第18話 新しい生活の始まり?


「ミリィ! そっち行ったよ!」

「はい、リドさん!」


 ラストア村の外れにある森の中にて。

 リドとミリィは村の田畑を荒らしているモンスターがいると聞きつけ、討伐に出かけていた。


 猪型のモンスター「ワイルドボア」が小さく咆哮した後、ミリィ目掛けて突進してくる。

 ミリィの頭の上にはシルキーが乗っており、「上手くやれよ」と声をかけていた。


 ワイルドボアの数は三体。小柄ながら鋭いツノを持ち、攻撃を受ければひとたまりもないと思わせる程の勢いがある。

 ミリィはリドから事前に教えられていた通りの行動を取るべく、近くの樹木に素早く近づき、そして唱えた。


「植物さん、力を貸してください。――《堅枝の矢雨ブランチアロー》!」


 ――ブゴォッ!?


 ミリィが唱えると、接近していたワイルドボアの頭上から大量の枝が降り注ぐ。

 それはただの枝ではなく、鋭く尖った先端がさながら矢のようでもある。


 リドがミリィに授与したスキル――【植物王の加護】について指南したことにより可能になった攻撃方法だ。


 枝の矢が三体のワイルドボアをもれなく貫き、見事ミリィはモンスターの群れの撃退に成功した。


「やった……!」

「おお、中々良い動きではないかミリィ。ただのむっつりシスターだと思っていたのに、吾輩はちょっぴり見直したぞ」

「ふふん。私も小さい頃からこの辺の野山を駆け回ってましたからね。運動はけっこう得意なんですよ。……ってシルちゃん、その呼び方は恥ずかしいからやめてぇ」


 得意げにしたすぐ後で、ミリィは両手で顔を覆った。


「でも、本当に動き良かったよミリィ。スキルの使い方もバッチリだ」

「あ、ありがとうございます。リドさんに色々と教えてもらったおかげです」

「【植物王の加護】は植物の形状や性能を変えたりできるからね。植物のある場所ならこうして戦うこともできると思う。どんな植物かによってできることが異なるから、特徴とかを知らないといけないけど」

「それは私、自信があります! お花とか大好きですし!」


 リドに褒められたことで復活したのか、ミリィは目を輝かせて意気込む。

 ころころと表情を変えてせわしない奴だと、シルキーがミリィの頭上で一つ息をついた。


   ***


「おーい、リドさーん」

「あ、皆さん。そちらも終わったんですね」


 リドたちがラストア村の入り口まで来ると、外に出ていた村人たちも戻ってくるところだった。


 近くに来た村人の一人が、台車に乗せられたワイルドボアを見つけて声をかけてくる。


「おお、リドさんたちも大量だな。これだけのワイルドボアを短時間で仕留めてくるなんて、流石だぜ。肉にも当分困らねえな」

「全部は乗せられなかったんですけど、けっこう持ち帰れました。今回はミリィも頑張ってくれたんですよ」

「ちなみに、リドさんは私の十倍くらい倒してました」

「おおぅ……。それはまあ、リドさんだもんな」

「皆さんも、かなり収穫があったみたいですね?」


 村人たちと言葉を交わしながら、リドは遅れてやって来た台車へと目を向ける。

 その上には、巨大な翼竜の頭部が乗っていた。


「おう、今日はちょっと遠出してみてな。はぐれワイバーンを見つけたんだが、みんなでかかったら討伐できたぜ。さすがに全部は持ち帰れなかったが」

「それは凄いですね。これだけ大きなワイバーンを狩るなんて」

「いやいや、何を言ってるんだ。これもみんな、リドさんが俺たちに規格外のスキルを授与してくれたからだよ。前までワイルドボア一頭に四苦八苦してたんだからな」

「皆さんのお役に立てているようで何よりです」

「まったく、俺たちみたいな普通の村人がワイバーンを狩れるようになるなんてなぁ……」


 リドと話していた村人が感慨深そうに頷く。

 普通であれば傭兵や冒険者を雇ったりして討伐しなければいけないモンスターを、自分たちで処理できているのだから無理もない。


「しかし、ワイバーンの頭部が無傷で取れるなんて、運が良かったな」

「頭が取れると何か良いことあるのか?」


 ミリィの頭の上に鎮座していたシルキーが、村人の言葉に対して問いかける。


「ああ、ワイバーンの頭を兜焼きにすると旨いんだよ。普通は討伐が難しいからけっこう希少なんだぜ?」

「ほう、旨いのか。それは良いことを聞いた」

「この調子でワイバーンが狩れるなら、ラストア村の名産になるかもな」

「それは良いですね。行商とかできたら経済的にも潤うでしょうし」

「おお、それは名案だなリドさん。後でカナン村長に掛け合ってみよう」


 そんな会話をしながらリドたちは台車を引いて村の中央広場へと歩いていく。


 その途中、リドと会話をしていた村人がかしこまった様子で呟いた。


「なあリドさん。俺たち、本当にリドさんには感謝してるよ」

「え、改まってどうされたんです?」

「いや、リドさんが来てくれなかったら村人の大半は鉱害病でやられてただろ? それに最近モンスターの出没も活発化しているし、もしかしたらこの村は生き残れなかったかもしれねえ」

「それは……」

「鉱山があるドーウェルなんかと違って、この村にはなーんにもねえ。領主になりたがる貴族もいない、辺境の小さな村だ」

「……」

「それでも俺たちにとっちゃたった一つの故郷だからな。だから、ここを守ってくれたリドさんには本当に感謝してるんだ。ありがとう」

「い、いえ。そんな……」

「と、ちょうど村長がいるな。俺、さっきの行商の案を相談してくるよ」


 リドと話していた村人はそう言い残し、中央広場にいたカナン村長の元へと駆け出していった。



「……」


 感謝したいのは自分の方だと、リドは思った。

 先日ミリィの姉であるラナと話していた通り、自分を受け入れてくれたリドにとってもこの村は特別な場所だったから――。


「でも、嬉しいね。あんな風に喜んでもらえると」

「ふふ。リドさんにはみんなが感謝してますよ。もちろん私もですけど」

「ありがとうミリィ。左遷されて来た身だけど、僕はこの村が好きだな」

「そう言ってもらえると私も嬉しいです。でも、左遷されてから始まる生活もまたあると思いますよ」

「そうだね……。うん、ミリィの言う通りだ。よし、僕ももっともっと頑張ろう! この村で新しい人生を始めるんだ!」


 ミリィと言葉を交わしながらリドもまた歩いていく。

 新たな土地での生活を充実したものにしようと、決意して。



 そうしてカナン村長の元へと辿り着くと、何やら人だかりができていた。


 カナン村長はリドの姿を認め、開口一番で呟く。


「リド殿……。この村に、廃村命令が下されました……」

「…………え?」


 リドとミリィ、それにシルキーまでもが揃って目を見開いた。

 そして――。


「えぇえええええええええっ――!?」


 小さな村に絶叫が響き渡る。


 どうやら、リドの新しい人生は早々に危機を迎えたらしかった。


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