●書籍化決定！スキル授与神官の最強村づくり～「外れスキルを授けたお前は左遷だ！」と辺境の地に追いやられた少年神官。 村人に神スキルを授与し伝説の村を作り上げてしまう。

第51話 決戦開始

「ククク。仲良く葬ってくれよう。それで邪魔者はいなくなる」

　黒水晶を飲み込み、魔物の姿へと変わったドライド。

　その姿を見上げながらミリィが呆然と呟く。

「り、リドさん……。ドライド枢機卿がモンスターみたいな見た目に……」

　既に石柱の何本かは崩れ去っており、ドライドの巨体からは見る者をすくませるような圧が放たれていた。

「古い文献で見たミノタウロスみたいですわ。それにしても大きいですが……」

「ギガントードの時と同じだね。どうやら、黒水晶を取り込むことで変化したみたいだ」

　リドとエレナもまた揃ってドライドの姿を見上げ、どう対処すべきかを思案する。

「へっ。ドライドの野郎が自分の目的やら価値観やらについて大層に語っちゃいたが、要はアイツを倒せば四角く収まるってことだ。分かりやすくていいじゃないか、相棒」

「そうだねシルキー。四角じゃなくて丸だけどね」

　シルキーの言葉に指摘を入れつつも、リドはアロンの杖を握り直して臨戦態勢を取った。

「それなら、先制攻撃だ――」

　リドはそのまま神器解放を唱え、アロンの杖から無数の光弾を射出する。

　放たれた光弾は弧を描き、カイザードラゴンを仕留めた時と同じようにドライドの巨体を四方から襲った。

「やった……！」

　全ての光弾がドライドに着弾し、もうもうと粉塵が舞う中でミリィが歓声を上げる。

　が――。

「フフフ、大した威力だ。カイザードラゴンを倒しただけのことはある。しかし、私は倒せないよ」

「……っ」

　これまで凶悪なモンスターを何体も退けてきたリドの得意攻撃。

　しかしその結果はいつもと異なっていた。

　土煙が晴れると、そこには攻撃前と変わらない姿でドライドが立っている。

「これは、一筋縄じゃいきそうにないね……」

「全く効いていないわけじゃ無さそうだがな」

　リドは一度態勢を立て直し、改めてドライドの姿を注視した。

　カイザードラゴンのように弱点があるならばそこを突くべきなのだろうが、全方位から光弾を受けたはずのドライドの様子を見ても、特に損傷が著しい箇所は見受けられない。

「次はこちらから行くよ」

　今度はドライドがその巨大な前腕を振り回してきた。

　単純な攻撃ではあったが、その威力は絶大。

　地下神殿の石柱ごとリドたちの場所を吹き飛ばそうと迫ってくる。

「くっ……！」

　リドたちはどうにか攻撃の範囲外へと逃れ、ドライドと距離を取った。

「みんな、怪我はない？」

「だ、大丈夫です」

「見た目通りというか、当たったらマズそうですわね……」

　折れた石柱の陰へと隠れて互いの無事を確認するリドたち。

　直撃すれば石柱と同じような運命を辿るだろうということは、容易に想像がつく。

「ドライド枢機卿、中々に手強そうな相手ですわね」

「でも、みんなで力を合わせて戦えば――」

　ミリィが拳を握り、声をかけたその時だった。

「――っ！　ミリィさんっ！」

「きゃあっ！？」

　エレナが咄嗟に剣を振るうと、ミリィの眼前で甲高い金属音を響かせながら何かが弾け合う。

　それは投擲（とうてき）された短剣だった。

　エレナがもし剣を振るっていなければミリィに深い傷を負わせていただろう。

「チィッ――」

　離れた位置で苦い表情を浮かべていたのはユーリアだ。

　どうやら間隙（かんげき）を縫って攻撃を仕掛けてきたらしい。

「ミリィ、大丈夫！？」

「は、はい、リドさん。エレナさんのおかげで何とか」

　リドがミリィを立たせる傍ら、エレナが怒りの表情を浮かべていた。

　油断なく剣を構えたままで見据えると、ユーリアもそれに応じて素早く別の短剣を取り出す。

「横槍を入れてくるなんて良い度胸ですわね。オバサン」

「オバ……」

「邪魔をしようというのなら私が相手になりますわよ」

　エレナの言葉を受けたユーリアは、鬼の形相でエレナを睨（ね）めつける。

　対してリドの戦いを邪魔させたくなかったエレナは、引きつけが上手くいったことに笑みを浮かべていた。

「エレナさん、私も手伝います。地上から伸びている植物もありますし、力になれるはずです。二人であのオバサンを倒しましょう！」

　この時ミリィが放った言葉はエレナに釣られたからで、悪意は無かった。無かったが、その言葉をユーリアは挑発と捉えたらしい。

「おのれ……。絶対に殺す」

　より一層の憎悪を浮かべ、ユーリアは二人の少女たちに照準を合わせる。

「ミリィさん、やりますわね」

「え、ええと……？」

　自覚の無いミリィを見て嘆息するエレナ。

　しかしすぐに気を取り直し、リドへと声をかけた。

「ということですわ、師匠。あのオバサンは私とミリィさんが引き受けます」

「お任せくださいリドさん。リドさんから授かったスキルもありますから」

「……分かった。二人とも、無茶しないでね」

「おっし。あのデカブツは吾輩たちでぶっ倒してやろうぜ、相棒！」

　互いに頷き合い、散り散りになるリドたち。

　そうして、リドとシルキー、エレナとミリィという形で分かれると、各々が自分たちの敵と相対した。