのご協力が必要です。卑劣な痴漢被害を撲滅しましょう】
今の俺は可憐な女子高生を毒牙に掛ける卑劣な痴漢そのものだった……。
「お前何をやってるんだぁ!! 今すぐその女の子から手を離せ!!」
若い警官が交番前から飛び出してきた。
こちらにむかって激しい罵声を浴びせながら、後ろから俺の身体を羽交い締めにする。抵抗する間もなく固い道路に組み伏せられてしまった。
若い警官は柔道の心得があるのか瞬時に寝技を決められ、俺は人生で初めて絞め落とされる経験をした。
「ち、違う!! 俺は痴漢なんかしていない、この
……薄れゆく意識の中で警官が無線で応援を呼ぶ声が俺の耳に流れ込んできた。
「
*******
その後、俺は最寄りの警察署に連行され事情聴取をされた。未成年でも成人と取り調べ内容は同じだそうだ。
どこか現実感がなくふわふわした気分だ。さっきまで茜と明るく会話しながら登校していたのがまるで嘘みたいに思えてしまう……。
弁護士や黙秘権について聞かれ、目の前の刑事がテレビドラマと同じセリフを口にするのが無性におかしく思えてしまう……。
混乱した頭であの女子高生について考えた。俺には全く面識がない。
だけど彼女は俺の名前を知っていた。そして痴漢の
俺はこの取り調べで自分から絶対に手を出していないと主張も出来る。
だけどそんなことは無駄だと思った、以前親父が俺に言っていたことを思い出す。
『零、なぜお父さんが電車通勤をやめたか分かるか? その意味は車の方が渋滞もあって面倒だが冤罪に怯えなくて済むからだ。これは冗談抜きで半年前にお父さんの同僚が通勤電車で痴漢をして逮捕されたんだ。もちろん会社は
俺の親父、
母親のいない俺を立派に育てること、そして大切な家庭を失わないための努力は惜しまない人だ。
俺がここで無罪を主張しても意味が無い。それ以上に気になったのはあの女の子の表情だ。俺を
『あなたに恨みはないけど、本当にごめんなさい……』
あの時、確かに彼女はそう言っていたんだ。
ぼんやりとそんなことを考えていると、もう一人男性が取調室に入ってきて取り調べの刑事に何か耳打ちをした。
「野獣院零くん、もう帰ってよろしい。手間を取らせてしまったな」
急に態度を軟化させて取り調べの刑事が俺に告げた。何なんだ、この茶番は?
「先ほど相手の女子高生から被害の取り下げがあった。痴漢されたと思ったのは自分の勘違いだったと……」
「帰っていいってそれだけで終わりかよ!?」
俺は無性に腹が立ってしまった。まず謝罪するのが礼儀だろう。すみませんでしたって!! 容疑が晴れて嬉しいはずなのにかなり釈然としない気分だ。
「本来は個人情報になるのでこういう物は普通渡せないんだが、相手の女子高生からたっての希望があった。ここに彼女からの伝言が書いてある。野獣院くんの携帯番号も相手に教えたことをどうか了解して欲しい。君に直接会ってお詫びがしたいそうだ……」
刑事からメモを手渡された。そこには近隣の総合病院の住所と病室の番号、相手の伝言も書き添えてあった。
「……なっ!?」
俺はあの女子高生からの伝言を見て、思わず自分の目を疑ってしまった……。
(先ほどは大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
本来はこちらからお詫びに伺いたいところですが、
打撲と捻挫で下記の病院に入院していますので、ご足労ですが
病室にお越し頂ければ今回の経緯をご説明させて頂きます。
名乗り遅れましたが私は
野獣院さまと同じ高校に通う
な、なんだって!? あの謎の美少女がサッカー部のチャラ男で、俺の天敵である
次回に続く!!
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