第三章
第9話 アラフォー、足止めを食らう
「困りましたね」
「ああ」
セレファニスタに向けてメタラシアを離れ2日。折角シャドウステップで早く移動したというのに私たちは山の麓で足止めを食らっていた。この山にデビルドラゴンが出たらしく危険なため道が封鎖されているのだ。麓にも魔力の影響で魔物が湧いている。麓の村は危機的だ。幸い冒険者がよく通る場所ではあるためクエストとして魔物討伐が組まれているのが救いだろう。
「デビルドラゴン……Sランクの魔物ですからね……王都から精鋭が派遣されているらしいですが」
「冒険者ランクが高ければ通れるんだが」
Cランクは低いランクというわけではない。だが相手が相手、A以上なければダメだという。大人しく待つか? いや……
「シャドウステップで夜に乗り込もう。精鋭が派遣されて一週間は経つんだろう? 何か嫌な予感もするしな」
「言うと思いました。今日の夜に出ましょう。それまで……」
致そう。もはや昼間に致すのは習慣だ。そして毎日飽きない。
——夜
「では行きましょう」
人目につかないところに出てシャドウステップを開始。ゲートを迂回し山の斜面を移動。アイナのシャドウステップも様になってきた。山頂まではすぐだろう。
——
「これはマズいんじゃないか?」
岩陰から見ると三人パーティがデビルドラゴンと戦っている。デビルドラゴンは夜以外では結界を張ってしまい手が出せない。そして夜には強化されてしまう。そこに強烈な光魔法の照射で弱体化を図っている……そこまではいい。だがそれでもデビルドラゴンにあのパーティは押されている。前衛の剣士が吹き飛ばされているのか弓使いがデビルドラゴンをひきつけ、後衛がなんとか防御に回れているが後一撃でももらったら……
「くっ、やるしかない!」
「了解です!」
——パリンッ
光球を弾丸で破壊。闇を作り出し、一瞬だけ動きを止める。
「『ダークチェーン』!」
——
「ダークチェーン」
対象を拘束する闇の鎖。
——
とりあえず100本。気休めだろうが逃げる時間を稼げればそれでいい。
「アイナ、剣士を回収して!」
「やりました!」
後は……!
「ちょっと荒っぽいけどごめんよ!」
弓使いと術師を両脇に抱えてシャドウステップ。とにかく離れられるだけ離れる!
——
「はぁ……ここまで降りれば」
「なんとか、ですね」
「しかし、まさか……あの時の三人だったとは」
私がイレイナの街でパーティを離れた三人組。それが王都の精鋭として出向いていたのだ。何という巡り合わせか。
「おじさんに借りができちゃったわね」
「うう、ありがとうですぅ」
「礼などいいさ。それよりアイリの様子はどうだ?」
「意識がありませんね……呼吸と鼓動はありますが外傷と骨折が……」
見た限り複数箇所に怪我をしている。特に大きいのは腹部の傷だ。早く治さなければ……
「セラフ、治せないのか? マナポーションならあるが」
「あの怪我を治すには光聖力が必要ですぅ……」
聞くに光聖力は普通の薬で回復するものではなく特定の場所に行くか自然回復を待つしかないらしい。
「むむ……」
「ねぇ、何か方法はないの?」
シルフィも困り顔だ。このままではアイリの命が尽きるだろう。アレを使うか?
「セラフ、シルフィ。アイリを治す方法はある。だけど代償もある。それを受け入れられるか?」
二人は少し迷ったが同意してくれた。やるしかあるまい。
「『ダークヒール』」
——
「ダークヒール」
対象の最大生命力を代償にあらゆる傷病を治癒する。
——
傷が治っていく。だが同時に最大生命力がどんどん減る。前衛としてはある意味致命的だがこの場を凌ぐにはこれしかない。
「ん……ここは」
アイリが目覚めた。上手くいったらしい。
野営しながら話を聞くに、アイリたちは私と離れた後、私が取ったルートとは別のルートで王都に向かったらしい。ギフト持ちである以上並の冒険者よりは遥かに強く王都でもSランク冒険者として躍進しているそうだ。
しかし……アイリたちが勝てない相手となると私も骨が折れそうだ。デビルドラゴンはこのまま放置すれば確実に災害を巻き起こす。
「アイナ、いけるか?」
「はい! いつでも!」
「まさか二人で相手取る気か? 無謀だぞ」
「なーに、上手くやるさ」
まだ夜だ。シャドウステップで向かおう。
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