第4話 天授の儀
リドたちが突然倒れたラナを連れ、ラストア村の教会に移動すると、そこには多くの人が横たわっていた。
その場にいた人間の腕や足には、共通して青い斑点が浮かんでいる。
「これは……」
「病に
リドにそう説明したのは、村に到着した際にラナと一緒にいたカナン村長だった。
事前にミリィから聞いていた通り、ラストア村の住人の大半が謎の病に倒れているらしい。
「回復系のスキルを持った人は村にいないんですか? 魔法などは……」
リドの問いに対してカナン村長は静かに首を振る。
「回復魔法も試してみたのですが、少しの効果も表れず……。通常の治療薬でも同じ状況でして」
「そう、ですか……」
カナン村長は悲痛な表情を浮かべると、床に横たえられたラナを見て呟く。
「ラナも病に罹っていて、本来あそこまで動けんはずなのですが。姉妹揃って無茶なことを……」
「お姉ちゃん……」
「はは……。心配するな、ミリィ。少し、休めば良くなるさ」
言葉とは裏腹にラナは
ラナの浮かべた笑顔が妹を心配させないための強がりであることは誰の目にも明らかだった。
「お姉ちゃん、これを飲んで」
ミリィは採ってきた大型の薬草の一部を
そしてしばし時間を置いたのだが……。
「うっ……。ゲホ、ゴホッ!」
ラナは苦しそうに呻き、激しく咳き込む。
ミリィが採取した上質な薬草をもってしても、ラナには快復の兆しが見られないように感じられた。
「この薬草でも駄目なんて……。一体どうしたら……」
「打つ手なしか……」
ミリィがその場にへたり込み、カナン村長は悔しそうに
このままラナを始めとした村人たちが衰弱していくのを見ていることしかできないのか、と。ミリィは自身の無力感に手をきつく握る。
「――いや、手はある」
そんな中にあって、しかしリドははっきりと断言した。
「ほ、本当ですか、リドさん?」
「うん」
「それは、一体どんな……」
「僕がミリィに《天授の儀》を行うんだ。もちろん、君が良ければだけど」
天授の儀――。
神官のみが行える、スキルという異能の力を授かるための儀式だ。
どのようなスキルを授かれるかは神官の技量が影響すると言われているが、謎も多い。
原理や法則性は元より、そもそもなぜ神官のみが天授の儀を行えるのか、他の人間との差異は何なのか等、未だ解明に至っていない要素は多々ある。
けれど今、ミリィにとってそんなことはどうだって良かった。
ただ必要なのは、自分の大切な人たちを救うための手段とその行使。
ミリィは緊張気味に、けれど意志のこもった顔で頷いた。
「お願いします。それでお姉ちゃんやみんなを救うスキルを授かる可能性があるのなら」
「……分かった。それじゃあ、僕の方に背を向けてほしい」
「はい」
膝を曲げて腰を落とし、ミリィは胸の前で両手を組む。
まさしく修道女が捧げる祈りの姿勢だ。
それはシスターであるミリィが村の平穏を願い、何度となく繰り返してきた所作だったが、今はリド・ヘイワースという少年神官がいる点において異なっていた。
リドがミリィの背中に手を添えて何事かを唱え始めると、周囲に光の粒子が漂い始める。
そんな二人を遠巻きに見ながらカナン村長が言葉を漏らした。
「しかし、天授の儀で授かることのできるスキルはたった一つだけのはず。リド殿がミリィに天授の儀を行ったとしても、都合良くこの状況に即したスキルを授かることなどできるのでしょうか?」
「ふっふっふ。その不安は分かるがよ、じっちゃん。リドなら大丈夫だ。心配無料ってやつさ」
「……ええと。もしかして心配無用ですかな、シルキー殿」
「そうそれ。まあとにかく、大丈夫さ」
「は、はぁ」
シルキーが言って、カナン村長は天授の儀を行っている二人の方へと視線を戻す。
直後、その現象は起きた。
「え――? り、リドさん。これは……」
目の前に広がった光景にミリィが
空間を埋め尽くすのではないかという量の文字列が、そこには表示されていたのだ。
「これが今、ミリィに授与可能なスキルだ。この中にあるものならどれでも選んでスキル授与できるよ」
「う、嘘……。こんな、百以上はありますよ? そもそも天授の儀でスキルが選べるなんて、聞いたことが……」
「おお、これは神の
リドが告げた事実に、ミリィとカナン村長が驚嘆の声を上げる。
「【精霊召喚】や【全自動狙撃】、【爆裂火炎魔法】のスキルまで……。どれもが一級品のスキルばかり……」
天授の儀によってもたらされるスキルは神聖文字という特殊な言語で表示され、それらの文字には「色」が付いている。
一般的に「白」は低級。「青」や「緑」が中級で、「赤」なら滅多にお目にかかることのできない上級スキル、というのが定説だ。
赤文字のレアスキルを一度でも発現させたことのある神官には、もれなく天授の儀の依頼が殺到し大きな栄誉が与えられる、といった話は少なくない。
かつて、毎度のように赤文字のスキルを授ける神官が現れた際には、その神官の滞在した街が聖地として認められたという逸話もある程だ。
――しかし、リドが発現させたスキルの中には、それらどれにも当てはまらない色の文字列があった。
「これだけあれば……」
リドは表示された様々なスキルを目で追っていく。
そして、見つける。
「あった……! これなら――」
リドが両手を交差させて広げると、文字列の中から一つのスキルが拡大される。
その文字は、金色に輝いていた――。
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