金色の魔獣と太陽かもしれない王子
清水らくは
帰れない魔獣
1-1
スキィアは首を傾げた。狙い通り、魔獣たちの足跡を見つけることができた。しかし、その数が予想以上だった。ところどころ木々がなぎ倒され、魔獣たちが大移動していたのがわかる。
これだけの数が、同じ方角に向かっている。あまり聞いたことのない話だ。
ただ、彼は足跡を追うことにした。ここまで来て、手ぶらで帰るわけにはいかないのだ。
しばらく歩みを進めると、森を抜けた。草原が広がっている。足跡は、草原にも刻み込まれていた。
そして。魔獣たちの姿が見えた。すでに何体かは倒れていた。手負いの者もいた。そして多くの魔獣たちは、一体の魔獣と対峙していた。長い牙に大きな角が四本、そして翼がある。金色の毛並みがとても美しかった。
ところどころ怪我をしており、血が流れていた。
「あいつ一人でこんだけと戦ってんのか? やべえな」
赤い魔獣が、金色の魔獣に勢いよくとびかかる。だが、あっさりと叩き落された。
「つええ! けど、肩で息してんな。限界かもしれん」
スキィアは駆けだした。どちらに正義があるかなど、知りもしない。そもそも魔獣は、すべてが狩る対象だ。しかしスキィアは、心の中ですぐに決断を下すことができた。「あいつを見殺しにするのはつまんねえ!」
予想外の闖入者に、魔獣たちが一斉にスキィアの方を向いた。スキィアの手には、柄の長い剣、トゥガイハンダーが握られていた。
「お前、なんだ」
魔獣の一人が、姿勢を低くして尋ねた。
「敵だ! 決まってんだろ」
魔獣の体を刃が両断する。驚いていた魔獣たちも、スキィアに対して攻撃態勢をとった。
「おい、金色! 助けてやるからお前も狩れ」
「訳が分からないが、言われなくてもそうする」
スキィアは次々に剣で魔獣を仕留め、金色の魔獣も爪や牙を使って敵を倒した。しばらくして、敵はすべて倒された。
「いやー、相変わらず俺強い!」
スキィアは剣を地面に突き刺し、両手を天に突き上げた。
「お前は何者だ」
金色の魔獣は、地面にべったりと座っている。体力を使い果たしたのである。
「俺の名はスキィア。で、あんたは?」
「人間に助けられた上に名を聞かれるとは。私はヒレンソだ」
「ヒレンソさんね。なんでまた魔獣同士でやってたわけ」
「私は群れることを拒んだ。彼らのもとを離れひっそり暮らそうと思ったが、追われていたようだ」
「なるほどねえ。裏切者扱いってわけだ。しかし強いから多数で攻められたと」
「そんなところだ」
「そういうのね、たぎっちゃうわけよ。だから助太刀っちゃった」
「すけだ……?」
「いやね、本当は魔獣倒すのが仕事なわけよ。でもヒレンソさん見た瞬間に、あ、と思ったわけ。かっこいい感じの奴だって」
「それはどうも」
ヒレンソは頭を下げた。金色の髪が風になびく。
「行くあてはあんの?」
「そんなものはない」
「そっか。あのさ、二つ、俺の願い聞いてみない?」
「なんだ」
「この魔獣たちさ、俺が倒したことにしてくんない? 実績になるんだよね」
「勝手にすればいい。私にとってはどうでもいいことだ」
「うひょー、一度にこんなに狩った奴いねーよな。次にさ、俺と一緒に戦わない?」
「はあ? どういうことだ」
「俺はさ、わけあって魔獣倒すのが仕事なわけ。でもさ、会うだけで大変だし、正直勝てるとは限らねえわけで。あんたがいれば心強いし、あんたを追ってくる魔獣に会えそうだし」
「私も魔獣だぞ。狩る対象ではないのか」
スキィアはヒレンソに歩み寄り、その背中を撫でた。
「今ならいけるかもねえ。でもさ、万全の状態なら俺に負けねえだろ、あんた」
「そうかもしれない」
「今がチャンスってわけだ。でも、俺はそうしない。なんかさ、そうしない方が面白そうだから」
「不思議な理由だ」
「そう? でも、面白いの大事だぜ。特に俺は14年ぐらい、何も面白いことなかったんだ。今取り返さねえと」
「そういうものか」
「そういうものなの。命を助けたことになるだろうしさ、取引ってことでどうよ?」
「助けてもらったのは事実だ。わかった。一緒に行ってやろう」
「やったぜ! これで俺の仕事もはかどる」
「しかし人間と魔獣が協力するなど聞いたことがない」
「そう? まあ、俺はそもそも人間にカウントされているのかね? 『太陽を殺した者』って呼ばれてるんだぜ」
「なかなかそそる異名だ」
「はは、そういう感性? でもさ、その太陽ってのが占いで言われてた王子でさ、実際には双子の弟だけが生きてたっていうさ、やばい話なんだよ」
「王子なのか?」
「そう。王子なの。オーラ出てる? でもね、太陽を殺したとして、世間には姫として周知されてたの。だから俺のことは、みんな知らない」
「ふうむ。大変だったのだな」
「ま、人並みにね。あんたの話も聞かせろよな」
「面白いことなどないぞ。群れを抜けるときに兄たちも殺したというぐらいしか」
「いいじゃん、クール!」
スキィアは大声を出して笑った。ヒレンソは知らなかったが、スキィアが心から笑うのは数年ぶりのことだった。
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