落ちこぼれの魔法使い見習いが不老不死になれる伝説の薬を探してただけなのに、変態薬草師に(色々な意味で)襲われた挙句、一緒に薬の素材を探す冒険に行く羽目になったんだが!?

ランド

第1話 洞窟にて

 人里より十数キロ程度離れた場所にある、何の変哲もない森林。

 その中心付近には、洞窟が一つ、怪しげに構えてある。

 その洞窟の入り口を覗くと、緩やかな傾斜が広がっており、どこまでも続いて見える暗闇へと手招きしているようにさえ見える。

 百年ほど前には、多くの冒険者が毎日のように訪れていたのだが、今や近隣に住む人間ですら近寄ろうとはしない。

 しかし――


 ――カツン、カツン。


 静かな洞窟の中に、小さな足音が、場違いだと言わんばかりに響いている。

 足音の主は、揺れる松明にぼんやりと照らされ、まるで暗闇に浮かんでいるかのように見える。


 それは、一人の少年であった。


 鮮やかだったはずの金髪はすっかりくすみ、宝石のような緑色の目も、疲れに染まりきっていた――。




 ……きつい。

 肺が痛いし、胃も痛い。

 だが、今の僕には、そんなことを気にしている余裕はない。

 あと、もう少し……!


「……あった!」


 あまりの疲れにしかめっぱなしだった顔が、パァッと明るく染まる。

 洞窟の最奥まで進んで、ようやく見つけ出した、小さな石製の扉。

 恐らく、この中に、僕が探していたものが……!

 ……いや、喜ぶにはまだ早い。

 まだ、中に何があるのかを確認していないのだから。

 喜ぶのは、その後だ。


「よいっしょっと……!!」


 血管が浮き出るほど力を籠め、ようやく扉を開いた。


「……あ」


 無意識のうちに、声がこぼれ出る。

 視界の中心にあるのは、古びた小さな壺。

 ……これが、これこそが、僕の探していたものだ……!!

 あった、あった!!


 あまりの嬉しさに飛びつきそうになるのを、なんとか抑え込む。

 ……よし、落ち着け、落ち着くんだ。

 そう自分に言い聞かせつつ、明らかに緊張している腕で、静かに壺を持ち上げる。


 ――チャポン。


 確かに聞こえた水音に、心の中で大きなガッツポーズを取る。

 もはや、疑いようがない。

 これで僕は、ようやく――


「おや、先客がいたのか」


 !?

 背後から突然響いてきた、謎の声。

 驚愕し、見開いたままの目を声の主の方へ向ける。

 そこにいたのは、白髪紫眼の女性だった。

 ……誰だ?

 見覚えはないが、僕の邪魔をするつもりなら……!

 そう考えるが早いか、腰に差してあった鉄製の杖に手を伸ばした。


「残念。もう遅いよ」


 ――パキッ。


 眉間に何かが当たり、小さな破裂音が鳴った。

 その瞬間、辺りに緑色の粉末が舞い出した。


「うっ!?」


 なんだ、これ!?

 って、あ、やばっ……。

 全身から力が抜けていき、へなへなと地面に座り込んでしまった。


「うんうん、今日もシビレヅタちゃんの毒は快調だね。あ、君も、無駄に抵抗なんてしないで、早めに気を失ったほうが苦しくないよ」


 最後の抵抗として抱えていた壺を、あっさりと取り上げられながら、耳元でそう囁かれる。


「うん、中身はまだ残っているみたいだね」


 満足げな笑みを浮かべる女を見て、謎の確信を得た。

 この女は、僕と同じ目的を持っている人間だ。

 だが、なぜ?

 なんで、アレ・・の存在を知っているんだ?

 あり得ない。

 あり得ないのに……。

 ああ、くそっ、意識がまとまらない。

 バラバラと霧散していく思考の中、必死に腕を伸ばし、奴の足首に指をひっかけた。

 あと、もう少し、だった、のに……。

 悔しさに涙をにじませながら、僕は意識を手放してしまった。






「……ようやく気絶してくれたか。さてさて、この子、どうしようかな。まさか、このまま放置って訳にもいかないし……。……ハァ」

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